main 06
電話番号もゲットしたし早速電話しちゃうぞー、とやたら高いテンションで公衆電話に向かってみたところ、電話番号押し終わる前に意味のない羞恥心に襲われた。馬鹿じゃねェの。
相手はすぐに出た。
「あ、もしもし。坂井です」
『もしもしー。また訊きたい事?』
「あーいや。割とノリで電話したんですけど……貴方の声が聴きたかった、の!」
途中で裏声に無理が出た。
『最初に本音言われるとなぁ……。どうせだから家、来ない?』
「お、たらしっぽい。口説き慣れてます?」
『いや、初経験。で、どうする?』
「行きます」
まあそんな感じに話して、吉沢さん家に向かう。
今日は呼び鈴を押したら「勝手に上がって」と叫ばれるパターンだった。遠慮なく上がって軽く挨拶してソファに座る。
「いや、来てくれて良かった。君から俺に連絡するのはいくらでも出来るんだけど、俺から君に連絡する手段がないからさ。ええと、訊きたい事があるんだけど、いい?」
どうぞ、と促す。彼は微笑んだまま、重要な事を尋ねてきた。
「明って誰?」
出されていた珈琲に口をつける。……ふぅん、やっぱり気になるか。
「あれ? 名乗られませんでした?」
「依頼人は匿名希望でね」
「ジェーン・ドゥでもいいんです?」
「金払ってくれれば問題なし。で? 君とはどういう関係?」
「顔見知りです」
決して嘘ではない。と思うのだが、どうも納得してくれなかったらしい。何となくそんな雰囲気だが、それ以上は追及してこなかった。
表情を変えずに、彼は言う。
「前にさ、俺の攻撃避けたじゃん? アレ、リセットね」
しまった、と台詞を理解するよりも腹に右ストレートが食い込む方が早かった。残念な感じの声が漏れる。ソファに座っていた御蔭で、背中への被害がないのが不幸中の幸い、という所だろうか。
「ハハ、当たって良かったよ。コレで避けられたら相当格好悪いよね」
「抱かれたいくらい格好良いですよ。もうこっちは熱くてしょうがないんですよね、脚が」
御返しに、腹を蹴り飛ばしてやろうと両足を揃えて蹴り出すが、後ろに跳んで回避される。相手が接近する前に立ち上がり、突き出される右腕を蹴り飛ばす。上手く当たれば骨折くらいする力で蹴ったのだが、掠った程度で終わる。また距離を取られたので、余裕が出来た。左手を床について、右脚は腰元を狙って、左足は足首を狙って蹴る。両足を曲げて跳び、避けられる。そのまま腹に乗られた。抵抗せずに、ソファを枕に寝転がるような体制。
「……このアパート、防音そこまで良くないですよね?」
「あー。まあ何とかなると思うよ」
「ええと、何処で俺を殺すんです?」
「どっかの廃屋で殺して、川に流そうかなぁって」
「成程、辻褄合わせですね」
いや、死体の状態的に辻褄は合いそうもないが。
「ええと、命乞いは聴いて貰えます?」
「聴くだけなら」
良かった、シカトされたらもう諦めるしかなかった。
「ちょっとしたい事があるんで、明との仕事切って俺と組みません?」
「……新手の命乞いだね。それに乗ると思った?」
「ええ、乗ると思っています」
だって、
「知りたいでしょう? 明と俺の関係とかそこらへん。何でアレが俺を死なせたいのか。教えてあげますよ、全部」
勿論特典はこれだけではないのです。
「後オマケに、やりたい事のラストに一つ、楽な仕事を頼みますよ。因みに、幾らくらいだったら嬉しいです?」
「足元見て、百五十万」
「倍出しましょう」
「……参りました。乗った」
そう言って、立ち上がって手を差し伸べる吉沢さん。「大丈夫?」なんて優しい声音で訊いてくるが、原因はアンタだ。
「さっきから非道いですね、女の腹ばっか攻めて」
「いや、胸から上は駄目かなって」
微妙に紳士的な事を言って、珈琲を一気飲みしてやがる。
「じゃ、約束通り、色々話して貰おうか」
勿論、と呟いて、わざとらしく間を取る。
「明は俺の──」
最後隠したのは少しでも後で読者の皆様を吃驚させる為です。少しセコい気もします。




