放送そして異世界へ
放送部。
それは文化祭や体育祭で活躍し、昼の放送を担当し、時には全校朝礼の司会進行までこなす学校には欠かせない存在だ。
だが、その実態を知る者は少ない。
放送部の仕事は大きく二つ。
声を届けるアナウンス担当と、それを支える機械担当だ。
どちらか一方が欠ければ放送は成り立たない。
そして俺――相馬拓海は、その機械担当だった。アナウンスと違い機械は目立たない。
だが、放送部にとって機械の役割は大きく、音量の調整やミュージックをかけたりと。影からアナウンスを目立たせる、映像作品でいう演出部分だ。
「拓海ー、次の放送の原稿これでいいかな?」
放送室の扉が勢いよく開いた。
入ってきたのは放送部部長の北条柚波。
肩まで伸びた髪を揺らしながら、手に持った原稿をひらひらと振る。
「んー……まあ問題ないんじゃないか」
「なんか適当じゃない?」
「俺は機械担当だからな」
「部員としての意見を求めてるの!」
柚波は頬を膨らませた。
放送部員は俺と柚波を含めて数人いるが、放課後前の校内放送はいつも俺たち二人が担当している。自分で言うのも何だが、顧問や教職員たちの信頼はかなり厚い。
放送の時間が来ると柚波が話し、俺が機械を操作する。
それがいつもの形だった。
放送開始まで残り十分。
俺はミキサー卓の電源を確認しながらヘッドホンを耳に当てた。
その時だった。
――ザザッ。
小さなノイズが聞こえた。
「……?」
機材の不調か。
古い設備だから珍しくはない。
だが、何かがおかしい。
ノイズの中に、声のようなものが混じっている。
遠くから誰かが話しているような。
そんな奇妙な音だった。
「どうしたの?」
柚波が俺の肩越しに覗き込む。
「いや、ノイズが入ってる」
「また?」
「いつものとは違う」
俺は音量を上げた。
ザザッ……ザァァァ……
ノイズが大きくなる。
そしてその奥から。
まるで誰かが囁くような声が聞こえた。
『――聞こえるか』
思わず背筋が凍った。
「今の聞いたか?」
「え?」
「声だよ」
「何も聞こえなかったけど……」
柚波が不思議そうな顔をする。
聞き間違いか。
そう思った次の瞬間。
マイクの先端が淡く光った。
「拓海……?」
「触るな!」
叫ぶより早く。放送室中のスピーカーが一斉に鳴り響いた。
耳に突き刺すような轟音。
眩しぐらいに白い光。
そして視界が飲み込まれる。
◇
気が付くと。
俺は草の上に倒れていた。
「いてて……」
身体を起こす。
見渡す限りの草原。
学校どころか建物一つ見当たらない。
「拓海!」
少し離れた場所から柚波の声がした。
無事らしい。
俺は安堵しながら立ち上がる。
だが次の瞬間、その安堵は吹き飛んだ。
空を巨大な影が横切った。
見上げる。
翼を広げた巨大な生物。
伝説でしか見たことのない姿。
「……ドラゴン?」
思わず呟く。
さらに遠くの森では、小柄な緑色の生物たちが獲物を担いで走っていた。
ゲームで何度も見た姿。
「ゴブリン……だよな」
柚波が俺の隣まで駆け寄る。
そして空を見上げたまま。
「ねえ拓海」
「なんだ」
「これってさ……」
一拍置いて。
柚波はどこか楽しそうに笑った。
「異世界ってやつじゃない?」
こうして。
放送部部長・北条柚波と、副部長・相馬拓海の。
世界を変える放送が始まった。
遂に始まりました。異世界放送部の物語。異世界と放送というテーマは数年前に考えておりました。本来は、R18の予定でしたが、趣旨を変えて一般のジャンルにしました。
自分の中で、目標がありそれを達成できたら、長期投稿したいと考えています。




