階層攻略
熊から取れた魔石は茶色の魔石。茶色といえば真っ先に浮かぶ魔法は土系だ。土も水に弱かったはず。私のアクアカッターでも壊せるのか試してみる。
威力が低いアクアカッターの水が魔石にかかった瞬間、パキンと音を立てながら魔石が壊れた。魔石から茶色の魔力が流れ、私の中に入っていく。
クロに続き私も魔石を壊すことに成功し、嬉しくて小さく拳を握る。
熊の魔石からもらえるスキルは『土操作』。どうやら土を自在に操れるものみたいだ。しかし自分から遠すぎると範囲外になってしまうようだ。使いながら範囲を確かめていかなければ。
「どんなスキルだった?」
腕ウサギのスキルを吸収したクロが隣から覗いてくる。今回はどんなものか知りたくてうずうずしているようだ。
「土を操るものみたいだ。こんな感じに。」
クロの足元に手のひらを向け、地面を窪ませる。普段私がクロを見上げているからたまには見下ろしてみたい、なんて事は一切ないがクロを私の目線より下にする。
「おぉ、便利そうだな!……出してくれ。」
窪ませすぎてクロが上がってこれなくなってしまったようだ。地面を元に戻し、またクロを見上げる形になる。ちょっと悔しいとかそんな事はない。
「ここの階層の魔物は、ほとんどあいつが倒してたみたいだな。もう見当たらないから、下に向かう階段を探そうぜ。」
歩きながらそう話す。クロの言う通り、この階層にはもともと腕ウサギのせいで魔物が少なかった。さっきの4つ耳熊が最後の魔物だったみたいだ。もうここの階層にいても収穫は得られないだろう。
「そうだな。ついでにここらに生えてるシルフィウムも、もう少しもらっておこう。」
シルフィウムはここの階層に嫌と言うほど生えている。最初に4、5本摘み取ったが、もっと摘んでも問題ないだろう。
シルフィウムを摘みながら階段を探していると、美しく輝く透明な水を滴らせている深い藍色の石を見つけた。鑑定で見てみるとタンザナイトという石で、長年ダンジョン内で込められた魔力が石から溢れ出し、水という形で外に溢れ出ている物のようだ。溢れた水は飲めば魔力を一瞬で回復し、クールタイムも長くない。魔力回復薬よりも有能なものだ。
これももらっていこう。石に傷をつけないよう、土操作で周りの土をどけ取り出す。本体は腕ウサギの魔石よりも一回りほど大きい石だった。これだけ巨大ならばもし魔力が空になったとしても、節約する事なく使えそうだ。
シルフィウムとタンザナイトをしまい、私とクロは階段を見つけ下の階層へと降りて行った。
下の階層もとんでもなかった。青色で幻想的な階層の次は全面赤色の溶岩地帯、その次は砂漠地帯、濃い霧で前もまともに見れない階層があった。何が起こるのか分からないのがダンジョンなのだが、なんでもありかよと下の階層へ行く度に突っ込んでしまいそうになる。
各階層のフロアボスも腕ウサギのような一撃で即死に追いやってくる魔物だらけだった。例えば、マグマを泳ぐ巨大魚に、砂の中から襲いかかってくる紫と白の2体のカエル、霧で姿を消す鎌鼬。
そんな理不尽極まりない魔物共と死闘を演じ、魔石を手に入れては壊しを繰り返し、森が広がる階層まで降りてきた。日の光が届かない薄暗いダンジョンでどうやって木が生きているかはもう考えない事にする。
「結構深くまで来たなー。そろそろ最下層でもおかしくないな。」
クロの言う通り、腕ウサギと戦った階層からかなり降りてきている。次が最下層でもおかしくはないと思う。
「そうだな。ここらで休憩できると……クロ?」
返事をし反応を見ようとクロの方へ目を向けると、姿が見えなくなっていた。
さっきまで隣にいたはずのクロがいきなり姿を消し、焦って周りを見渡した。木の上、後ろ、茂みの中、どこにもいない。白カエルから出てきた魔石を壊し手に入れたスキル、『索敵』を使いクロの反応を探す。
「…ん?」
おかしい。見渡しても木しか無いのに敵がすぐ近くにいる。
まさかと思ったが、木自体が魔物の可能性がある。火焔の鎌を使い木を焼き切ってみる。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」
焼いた木からではなく、遠くの方から悲鳴が聞こえてきた。どういうことなんだ。索敵を使ってみたら悲鳴が聞こえてきた方向からクロの反応もあった。もしかしたら、森だと思っていたここの階層は生えていたのは木々じゃなく、1体の魔物なのかもしれない。
私は悲鳴が聞こえてきた方向へ向かいながら、時々襲いかかってくる木を焼き払う。
見つけた。
クロは大樹の枝に引っかかり気絶させられているようだ。大きな傷は見当たらない。よかった。
襲いかかってきた根を火焔の鎌で焼き、クロを助けようと走り出したところで、大樹が枝を鞭のようにしならせ脇腹を思い切り殴られ壁に叩きつけられる。さすが大樹と言ったところか、ダメージが大きい。
鎌を握り直しもう一度向かおうとした所で追撃がきた。既の所で影の中に入り追撃を回避する。少し大樹に近づき影から出る。こいつに登らなければクロが助けられないからだ。
大樹が私をもう一度引き離そうと枝を横薙ぎに振るってくる。その枝をファイアボールで焼き、怯ませる。大樹に登っている間に枝に攻撃されないよう、枝と私の間に土操作で壁を作り攻撃を防げるようにする。
再び土操作で足元に階段を作りクロを救出、影の中へ収納した。クロは影の中へ仕舞われるのは嫌いみたいだが、今は仕方ないだろう。目を覚ます前に影から出しておけば問題はないはずだ。
私は大樹から距離を取りながら、両手にファイアボールを構えて打つ。水とは相性が悪かったが、炎の相性は良かった。それに今まで壊してきた魔石のおかげで能力が底上げされているから、普通のファイアボールよりも威力は高い。それに相手は木の魔物だ。木は火に弱いはず。
「ガア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」
大樹の悲鳴が響く。結構なダメージを与えられたみたいだ。もう一押しでこいつを殺せる。
魔法を放ってから着地をし、腕ウサギに放った纒雷と火焔の鎌の合わせ技と同じもので大樹を焼き切る為に地面を蹴り振りかぶった。
最後の一撃を放とうとした瞬間、大樹がこちらを向き中心が光った。嫌な予感がする。私は攻撃を中断し、体を丸め防御の姿勢を取る。空中で逃れる手段も、耐性魔法をかける時間もなかったから、これが今とれる唯一の防御手段だった。
凄まじい熱と爆風が私を襲い、身体中を焼いていく。
「がはっ!」
爆風で途中で止まることも許されず、私は壁に激突した。大樹は私の一撃を喰らう前に自爆をしたのだ。服が熱に強くできていたおかげで服は所々しか焼けなかった。が、防御しきれなかった顔や服が焼けてしまった部分は火傷を負ってしまった。
クロを影から出し、横に寝かせる。私はバングルからシルフィウムを出し、齧りながらクロの容体を確認する。息はしているし、血も出ていない。腹に殴られた跡があったからそれで気絶させられたんだろう。
何故大樹がクロを人質のようにして攫ったのか分からないが、本能的に動く魔物と違って、知恵が働く魔物もいる。きっとこいつもそのうちの1体だったのだろう。
シルフィウムを食べ終わり、大樹の魔石を探す。ここの階層まで降りてきてわかったが、フロアボスのほとんどは魔石を確定で落とすみたいだ。腕ウサギも溶岩魚もカエルも鎌鼬もみんな魔石を落としてくれた。だから今回も……あった。
今回の魔石はかなり大きい。両腕で抱えないと持てないくらい大きさだ。それにかなり重い。見つけたらクロの隣で魔石を壊そうと思ったが、索敵しても魔物の反応がないし転がして運ぶのも面倒な為ここで壊す事にした。
透明な緑に中央は赤い綺麗な魔石に、ファイアボールをぶつけて壊す。今回は弱点が分かりやすいからすぐに壊せた。
緑色の綺麗な魔力が溢れ、私の中へと入っていく。
……もらったこのスキルは、私がもらっておいて正解だったかもしれない。
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