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短編集  作者: 第八天龍王 七七七百印麗院


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45/50

罪と罰の因果関係

 その男は、世界の裏側で詐欺師として生計を立てていた。


「何か、最近、腹が下り気味だなぁ……」


 男は腹の下りが、『天罰の一種』である事に気が付かなかった。

 それでも詐欺師を辞めない男に、天は更なる天罰を下した。


「……は?」


 生業にしていた詐欺師としての収入が、他ならぬ違う詐欺師に奪われたのだ。


「ちょい待て、洒落にならないぞ!」


 生計を立てるには、口実と共に収入を得ている事に対する税金を支払わねばならなかったのだが、男は詐欺師に奪われる事で税金の支払いも困難になったのだった。


「……まぁ、何とかなるか」


 天罰を甘く見たその男は、詐欺師として目を付けられている事にも気付かずに、更なる詐欺を行ない、ソレの証拠を押さえられ、警察に捕まった。


「チッ!ツイてねぇ!」


 男は、その結果を『ツキ』のせいにした。

 その実は、警察の中の『虎の巻』持ちに因る、輪廻転生の果てに辿り着いた、詐欺師共の証拠押さえの確実化だった。

 実に、詐欺師の9割が初犯から1ヶ月で捕まったのだ。

 ソレは、詐欺師だけに留まらない。

 4億円事件。ソレも、『奪われた札束の証拠』を予め仕込まれ、判明するタイミングも読まれ、1月で逮捕された。


 厄介なのは、『虎の巻』持ちの犯罪者だ。

 だが、『このタイミングはマズい』と云うタイミングで腹を下し、そしてトイレを包囲されて捕まったのだった。

 そして、『虎の巻』持ちの犯罪者は、一様にこの口説き文句を謳われた。即ち、「来世は捕まえる側に回らないか?」と云う、必殺の殺し文句で。

 輪廻を繰り返す度に、警察になる側は増えて行く。

 何しろ、警察になる為の試験対策を、前世で仕込まれるからだ。

 そして、天罰が『下る』事実と共に、こんな殺し文句も謳われた。即ち、『捕まえる側に回ると、下らなくなるぞ』と。

 ただでさえ、公務員。真面目に勤めれば、待遇は良い。ただ、末世になると忙しいと云う側面はあるものの、より幹部の警察になると、『末世の回避』と云う役割を与えられて優遇された。

 事実、『2026年6月6日』と云う、『サタンの数字』に因る破滅の可能性を、彼らは回避して見せた。

 ただ、油断はならない。6年以内の、日本侵攻の可能性の回避に向けて動く、自衛隊幹部と云う立場までのし上がった『虎の巻』持ち達の存在がある。


 そんな役割を担う者たちの危惧は、『辰の巻』持ちの、イジメられ過ぎに因る、破滅の可能性だった。

 事実、ある男の言動を追うと、どう考えても『呪殺』している可能性を疑わざるを得ない。

 だが、現法律では、『呪殺』は罪に問えない。前世でも『呪殺』を罪に問う法律の成立に動いたが、イジメられ過ぎに因る『呪殺』能力の獲得には、情状酌量の余地がある。

 試しに、そんな中の一人に問い詰めた事があったが、『呪殺』した事実は認めたものの、「罰を受けている暇は無い」と、主張するのと同時に、同一のフレーズのBGMが鳴った。

 『コイツらにも責任がある』と言われ、その曲を歌ったミュージシャンにも問い詰めると、同じ答えが返って来た。それどころか、「お前等も無意識に『呪殺』した可能性はある」とまで言われては、罪の問い様も無かった。


 イジメの切っ掛けを防ごうと、『虎の巻』持ち達も対策を練るが、3歳の頃からと言われては、対策出来る『虎の巻』持ちも少なかった。

 そう、少なかった。居なかった訳では無いのだった。


 兎も角、その男へのイジメられ過ぎを防がなくては、2026年か、その後に、日本侵攻が起こるのを防げない。

 犯罪に対策しながら、たった一人へのイジメられ過ぎを防ぐと云うのも無理があった。

 しかし、『虎の巻』持ち達、通称『タイガース』も、とある事実から、その男へのイジメられ過ぎを防ぐのを諦めた。何故ならば、その男はサタンだったからだ。

 サタンならば仕方が無い。そう、安易に見捨てた。

 だが、ソレを防がなくては、日本侵攻を防げない。

 しかし、日本侵攻を防ぐか、ソレに勝てば良いと、『タイガース』はソッチへの対策に動いた。

 何しろ、最初のイジメを防げる『タイガース』は、5歳か17歳。5歳では小学生相手には頼りなく、17歳では小学生に対して大人気(おとなげ)がない。


 しかも、だ。そのサタンは、サタン自身に対して『呪い』を掛けている。防げる『虎の巻』持ちも、彼は自分の死の可能性に関する情報しか持っていなかった。

 更に、そのサタンは、その兄の魂を宿してルシファーと同一人物だった。つまり、『辰』に見えて、『卯』。

 ソレは、同級生にイジメられ過ぎる筈だ。

 兎も角、根本的な対策になるキーパーソンの名を訊けば、『尾』の『キザ野郎』。他は忘れたと云う。

 だが、訊けば保育園児の頃の話。一番近い『タイガース』は、既に小学生だ。自由が利かない。

 本人が悪人かと言えば、前科持ち。但し、精神障がい者で処置入院と云う対処だったと云う。罪状は、『脅迫罪』。しかも、大勢の犠牲者を出している元凶に対して、だった。被害者も、直に人に危害を加えている訳でもなく、罪に問えない。だが、訊けばベルゼブブとのこと。

 犠牲者と云うのも、余りにも縁起の悪い名前故である。そんな罪状では裁けない。

 兎も角、他の深刻な犯罪者に比べれば、些細な存在であると、監視に近い行為はされたが、別に深刻な罪を犯す訳では無い。


 ただ、彼の妄想が酷い。確かに言う通りであれば、日本侵攻は中々避け難い。


 身柄を引き渡してでも日本侵攻を防げればと云うものの、彼へのイジメ過ぎが原因なら、イジメた全員が『プ』の恨みを買っている事になるし、国として、一人とはいえ、身柄を引き渡した上での交渉ともなれば、国として、国民を護ると云う立場が危うくなる。簡単には引き渡せない。

 だが、世界の裏側で罪人に天罰を下していると言われれば、立場は『タイガース』に近い。

 ただ、『ドラゴン』と考えれば、龍虎と並び称される存在だ。だが、サタンも『サタンと云う名のドラゴン』だ。もしかしたら、彼が『サタン』を呪ったのが、想像上の生き物である辰と、寅の間の運命の強さの差だったのかも知れない。


 一方で、『虎の巻』の持ち主たる犯罪者の元締めが、大変な問題人物であった。

 何しろ、犯罪の証拠を立証出来ない。

 繰り返しの人生の記憶で、証拠を押さえられる瞬間の安全は確保していた。

 だが、『辰の巻』持ちの男は、『呪殺』の手段を応用して、『虎の巻』の元締めがトイレで下りに苦しんでいた瞬間に、犯罪の証拠を押さえるに至った。

 だが、『寅魂(トラコン)』を濁して『ドラゴン』である。

 一部の『虎の巻』持ちが『サタンの呪い』に引っ掛かる。

 当然、『タイガース』はその原因を知っていた。

 そして、『水を得た魚』であり『翼を得た虎』である男が、繰り返しに因って『呪い』に耐性を持っていて、サタンの呪いに掛かったまま、暮らしていた。

 彼も、ちょっと違った形でトイレが近かった。

 彼は、精神障がい者になるが故に『タイガース』にはならなかった。

 と云うか、『永劫回帰』に至る原因が彼なのである。

 彼が変えなければ、『永劫回帰』から逃れられない。

 当然、『タイガース』も把握していたが、犯罪者で無いが故に干渉が出来なかった。

 サタンでありルシファーである男は、『天罰が下っている』と認識していた。

 だが、イジメられ過ぎが『サタン化』の原因とあっては、彼の努力目標でソレを回避する事は難しい。

 しかも、『獅子』の産まれなのだ。彼の兄である卯は、獅子に狩られた事になる。

 故の『卯辰』が上がらない原因なのだが、神から成功の可能性の全てを奪われているのでは、手の打ちようも無い。

 と云うか、『神の月』の産まれなのに、『唯一神』に対しては敵対的なのだが、イジメられ過ぎるのでは、『唯一神』を恨んでも仕方が無かった。

 それも、成功の可能性の全てを奪われるレベルのイジメられ過ぎなのだ。

 特に、『Lana(レナ)』が重罪だと彼は言う。

 ちょっと、心当たりが多過ぎて、特定の一人に絞り込みは出来ない。彼も、漫画か何かの登場人物だとも言う。


 彼の言い分で訊けば、『犯罪』に走る選択肢を選ぶ時点で、『頭が悪い』そうだが、確かに、肝心な時に天罰が『下る』のであれば、確かに必ず犯罪者は捕まるだろう。──死んででもいない限り。


 そしてある日、『タイガース』は決定的な矛盾に気付いた。

 彼らが『日本侵攻の回避』と云う大義名分を挙げて動けば動くほど、その歪みは『サタン』の男の腹痛と不運に集約されていく、と。

 『タイガース』の一人が言った。


「訊いたか?あの『サタン』、『呪殺』を辞めて『予言』を始めたらしい」


 幹部の男が語る言葉に、会議室は静まり返る。


 男は、自分に掛けられた『サタンの呪い』と、止まらない下痢の果てに、一つの真実に辿り着いていた。

 彼の『腹が下る』のは、世界中の悪意が彼というフィルターを通過する際の摩擦熱に似た何かなのだ、と云う結末に。


「……で、奴は何と言った?」


「『もう、漏らすモノが何も無い』、と」


 2026年6月6日に予定されていた運命が、その瞬間から、空転し始めた。


 逆転のロジック。男は悟ったのだ。

 神に成功を奪われ、イジメられ抜き、獅子に狩られた卯として生きるなら。いっそ「何もしない」事が最大の反撃になる事に。

 彼が『成功しよう』とするから、神は必死になってソレを阻止する為に世界を歪める。

 彼が『復讐しよう』とするから、『呪殺』の因果が巡る。

 彼が一切の欲を捨て、ただの『精神障がい者のトイレの近い無害の男』として道端に座り込んだ時、彼をイジメる為の理由(シナリオ)がこの世から消滅した。

 『タイガース』が慌てて彼の下に駆け付けると、男はスッキリした顔で公園のベンチに座り込んでいた。

 その傍らには、かつて彼をイジメ抜いた、『尾のキザ野郎』によく似た男が警察官の制服を着て、神妙な面持ちで男に缶コーヒーを差し出していた。


「おい、サタン──いや、お前。一体何をした?」


 幹部の問いに、男は力なく笑って答えた。


「いやぁ、『天罰』って、全部出し切っちゃえばソレで終わりなんですねぇ〜。俺、さっき前世から溜まっていた『運命』を全部トイレに流して来ましたから」


 見れば世界を破滅させる筈の『日本侵攻』の艦隊も、燃料補給忘れ(と云う名の天罰)に因って公海上で立ち往生していた。


 一方、男の兄である『卯』の魂は、あろうことか、『タイガース』の宿敵だった犯罪組織の元締めに憑依して、所持金を弟でもある『自分自身の銀行の口座』にほぼ全額を振り込み、腹痛に便乗して、そのまま成仏してしまったと云う。


「……で、これからの予定は?」


「とりあえず税務署に行きますよ。

 詐欺師が奪ったお金が、何故か『お詫び』として、俺の口座に振り込まれていたので。……被害者に返そうにも、『被害者を装った詐欺師』から請求されかねませんから、被害者に支払ったと云う前例を作る訳にもいきませんし。

 真っ当に相続税を納税して、次は『下らない』人生を送るって決めたんです」


 男がそう言った瞬間、空から一筋の光が差し込み、彼の『辰の巻』が『ただのトイレットペーパーの芯』に変わった。


 最強の敵(サタン)が、最強の善良な市民にジョブチェンジした瞬間、『タイガース』の『虎の巻』も、ただの『公務員試験対策本』へと戻って行った。


 ()くして、2026年の危機は「一人の男が便意を克服し、欲望を排泄した」事で呆気なく回避されたのだった。

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