VS門番
「おーい!どこにいるんだー!?」
クロが目を覚ましたみたいだ。火を焚く時に役立つと思い大樹の死体、いわば薪を拾いながらクロの声がした方へ向かう。
「クロ、こっちだ。体はもう平気か?」
私を見つけたクロが走り寄ってくる。見た感じ平気そうだが、まだ怪我が治っていないかもしれない。念のためシルフィウムをクロに渡し、薪はクロのバングルに仕舞ってもらう。
「そうだ、ひとつ気になっていたんだが…」
「ん?」
「どうしてクロは私の名前を呼ばないんだ?」
名乗ったにもかかわらず、クロは出会ってから一度も私の名を呼んでいない。今までは気にしてなかったが、普通人を探すときはその人の名前を呼ぶのに対して、クロは私の名前を呼ばなかった。さすがに違和感を感じる。
「あー…『リヤ』ってこう言っちゃなんだが、偽名だろ?名前呼ぶならやっぱり本名がいいなって思って。だから呼んでなかったんだ。」
なるほど…。しかし両親からもらった名前でクロには呼んで欲しくない。あれはもう2度と呼ばれたくない名前だ。だが、他の名前といったら治癒士ユフィアからもらった『リヤ』だけだ。
「……だったらクロ、私に名前をつけてくれ。」
「いいけど…。マジで本名ないの?」
「訳あって2度とあの名前で呼ばれたくないんだ。」
そう言うとクロは「わかった。」と言って考え始めた。
いつまでも偽名でやっていくわけにもいかないし、ちょうどいい機会だと思って提案したがクロがすぐに受け入れてくれるとは思わなかった。どんな名前になるのか少しワクワクする。
クロが私の名前を考えてくれている内にバングルに仕舞っていない薪に火をつけ、腕ウサギの肉を取り出し温め直す。
バングルは仕舞うことは出来ても、仕舞った状態を保存しておく機能はない。食料を入れたら日持ちしないものは早めに食べなければならない。
「あ、『レイ』ってのはどうだ?」
「レイ?」
「そう。俺が出てきた里にレイダリアっつー白い花があるんだ。そこから取って『レイ』。どうだ?」
肉を焼き直していたら、不意にクロがそう言った。
レイ…レイか。前の名前よりもずっといい。この名前をもらう事にしよう。しかし、由来となった花がどんな花なのか気になる。帰ってから図書館でゆっくり調べてみよう。
「うん、ありがとう。じゃあ改めてよろしく、クロ。」
「あぁ、レイ。よろしくな!」
飯を食い終わり、軽く休んでから下の階層へ向かう。
下の階層は、かなり広い空間に白と黒の虎の魔物が2体、巨大な扉を守るように両端に座っている。おそらくボス前の門番といった所だろう。この2体を倒せば、ボスの部屋に行ける。やっと外に出られる。
「「グルアアアアア!!」」
2体の虎が立ち上がり咆哮を上げる。
何を使ってくるのか分からない為、物理耐性魔法耐性共にスキルでも上げてあるが、魔法でも上げておく。魔石のおかげで一撃では死なないようにはなったが、門番ともなれば各フロアボスよりも強いはず。強化しておいて損はないはずだ。
「クロは白いやつを頼む。黒い方は私がやる。」
「おう、わかった。」
黒虎を白虎から引き離し、連携を取らせないようにする。こういう魔物は2体揃っていると個々でいるよりも、倒しにくいものだ。砂漠のエリアにいた紫と白のカエルがそうだった。
土操作で天井まである壁を作り、分断する。私とクロも必然的に離れる事になるが、いざとなったら影遊で合流すればいい。2人がかりで1体ずつ仕留めてもいいのだが、1体を倒すのに夢中になって壁を壊され合流され回復、なんてことになったら堪ったもんじゃない。クロがもう1体を倒してくれることを信じて、私は目の前の敵に集中するしかない。
黒虎が牙を剥きながら襲いかかってくる。土操作で壁を作ろうにも虎が速すぎておいつかない。
私は鎌の柄の部分を黒虎が開けた大口を塞ぐようにして噛ませ、鎌を支えに両足で跳躍を使い眉間を蹴りつける。大ダメージになるほどの力はないが、黒虎が後ろに吹っ飛び距離ができる。黒虎が体制を立て直す隙に再び跳躍を使って後ろに回り込み、火焔の鎌で背中を攻撃する。
しかし、肉が切れる手応えがない。表面は炎で焼けたようだが、内部までダメージが通っていない。おそらくだが、魔法以外の攻撃に耐性があるのだろう。
「ガアアア!!」
「っ!」
振り向きざまに一撃もらってしまった。追撃しようとしてくる前足を土操作で一瞬遅らせ、跳躍で距離を取る。
振り向きざまの攻撃を咄嗟に左腕で防いだが、かなり切れてしまった。それに毒爪だったようで、左腕ががどんどん痺れてきている。動かすことができない程では無いが、鎌を握ることはもう難しい。
「ガルァァァアア!」
黒虎が吠える。足元に魔法陣がでて、黒虎の背後に6つのファイアボールが出現する。
これはまずい。門番をしていた魔物のファイアボールなど、人間が出す魔法の何倍も火力があるはずだ。それを6つも同時に発動……。いくつか中止させるしかない。
死神の鎌で黒虎を遠距離から攻撃し、なんとか2つのファイアボールを消した。が、
「グルァ!」
間に合わなかった。残り4つのファイアボールが襲いかかってくる。
「くっそ!」
土操作で壁を作り2つを回避、1つは体を捻ってなんとか腹をかすった程度で済んだ。しかし残り1つ。追尾してきて避けきれない。避けられないなら当たるしか無い。いくら威力が高くても1つならば即死はしないはずだ。
痺れが強くなってきてまともに動かせない左腕を、右手で掴んでガードに回す。魔法耐性を上げていても服を溶かし、左腕が焼け爛れた。流石門番といったところか。
私はファイアボールに当たりながら、黒虎の方へ走る。向こう側からはファイアボールによる煙でこちらが見えないはずだ。
右腕だけで鎌を振り上げながら煙を突っ切る。火焔の鎌に雷を纏わせ威力を上げ、煙から抜けた所で黒虎の顔面を捉える。
「くらえ!!」
「ガァァァァア!」
黒虎の目に鎌が突き刺さる。痛みで暴れる黒虎を土操作とレベルが上がったスキル、影遊で影を立体化させ押さえつける。所々を針状に尖らせ、少しずつ圧縮させる。これなら強制的に体に針が刺さるはず。
黒虎の周りをアクアカッターで頭上から濡らし、鎌に纏わせた雷をさらに威力を高めていく。腕ウサギにやったやつと同じ容量だ。しかし今回はクロがいない為、決定打を与えられない。このまま続けていてはMPがつきる。
一回しか見ていないしできるかどうか分からないが、やるしかない。
私は足元に魔力を巡らせ、魔法陣を形成する。出すのはさっき黒虎が出した6つのファイアボールだ。
イメージしろ。ファイアボールを6つ、高火力で、重い一撃になるように!
黒虎が暴れ、針状にした土と影に傷がつけられていく。ファイアボールを作りながら、黒虎が抜けられないようにさらにキツく押さえつける。
「グルルルルル…。」
黒虎も負けじと再び6つのファイアボールを形成し始めた。私に距離を取らせるつもりだろうが、針が身体中に突き刺さり痛みが強いのか、さっきよりも遥かに形成が遅い。この遅さなら私の方が黒虎よりも早く魔法を打てる。
……できた。感覚でわかる。今まで使った中で1番の高火力のものだ。後はこれをぶつけるだけ。
「くらえ。」
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