main 04
適当に人気のない道を選びながら散歩していたら、ラブラドールっぽい黒い犬と吉沢さんの夢の有無が判別し難い戦いが数メートル先で繰り広げられていた。ちょっと離れた所から眼鏡の有難さを噛み締めながら、その戦いを眺めていたら何とトミナさんが吉沢さんに殺人予告した。 犯罪者だ! お巡りさーん! という冗談を脳内で再生していた。お巡りさんは大分前に呼ぶべきだろう。具体的には、父親の死体を目撃した時。んでもって第三の男登場。何あの中ボス臭。吉沢さんが笑えない顔をして逃げ出した。二人共逃がす気なんだなぁと思っていたがトミナさんは気付いていなかっただけらしい。大丈夫かあの人。
以上、俺の登場までのダイジェストでした。第四の人物として現れようと、挨拶をする。二人にはスルーされた。犬だけは此方を向いた。そういや俺は耳が良かったな。人間的なレベルで。まあお話中じゃなかったら聴こえてるだろう、と結論を出して歩み寄りながら声を張り上げた。
「こーんにーちはー」
トミナさんは反射的に、飼い主さんはゆっくりとこっちを向いた。トミナさんの笑顔が引き攣った。そして、飼い主さんは俺に一言。
「いつから?」
省略された質問。省略し過ぎ。
いつから見ていたのか、という重大な内容。
気紛れに、嘘偽りなく答えてやろう。
「茶髪のお兄さんがその犬に男の人襲わせてる所から」
「Eat」
飼い主さんは即座に命令を下す。トミナさんは顔色を変えた。本名を聞かれた、とか思っているのだろう。残念な事に、元から知っていたのだが。犬は此方に駆けてきた。狙いは首ではなく足首らしい。なので、少しだけ右足を上げて、爪先を咥えさせた。俺の脚を一切拒む事なく、牙を立てブーツの表面を裂く。犬は何度も口を動かした。良く洗えばダメージ加工したブーツと言い晴れるだろうか。そんなモン見た事ないけど。
「……え?」
飼い主さんが目を丸くして、息を漏らす。さっさと気付けよ。犬も、飼い主も。
「安全靴って知ってます?」
あまり食われ続けるのも落ち着かない。咥え込んだままなのを幸いに、右足を上げ、思い切り振り下ろす。やっと俺の右脚を解放してくれたが、こちらは解放する気はない。犬の背に乗った。
「Come here」
飼い主さんの命令を聞いて、犬がゆっくりと起き上がる。乗りっぱなしなのも流石に気が引けるし、正直バランスを取り続ける自信もないので飛び降りた。ブーツは流石に御洒落じゃ済まない程滅茶苦茶になった。
飼い主さんは犬の背と足を撫でる。飼い主さんの安堵したような溜息を聴きながら、走り出す。「Eat」という飼い主さんの焦ったような声に即座に犬が反応した。相手が跳び上がる前に、片足で犬の頭を踏み付ける。俺以外では人間で一番状況が理解出来ているトミナさんが飼い主さんの前に立ち、ナイフを構えた。跳び蹴りの予定だったが、ナイフ持った殺人鬼の相手は難しい。斜め前に跳び込む。両手で全体重を支えている状態で、二人と一匹を確認。飼い主さんは俺のこの体勢を好機と思っているみたいだ。自分で殴り合いとか出来るタイプじゃなさそうだな、この人。
トミナさんが苦笑して、飼い主さんに話し掛ける。
「ブリーダー。ワンコ止めて」
「Come here. でも何で?」
飼い主さんは、先程吉沢さんがトミナさんを呼んでた名前でいいらしい。ブリーダー、ね。分かりやすい。
「この前その子を素手で殺そうとした事あるんだけど、負けちゃって」
「……負けた? お前が?」
殺そうとした、をスルーな辺り、世も末だ。
「じゃあこの人を殺すのは諦める。いいか?」
「うーん。まあ、またの機会に」
「……いけるか?」
「もう一匹連れてくりゃいいだろ」
この男達勝手だなぁ、とは思うが口に出さない。眼鏡の位置を直しながら、男二人と犬一匹を見送った。
一番気になったのはブリーダーさんを見たときの吉沢さんの反応。
明日にでも、吉沢さんに会いに行こう。
安全靴、ぶっちゃけどんなのかあんま知らない申し訳ないです。




