なぜ私
「環さんが狐なのと、私の名前を適当に言い当てたのはわかりました」
「なんで私に声かけて下さったんですか」
悔しいけど卑屈にも敬語になる
こんな変な人に対して
「彼女にしようかと思って」
「だから引き継ぎ書渡した」
そう言った環さんは無表情に近かった
「はあ」
私、この人になんて答えればいいんだ
「あの、なぜ私なんでしょうか」
すこし頭おかしそうだけどとてもおモテになりそうに見えますよとは口には出さない
「それは…わからない」
そう言って環さんはかすかに首を傾げた
「え?」
「繭がいた空間がひどく懐かしく心地よかった…何回もあそこには足を運んでいるけど、初めての感覚だった」
あ…れ…ヤダどうしよう
顔が、緩んでくる
普通は嫌い、男の人に興味はないといきがってみても、やっぱりこんな風に言われるの、悪い気がしない
要するに私の雰囲気を気にいってくれたってことだよね
大勢来るお客さんの中で…
思わず「ありがとうございます」という言葉が出た
わっ、相手のペースに引き込まれてる、マズイと思いながらもつい質問してしまった
「あ…の、環さんはお幾つなんですか」
「…多分生まれてから四百年くらいたっている」
あー?そういうキャラ貫きたいわけね
やっぱり変な人
ええっとそれじゃあ
「あ、下島コーヒーで働いているわけだから履歴書出してますよね?それには何歳って書きました?」
との質問に「25」と環さんは答えた
ふんふんそんなもんだろうな
最初から25歳って言いなよ
あ、いけないいけない
会話している場合じゃない
打ち切ろう打ち切ろう
そう思って私はここでにっこり笑った
「環さん、今日は誘って頂いてありがとうございました」
「私の名前を知っていたわけじゃないんだってことがわかって安心しました」
「あ、環さんの彼女にはなりません」
「多分私では役不足でしょうし、イケメンさんは苦手なので」
「この巻物は大切なものでしょうからお返ししますね」
「それじゃあ、私提出しなければならない課題があるもので、これで失礼します」
よしっ
言ってやったぞ
環さん、少し眉を潜めてる
私ごときに断られるとは思っていなかった?
ふ…
なんか気持いい〜
きっとその面使ってたくさんの女の子口説いてきたんでしょうけど、私はその獲物リストに入るようなそこらへんの軽薄な女子とは違うから
この武勇伝を帰って雛に聞かせよう
そう思ってソファーから腰をうかしかけたけど体が重くて立ち上がれない
アレ、どうしちゃったんだろう
なに?なに?
私この人に未練があるの
だから体が動かないの?
うそ…
「あんたは俺に何にも感じない?」
そう言って環さんはソファーの背もたれに体を預け少し顎を引いて私を睨みつけた
なにを…感じろと?
少し頭のおかしい人だというのは感じますけど
「あの日よりいい服着てる」
「え?」
「あんた、彼女にはなりませんって言ったけど…」
「じゃあなんで今日来たの?おしゃれして」