ミズリィ予言する(2)
「流行りの……商売ですか?」
スミレは不思議そうに繰り返した。
「商売というより、事業だね。みんな躍起になって投資してる」
「投資?」
「ああ、聞いたことがある、港だろう、パトベリアの」
思い出した、とメルクリニ。
「海の向こうのパトベリア王国が、新しい港を作るんだ。作ってるのが大きな商団の……ええと」
「アップルアロー商団さ、パトベリアが母体の、大商団。新しい港を一大拠点にするつもりらしい」
イワンはちょっと苦笑した。
「商売敵……とは言わないけれど、支店も帝都にあるし手広くやってる中に銀行があってね……」
「国外にルートがある銀行ともなると、ビリビオ銀行には目の上のたんこぶだな」
メルクリニがにやりと笑う。それにイワンは軽く片手をあげてみせた。
「まったくさ。で、アップルアローがその港からの船の積み荷を優先的に売ってもらえる権利を、売り出したんだ。一昨年の……春からだったかな」
「なるほど、それで投資なんですね」
スミレは細かく頷いている。
ミズリィにはうまく飲み込めなかった。
たまに聞く、投資というものがわからないのだった。
何度か説明されたけれど、聞いたそばから分からなくなっていって、お金を増やす仕組みだということだけ、覚えた。
「どういうことですの?」
ミズリィの様子に気づいたスミレは、紫の髪を揺らして振り返った。
「商品を先に売ってもらえる権利をもらえる、つまり、新しいものが誰よりも先に手に入るんですね、分かりますか?」
「え、ええ」
「珍しいものや良いものはすぐに高値で売れます。けれど、次にもし同じものが入ってきても、同じようには売れません」
「そうなのです?」
「もう見たことがあって、珍しくはないですから、あまり人の目を惹かないんです。売れるペースも、値段も下がっていきます」
「そうかも……しれませんわね」
「それなら最初にその珍しいものを手に入れた人が、一番儲かるでしょう?そうやって、自分の将来商売を有利にすすめるために、先に商品を売って貰える権利を手に入れます、商団にお金を払って。そのお金、何に使われると思います?」
「商団に、払われるお金……ですわよね。ええと……」
「港は未完成だろう?」
メルクリニがもどかしそうに声をかけてきた。
「ああ、港!港の工事費ですのね!」
「そういうことです」
スミレは指を一本立ててくるくると回した。
「港を作るお金が欲しくて、そういう商品販売優先権を売ったんですね」
なんとなく、分かったような。
(いえ、だめですわやっぱり……)
イワンがまた腕を組んだ。
「だが、工事は順調と聞いたんだけどな。何か起こったのか?調べてみるか……」
「しかし、家を傾けるほどの投資とはな」
そう、結局投資とはどんなものなのか。
優先権?港の工事?
「ノプライアン公爵と、エッセ伯爵が乗り気でね、周りは遅れるなーって」
「なるほど……流行りってのも大げさじゃないと」
「ペトーキオ家は公爵閣下が堅実だから、そういうのはいっさいしないんだよなー。フラワーデン公爵も、もしアップルアローに投資していても、理性的な金額だろうし」
「うちはやっていたか確認しますわ……」
「ああ、ちょっと乗せられやすそうなお父様だったわねぇ……」
堅実だからしない?乗せられやすかったからやった?
「ともかく、春頃とは言いつつ、なにか起こっていたらコトだ。うちも損失は出したくないし、調べるよ……それでもし、その何かを防げたら、未来が変わってしまうんだが、メリー?」
「さすがにそれは文句は言わない……」
(勇気を振り絞るのですわ、ミズリィ・ペトーキオ!)
「あ、あの!」
思いきり大きな声になってしまった。
全員がミズリィに注目する。
人の目がミズリィに集まるのはいつものことなのに、今はとても恥ずかしい。
「そ、その。もう一度教えてくださる……?と、投資ってなんですの」




