新年舞踏会(3)
会場を見回してもオデットやアリッテルは見つからない。
アリッテルは、魔力のコントロールの訓練中であるし、もしかしたら安全を考えて帰ったのかもしれない。
オデットは最近実家の神殿の信徒も増えて、先ほどメルクリニが見かけたときは人に囲まれていたようだった。
3人で談笑していると、そこへふと近寄る男性が。
「良い夜ですね、ミズリィ嬢」
金髪の、すこし長く切りそろえた、背の高い貴族。
温和な緑色の目に、少し目元にしわができている。濃い青色のコートは美しい光沢だった。
「まあ、ごきげんよう、アズウォルト叔父様」
アズウォルト・ケルケニー侯爵。
ミズリィの父の弟、つまり叔父だ。
ペトーキオ公爵家前当主と第一夫人との間に生まれた、ミズリィの父ロンバルドの実の弟。
ロンバルドは幼い頃にすでに公爵の後継ぎとして指名されて、あまり年の離れていない弟のアズウォルトは、教育機関に入る年頃に母方のケルケニー侯爵家に養子になった。
今では侯爵となり、こうやって姪として親しくしてもらっている。
叔父は性格のとおりの柔らかい笑みを浮かべて、
「ご友人との語らいの最中に失礼。挨拶をしたかったが、タイミングが見つからなくてだな」
「いいえ、こちらこそ、ご挨拶が遅れましたわ。
イワン、メリー、こちらはケルケニー侯爵。わたくしの叔父にあたる方ですわ。叔父様、こちら、わたくしの学院の友人の、イワン・ビリビオ。こちらが、メルクリニ・ハウスグレン。それぞれ、家門はご存知でしょう?」
「銀行家のご子息か。一度小さな頃にお会いしたが、忘れているだろう。はじめまして、ビリビオ子爵にはお世話になっているよ」
「光栄です」
「ハウスグレン嬢、お父上のご活躍は有名だ。貴方も騎士を目指しているのかな」
「はい。まだ未熟ですが、父のような立派な騎士となるよう努力しております」
にこにこと、父によく似た顔で、父はあまりしないような表情の侯爵。
ちょっとくすぐったいような気分で、ミズリィは小さく笑った。
「お邪魔をした。この後も楽しんで」
「はい。叔父様も」
本当に挨拶だけで、さっと人の間に紛れてしまった。
奥様や、ミルリィと同い年の息子のお話も聞きたかったのだけれども。
「お気を使わせてしまったかな」
「うむ、離れるタイミングが分からなかった」
「いいえ、本当にご挨拶だけのおつもりだったのでしょう。お忙しい方ですわ」
父は皇宮魔術師団の団長で、やはり挨拶に忙しいけれど、叔父も社交界では名の知れた工場と商館の持ち主だ。
「しかし、やはりご兄弟だな。公爵様とよく似たお顔だ」
「表情はいつも冷静な公爵様とは全然違ってるけどな」
「やっぱりそう思いますのね?わたくしはいつもお会いするたびに、なんだかそわそわしてしまって……」
イワンとメルクリニは一緒に吹き出した。
「たしかに!」
「私も、もしご兄弟揃っていらっしゃったら平静でいられるか分からないぞ。ミズリィも大変だな」
「お分かりになって?」
妹のミルリィもたまに笑ってしまいそうになっているのを、淑女の卵として必死に堪えている時がある。微笑ましくて見ていると、拗ねたりするのだ。
「ああ、曲が終わる」
ふと拍手が聞こえてきた。
通りかかった給仕にグラスを預けたイワンが、
「せっかくだし、踊ろうか」
そろそろと、周囲の人たちがまたミズリィを注目し始めたのに、イワンたちも気づいていた。
気を使ってくれたのだろう。イワンはあまりダンスが上手くなくて好きでもないのに、こうやって誘ってくれるのは、きっとミズリィの次の相手にと押しかけてくる男性たちからかばってくれたのだろう。
「ああ、それがいい」
メルクリニも頷いて、彼女は踊る気がないようで離れていった。せっかくのドレスなのに、もったいないと思うけれど、気がのらないのなら仕方がない。
かなり向こうにだけれど、オデットがパートナーに手を引かれてホールの真ん中へと移動しているのが見えた。お相手は、彼女の従兄の伯爵令息だったはずだ。
「足は踏まないと思う」
ちょっと緊張したようなイワンに、ミズリィは笑って手を差し出した。




