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片思いしていた元同級生がうちの本屋でバイトを始めたんだが!?〜彼女は毎日のようにリビングまで上がり込んでくるし、距離感おかしくない?〜  作者: 早野冬哉
第一章

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21.優花の最初の給料日

「優花ちゃん優花ちゃん。こっちに来てくれる~?」


「はい!」


 母さんに呼ばれて、閉店作業を終えた優花がレジに来る。


「これ、受け取って~」


 母さんは細長い茶封筒を取り出し、優花に渡す。


「これって?」


「お給料よ~。最初だから現金の方がいいと思ったの。振込じゃ味気ないでしょ~?」


「給料……」


 優花はごくんと喉を鳴らす。


「見てもいいわよ~」


「……こんなに!?」


 母さんに促されて封筒の中身を覗き込んだ優花。その口が、あわあわと震えだす。初めてお年玉で一万円札をもらって動揺する子供みたいでかわいい。


「初めてのお給料なんだから大事に使うのよ~。それともう一つ、透と優花ちゃんにプレゼントがあるの」


「プレゼント、ですか?」


「ええ」


 そう言って母さんは、ほのぼのとした表情のまま二枚のチケットを差し出した。


「遊園地のペアチケット。スーパーの福引で当たったのよ~。せっかくだから、優花ちゃんと透の二人で遊んできたらいいんじゃないかしら~」


「はっ!? 母さん何言ってるの!?」


 それってどう考えてもデート! 優花と僕じゃ釣り合わない。


「……? 何か問題あるかしら~?」


 母さん分かって言ってるだろ……。


「どうしたの透? 遊園地嫌いなの?」


 優花も……いや、優花は本気で気付いてなさそう……。


 優花は小首を傾げながらも、母さんの手からチケットを一枚受け取った。


 僕は視線を泳がせて、苦し紛れの提案をする。


「あー、えっと……チケット二枚ともあげるから、瑠夏さんとでも行ってきたら」


「お姉ちゃん? でもこれ男女ペア専用って──あっ!?」


 優花も僕と二人で遊園地に行く意味に気付いたらしい。途端に目を伏せ、耳を赤くした。肩にかかる髪の毛の先を弄りだした優花を見ていると、僕まで余計に恥ずかしくなってくる。


「た、確かにお姉ちゃんってよく男だって間違われるから、もしかしたら入れるかも」


「うん……じゃあチケットは二枚とも優花がもらって」


「ありがとう……そうするね」


「あらぁ~。残念ねぇ~」


 そうして優花がもう一枚のチケットを受け取ろうとした、その時。


「ちょっと待っておくれよ」


 店の入り口の方から、凛としたテノールの声が響いた。見るとそこには、灰色のパーカーに黒のワイドパンツというボーイッシュな格好をした瑠夏さんが壁に寄りかかり、腕を組んでいた。


 えっ……もう閉店してるのになんでいるんだ? っていうかどうやって入ったの?


「お姉ちゃん何でいるのっ? 来ないでって言ってるじゃん!」


「たまたま近くを通りかかってね。折角だから迎えに寄ったんだ」


「あらぁ~? 優花ちゃんのお姉さんなの〜? 入って入って~」


「いいですよ明美さんっ! お姉ちゃんはすぐ帰しますから!」


「ハハッ! いいじゃないか少しくらい。相変わらず優花はつれないね」


 瑠夏さんは芝居がかった動作でやれやれと手を広げ首を振る。それからレジまで来ると、挑戦的な目で僕を見下ろした。


「それに、ボクは最近忙しくてね。非常に残念だけど遊園地には行けないんだ。キミが優花と遊園地に行ってくれなければ、優花は遊園地を楽しむことができなくなってしまうよ。どうする?」


「それは……」


「キミのクラス。今度の木曜日は教授不在で講義がないんだろう? 平日ならば遊園地を訪れる人も少ない。ボクは絶好の機会だと思うけどな」


 えっ……なんでそんなこと知ってるの? 怖っ……!?


 途端に、瑠夏さんの不敵な笑みが悪魔の歪んだ笑顔に見えてくる。僕は一歩後退り、瑠夏さんのプレッシャーに負けて思わず首を縦に振ってしまった。


「分かりました……」


「ハハッ! キミはそれでいいのさ」


「はぁ……?」


 急に圧が消えたかと思えば、瑠夏さんにポンポンと頭を撫でられた。


 なんなんだこの人……わけ分かんないよ……。


「こういうわけだ。優花もそれでいいかい?」


「もぉー勝手なことしないでよっ! 透だって今の無理やり言わされてたよねっ?」


「そう──」


「それで、優花は透くんと遊園地に行きたくないのかい?」


 僕の言葉を遮って、瑠夏さんは優花に試すような視線を向ける。


「それは……」


 優花は瑠夏さんから目を逸らし、チケットを両手で握って黙り込む。


「ハハッ! 優花、いつの時代も沈黙は肯定の証だよ。……結論が出たね。来週の木曜日に二人で遊園地に行く。この話はこれでお終いだ」


 そう言うと瑠夏さんは母さんからチケットを受け取り、僕に差し出した。


「受け取るといい」


 これを受け取ったら、優花とデート……。


 僕が恐る恐るチケットを受け取ると、瑠夏さんは自分の口を僕の耳元に近づけた。


「キミがボクのかわいい優花にふさわしい男かどうか、見させてもらうよ」


「僕はそんなんじゃ……優花と僕じゃ釣り合わな──」


 瑠夏さんの人差し指が僕の唇を塞ぐ。氷のように冷たく、羽毛布団のように柔らかい瑠夏さんの指は、僕の思考すらも止めた。


「それを決めるのはボクと優花だ。それ以上自分を貶めるなら、ボクはキミを軽蔑するよ」


「……はい」


 僕の返事を聞いて、瑠夏さんは僕の耳から口を離した。


「ハハッ! それでいいのさ。木曜日のデート、楽しむといいよ」

一章はこれでお終いです。


次回からは二章──デート編になります。


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