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最強令嬢の秘密結社  作者: 鹿音二号


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悪魔(3)

「流行り病が、入植地を襲ったの」


まだ未発達の土地で、対策も治療も不十分、一気に流行した病は4千人近くいた人口の半分以上の命を奪ったとも言われている。

その不幸な出来事を――チャンスだと思った枢機卿は、神官が悪魔であり、その流行り病を起こしたのだと主張したのだ。


「そ、そんな馬鹿なこと……」


流行り病で大変なのに、それを、『チャンス』だなんて。

怒りとも悲しみとも言えない、胸に刺さるような痛みがミズリィを襲う。


「当初の狙いの第二のホーリース建国の代わりに、悪魔の討伐を権力闘争のネタにしたってことだね。もちろん、教会や、教会にベッタリの帝国は言葉通り、悪魔が流行り病でアクアエストの人間を滅ぼそうとした、それを教会が暴いて阻止したっていうことになってる。神学や、歴史の授業でもそうさ」


イワンは積んであった書籍を取り、ページをパラパラとめくってテーブルに置く。


「ここ。『アクアエストの悪魔の罪状は、神官へのなりすまし、人々を惑わし支配下に置き、』――入植地の管理は神殿というか、神官の仕事だったみたい――『その生きとし生けるものを生贄に捧げようとした』。さすがに権力闘争の件と経緯を詳しく知っていれば、こんなの出来すぎてるって思うよ」

「逆を言えば、詳しく知らなければおかしいとも思いませんわ」


アリッテルが嫌悪の目でイワンが押さえている歴史書を見ている。


「私は興味がなかったから、それが嘘だとは今まで思ったこともなくってよ……騙されたわけですわね」

「だから、知ること話すことを禁じているわけだ」


アリッテルと同じような表情で、メルクリニ。それにすこしだけスミレが、


「正確には禁じているわけではないですが、帝国や教会では圧倒的に悪魔に関しての資料がなく、司祭様の言うことは絶対とされていますからね」


と、付け足す。


――大神官は処刑された。

神殿はもちろん彼を救おうと色んな方法を取ったが、何より教会の扇動で、アクアエストで親兄弟をなくし、今までの苦労が水の泡と消えた生き残りが、行き場のない怒りと悲しみをその神官へとぶつけたのだ。

処刑と言うより、私刑だったようだ。


「今では、教会側は悲劇が起こり、浄化された土地として聖地としてるし、神殿も……大神官を讃えて聖地扱いは一緒ね。神官が持ち込んだ独自の水のろ過装置……海水を水にする魔導具がほそぼそと動いて、犠牲者のお墓とそれを守る数十人の子孫、教会の司祭が派遣されているだけで、荒野に戻っているわ。ろ過装置もいつ壊れるか分からず、また修繕も不可能らしくて……もってあと数年というところね」


話は、多分ミズリィでも理解が出来た。

けれど、途中からひとつのことで頭が一杯になってちゃんと聞けているかはわからなかった。


「大神官は……悲しくなかったのかしら」


彼のしたことは、善行だった。

なのに、最後は周囲の、自分が助けた人たちに殺されるだなんて。

それを、画策した人が、どこかにいたなんて。


その、悪魔にされた神官は、まったく自分と一緒だった。


「……そうですね」


否定もしなくて、大げさに哀れまず、スミレの静かな声を聞いて、じわりと涙が出てきた。

久しぶりに、処刑されたときのことを思い出してしまった。他人とは思えない、その神殿の聖人のことを思う。


こぼれる涙を止めようと手で押さえても止まらない。

すっと横からハンカチが差し出されて、思わず受け取ってしまった。


「あ、りがとう」


メルクリニが困ったような笑みを浮かべて、床に膝をついていた。


「聞かせてくれるか。いったいなんで君がそんなに泣いているか。助けるって、どういうことだ」

「……ええ」


そう、今度こそ、『悪魔』になんかならない。



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