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最強令嬢の秘密結社  作者: 鹿音二号


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ティーサロンの宴

 揺られてきた装飾の素晴らしい馬車の扉を開き、待ち構えていた正装したドアマンに手を取られて降りる。

 そのスミレの目の先にあるのは、高級そうな構えの店だ。本当なら一生来ないようなところで、そのドアの形を見ただけでめまいがしそう。


 こんな立派な馬車で送迎されて、立派な店に入ることになり、貴族の令嬢のように扱われることに慣れていないスミレは、体がカチコチだった。


「こんなにすぐにまたドレスが必要になるとは思いませんでした……」


 紫のシンプルなドレスだけれど、きっと値段は一生働いても買えるかどうかの代物だ。さらに、公爵令嬢からうきうきと貸し与えられたダイヤのネックレスとミンクの毛皮のショール。


「あら、もっと作ってもいいと思うのだけれど」


 上機嫌に馬車から降りてきたミズリィは、スミレの頭からつま先までを満足そうな目で眺めて、微笑む。

 その彼女は、公爵令嬢にふさわしい、白の総レースのドレスだ。まばゆい銀糸の刺繍が細かくなされて、きれいでため息が出る。

 そのドレスに負けない、少女の面影が残っていながら際立つ美貌。

 少し冷たい印象を与える紫の瞳は、けれど楽しみです! と、言わんばかりに緩んでいる。


「さあ、参りましょう」


 店の短いスロープを登り、ドアマンがお辞儀をしながら飴色の扉を開く。


「やあ、主役のお出ましだ」


 声を真っ先にかけてきたのは、このティーパーティーの主催であるイワンだった。

 入り口に構えていたらしく、黒いコートにシルバーのベスト、紫色の珍しい花をラペルに挿して、明るい茶色の髪をなでつける念の入れよう。細身で少し大人びているから、とても似合っている。


「お招き感謝いたしますわ」

「恐縮です……」


 堂々と、ぎこちなく、それぞれ腰を折るふたりに、イワンは胸に手を当ててお辞儀をする。


「ま、どうせ身内しかいないんだ、くつろいでくれよ、特にスミレ」

「は、ハイ……」


 本当に、身内と言われたその通りで、今日のこの高級サロンを貸し切って集まるのは、学院で毎日顔を合わせている友人ばかりだ。


 イワンが主催し、オデット、メルクリニ、そして、ミズリィ。

 本来ならこの貴族の子女たちにスミレごときが混じってはいけない気がするけれど、もう仲間だと認識されてしまって――そして、とても、居心地が良かった。


 一ヶ月前までは考えられなかった、優しい友人たちとの学院生活。

 まだ平民に対する風当たりが強いし、とんでもない問題――ミズリィと帝国の未来に関する重大な――があるけれども、今はこの数年で一番楽しい生活を送っていると断言できる。


「うわあ……」


 店内は、広い。

 シックな内装で、けれど明り取りの窓が大きくステンドグラスまである。中央にシャンデリアが下がって、装飾は控えめだった。インテリアは品が良く落ち着いていて、以前連れて行ってもらった流行りのカフェよりこちらの方が好きだった。

 並んだテーブルには、山のような料理が載っている。


(すご……これが帝国一のお金持ちの力……!)


 実際子爵でありながら財力は皇家を超えているのではと噂されるビリビオ家の、嫡男だ。他の国ならばとっくに公爵を叙爵されているのではと言われているが、このホーリース帝国では、貴族の地位は魔力で決まる。強くもなければ弱くもないビリビオ家は、次の代でも子爵と決まっていた。


「まずは、ミズリィ嬢に謝らせてくれ」


 イワンは挨拶がてら、先のミズリィへの失礼を謝る。

 スミレも合わせて頭を下げた。


 ――オデットが、厄介な貴族に狙われていたことを、ミズリィに知らせていなかった。


 まさか、公爵家の令嬢の前で暴力沙汰を起こす貴族がいるとは思わず、オデットがミズリィと一緒に行動していれば大丈夫だろうと安易に考えていた。

 しかし、先日、よりによって学院内で、ミズリィの目の前でオデットが襲われた。それを助けて犯人を捕らえたのもミズリィだ。


 ミズリィに余計な心配をさせたくないというのは、仲間全員の共通の考えだった。


 彼女は、生粋の公女だった。

 暗いところも悪いところも知らずに、輝かしい栄光の社会にしかいたことがない。

 本当なら、それでいい。ミズリィ・ペトーキオ公爵令嬢はまっさらで、何もかもを与えられているのだから。


 そのままでいてほしいという、そうであるべきだと、勝手に決めていたのだ、一番の友人たちが。


 そして、イワンなら、スミレと同じく無意識に思ったはずだ――ミズリィに話して、解決するのだろうかと。


 友人が聞いて呆れる。


(ミズリィ様を信用していなかった)


 結果は、この通り。

 何も知らないミズリィはオデットを守り、自分だけが友人の危機を知らなかったことに怒っていた。

 当たり前だ、仲間はずれなのだから。


「過ぎたことですわ」


 そして、ミズリィは優しい。


「けれど、もう絶対にこんなことはしないでくださるかしら……とても、悲しかったわ」

「もちろん、約束する」


 イワンが、真剣に言う。

 それに鷹揚に頷いて、ミズリィは扇子に口元を隠して笑う。


「なら、いいですわ。さあ、お茶が冷めてしまいますわ」

「ああっと、もうひとつ」


 イワンが慌てて近くの給仕に声をかけた。


「……ゲストがいるんだ」

「ゲスト?」

「まあ、誰かしら」


 スミレも知らなかったが、ミズリィも、他の二人も知らなかったようだ。

 イワンは微妙な顔をしている。甘いと思って口に入れたら味がしなかったような、そんな顔だ。


「――僕は噂だけだったから、まさかあんな子供だとは思って、」

「まあああ!子供ではありませんわよ!失礼ですわっ!」


 ばーん!と扉の開く音と一緒に、奥から現れたのは……大きなクマだった。

 ぬいぐるみだ、濃い茶色のビロードの体に濃藍色のベストとシルクハットをつけている。瞳は赤い宝石のようなくりっと美しい色だった。


 そのくまの影から、ひょこりと顔を出したのが小さな愛らしい少女だった。

 蜜のような金髪を巻き、丸い頬と赤い大きな瞳。ドレスは濃い桃色のフリルのたくさんついたワンピースの裾が……けれど、クマでほとんど見えない。


「ああああああ」


 大声が上がった、悲鳴にも近い。

 いつもふんわりと笑っている、オデット嬢だ。


「アリッテル!」

「まあ、アリッテル嬢」


 オデットは走って少女に向かい、ミズリィはにこにことそれを眺めている。


「なんと、どこから連れてきたんだ。まさか誘拐――」


 メルクリニは驚いたように大きく……わざとらしく目を見開いてイワンを振り返る。


「なんでだよ! 正式に招待状を送ったさ! まったく、進学コースに編入するっていうから、君たちも嬉しいだろうって」

「まあ、そうなの? わたくしたちと一緒のクラスになるのね!」

「あ、あのう、私はぜんぜん知らなくて……」


 学院にいる生徒ということなんだろうけれど、それにしては小さい……10歳くらいだろうか?貴族の令嬢だろうけれど。


「ああ、例の侯爵家の夜会で……」

「! ああ、彼女ですか」


 オデットが狙われるきっかけになってしまった事件だ。

 なるほど、特に、オデットの……彼女の反応が怖いくらいだ。


「アリッテル! 心配したのよ? もう平気なの?」

「ちょ、抱きつくのをおやめなさい!ひゃっ、何を」

「アリッテルーーー!」

「誰でもいいからこの人はずしてくれませんこと!?」

「あーオデット、そのへんで。怪しい人になっているぞ」


 メルクリニがかなり強い力でベリっと剥がして、ようやく動けるようになったアリッテルはパタパタと走ってミズリィの後ろに隠れた――その彼女の後ろに、クマがついてくる。


 浮いている。


「――!?」

「……どなた?」


 驚くスミレに、大きな丸い目が疑うように見上げてくる。

 イワンは頭を抱えている。


「ああもう、だいなしだよ! ほらオデット! 座ろう!」

「ああん、アリッテルぅ」

「く、なんて力だ……」


 メルクリニがオデットの腕を掴んでいるが、騎士の訓練をしているはずの彼女が踏ん張って身動きが取れていない。


「腕輪は、もうしていらっしゃらないのね?」

「ええ、おかげさまで、ですわ」


 ミズリィの問いかけに、アリッテルは子供らしい笑顔で答えている。


「良かったですわ」


 ミズリィがほっとしたように笑って、アリッテルの小さな手を取る。


「さあ、皆さま、お茶を始めましょう」


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