01 私と面倒ごと
面倒ごとは嫌いだ。だって面倒だから。なのにどうして私の人生には面倒ごとが多いんだろう。
面倒ごとその一、お母様がダメダメな父を残して突然死んでしまったこと。
面倒ごとその二、父がすぐにわけのわからない女性と再婚したこと。
面倒ごとその三、義母には娘がいて、血のつながらない妹ができたこと。
面倒ごとその四。
「お姉様は毎日私のことを出来の悪い妹だと言って怒るんです。仕方ありません、私は元はと言えば平民ですもの」
「それは本当か、イザベラ!」
義妹のベルはあざとく可憐な女の子で、おまけに小賢しい。
見た目は小さくて、目はくりくりと大きく、綺麗なブロンドもふわふわ。元々平民だったから、よく言えば気さくで話しやすく無知で無害そうに見える。
でも決してそんなことはなく、男女のことに関してしっかり計算高い。入学してからというもの、高位貴族でチョロそうな令息に思わせぶりな態度をとって回っている。
どうやら最近、義妹と同じ学年の第五王子を見事に落としたらしい。
二人で恋人のように寄り添い合って、何かとちょっかいをかけてくるようになった。これが面倒ごとその四だ。本当に面倒で仕方がない。意味もわからない。
一つ下の義妹は今年入学してきた。
義妹は義母と平民の男の間に生まれた子どもだ。父親が生きている間は平民として生活していたと聞いている。父親が亡くなって生活に困った義母が生家へ戻り、間もなく父と再婚した。本来は伯爵家の継承権もないただの連子だ。だから学園へ通う必要すらない子のはずだった。
義妹もそれをきちんと認識していると思っていた。そもそもこの子は勉強が嫌いなのに。
なんのきっかけがあったのか、去年あたりから急に学園に入学したいと騒ぎ出した。
学園は基本的に貴族のための学校なので、貴族以外が入学するには優れた才能があるとか、飛び抜けて頭がいいだとか、そういう理由が必要になる。でも妹には残念ながらそのような才能はない。
だから仕方なく大金を払って入学させた。入学は無理だと言ってみたこともあったが無理だった。義妹はわがままを必ず通す。通すためならなんだってやるのだ。一日中騒ぎ立て、周りが憔悴して入学させた方が楽かも、と思わせるくらいのことは平気でやる。実にパワフルなことだ。
高いお金を払ったのだから真面目に通って欲しいのに、通ってすることといえば令息たちに粉をかけることと私に突っかかってくることだけ。
成績はまるで良くない。一番下を争っている。義妹は魔法が使えないのでその分座学を頑張って欲しいところなのだけれど難しそうだ。
このままではそのうち姉である私が学業を妨害していると騒ぐ気がする。頭が痛い。
第五王子と恋人になってからは私に対する行動がますます過激になってきた。
学年が違うのにわざわざ探し出しては、やれ虐げられているだの、やれ不出来な妹扱いされているだのないことないこと言ってくるのだ。いや、不出来な妹であることは事実だけれど態度に出したことはない。
彼女にどういう意図があるのかはよくわからない。どうやら私を『平民の血が入っている妹に対して意地悪で差別的な姉』ということにしたいらしい。
妹の可愛さにやられてしまった王子と少数の貴族は信じているようだけど、それ以外は呆れている。大半が義妹の言い分を信じていないのはありがたい。
王族と言っても第五王子は影響力はかなり弱い。だから私の立場にそこまで悪影響はないのだけど。
とにかく面倒である。
ーーさらに面倒ごとその五。
「イザベラ。王城に提出する書類はどうなってるんだ」
「お父様、それは先週提出済みです」
「そうならそうとその時に言え。お前は報告が遅い。私が伯爵として不出来だと思われたらどうする」
「はあ、すみません」
じゃあ自分でやってくれませんかね。
「イザベラ来週のパーティについてなのだけれど。例のデザイナーに連絡は取れたの?」
「お義母様、高位貴族の予約で埋まっており無理だそうです」
「そう、ならいつものところにお願いするしかないわね。本当にお前はダメねぇ。罰として明日の食事は抜きよ」
「はあ、すみません」
予約が取れないというのは嘘だけど。お金がないのに高位貴族に人気の高級ブティックに依頼させるわけないでしょう。
「お姉様!殿下からお手紙をいただいたの」
「わかった、返事を書いておきます」
「かわいい字でお願いね。それからこれ、殿下に新しくいただいた香水なの。手紙にふりかけておいて」
「わかりました」
王子は義妹のベルではなく実は私と文通してるって知ったらどうするんだろう。
ーー面倒ごとその五は面倒な家族に振り回されていること。
もちろん、理由があって振り回されている。
父に仕事を任せれば領民たちに迷惑をかけることになるし。義母の好きにさせると浪費が半端ないし。そして義妹はいうことを聞かなければ聞くまで一生泣き叫ぶし。夜中まで。私だけじゃなく使用人たちまで眠れない。とんでもないことになる。
幸い今は執事をはじめ、屋敷のみんなは私の味方だ。
でも本当に面倒だわ。
何より、さらに一番面倒で頭を悩ませていることは、……自分の父親が誰なのかわからないことだ。




