父の心、子知らず
side .アルト
「おやおや、セレナは結構ヤンチャだね。リック卿も苦労しそうだ」
「いいんですか、アルト様。ヴァイオレット家の長女を闇ギルドに関わらせて」
誰よりも信用できる有能な秘書であるハワードはとても心配そうにしていた。
「闇ギルドと言ってもそこのボスは信用できる人だし、関わって損のない人だから問題はないよ」
「しかし」
ハワードの心配も分かる。
セレナは確かにヴァイオレット公爵家の長女だ。本来ならば世間の荒波に揉まれることもなく、世界の汚さも知らずに育つはずの子だ。
アマリリスのように。
カゴに閉じ込められ、閉じ込められていることにすら気づかずに一生を終えるのが貴族の女性に生まれた者の運命であり、我々貴族男性の傲慢さの結果だろう。
だがどういうわけかセレナは生まれた時から違った。
初めてあの子を見た時に、あの子の目を見て違和感を覚えた。何も知らない無垢な赤ん坊の目とはかけ離れ、何も写してはいない、既に諦めるということを知っているような、深い闇のような目をしていた。
どういうふうに育つのだろうと思い暫く観察をしていた。
アマリリスがあの子を怖がり、避けるのも分かる。
血の繋がらないローズマリーを実の娘の代用品にしたがる理由も分かる。
アマリリスとは住む世界の違う存在。決して相容れることのない住人なのだから。どうして彼女がそんなふうに生まれてしまったのか分からない。
けれど、セレナがヴァイオレット公爵家にとって不利になることはないだろう。ならば今のところは放置する。
彼女も私に自身の正体が知れることを拒んでいるようだし。
それだけ信用されていないのだろう。悲しくはない。
彼女のような特殊な人間はそれだけ警戒心が強くなければ困る。
誰かれ信じては身の破滅を招くだけだ。そんな無能が公爵家の跡取りでは困る。
「セレナならどんな局面でも上手く切り抜けられるさ。暫くは様子を見よう」
「アルト様がそう仰るのなら」
さて、これはどうしようかな。
私は手元の書類に視線を落とした。
王家からセレナに対する婚約の打診が届いていた。相手は第一王子であるエヴァンだ。二人は確かに親しい仲だとは聞いている。けれどセレナは今のところエヴァン王子に恋愛的な感情はなさそうだ。
王家が欲しているのはヴァイオレット公爵家が持つ財産や商人の繋がりだろう。
我が家としても王妃を輩出することになるし、エヴァン王子は誠実で真面目な人柄だから相手に不足はない。
ないが。
まぁ、そんなに急いで結果を出す必要もない。
エヴァンとセレナの婚約に損はないが、それによる利益も別にない。
だから私は王家から届いた婚約の書簡をゴミ箱に捨てた。
「よろしいのですか」
「ああ。決めるのはセレナだからね」
最近、セレナが拾ってきたティグルという青年も優秀だと聞いている。もし彼が頭角を表し、セレナを望むのならそれでも問題はないと私は考えている。身分なんてどうにでもなるし。
それにセレナはただの貴族令嬢でおさまる子でもないし。
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