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愚帝礼賛(後)

「皇后を発表する。」

帝の宣言は、後宮中を駆け巡った。

昼前には後宮の一室に妃達が揃った。席に着く妃達を立ったまま見渡して、帝が口を開いた。

「皆、長きに渡る勤め、御苦労であった。いよいよ先帝の喪が明ける。そこで、伸ばし伸ばしにしていた立后を行う。皇后には、我が子を宿している可能性があり、かつ皇后の任に耐えうる者を選ぶ。その他の者には暇を与え、後宮は解散する。」

後宮の解散と聞き、妃達はざわめいた。

「帝の子を身籠っているかもしれない者をも追い出すという事ですか?」

一人が訪ねた。それに対する帝の回答は、薔花には不可解なものであった。

「皇后以外に我が子を宿している可能性のある者はいない。それは皆わかっているはずだ。」

子を宿した者は既に二人いる。それに薔花とて昨晩を思えば、子を宿していないとは言い切れぬ。どういう意味かと帝の言葉を待った。


「皇后には、崔薔花を立てる。」

薔花はぽかんとした。他の妃達も唖然としている。何故か驚いていないのは、礼熹、千樹、芙蓉の三人だけであった。

やがて最初に我に返った妃が言った。

「何故です?崔薔花には子などいないではないですか!」

「その訳は此の男に説明させよう。朱慎。」

「はい。」

現れたのは、中性的な顔立ちの男。宦官である。

「妃方に申し上げます。私は常に後宮で帝に侍っておりましたが、帝が寝所を共にしたのは崔薔花様お一人。従って御子を成す可能性のある方も崔薔花様のみです。」

寝所を共にしたのが薔花だけ?そんな馬鹿なことが有る筈がない。しかしもしそれが本当なら、今まで誰も帝の御子を宿した者がいなかったのも納得がいく。

「この中で、崔薔花以外に余の床に侍った者が一人でもおるかな?」

帝が妃達を睥睨しながら言った。


「けれど、黄芙蓉は帝の御子を授かったと聞きました。」

薔花もそれは疑問だ。

「では芙蓉、教えてやれ。」

「はい。月の障りが滞ったので、帝に御相談の上、侍医に診て頂きましたの。そうしたら、精神的負担による生理不順だそうです。心穏やかに過ごせば治ると言われました。私、今まで孕んだ等と申した事はございませんわ。」

確かにあの時、芙蓉は一言も妊娠したとは言っていない。薔花が勝手に勘違いしただけだ。

「それで芙蓉、容態はどうだ?」

「残念ながら、色々な方からつまらぬ嫌がらせなどをされて、心穏やかには過ごせていませんわ。」

「だそうだ。心当たりのある者はいるか?」

皆一様に口隠った。

「ところで芙蓉、お前を育てた父親は誰だったかな?」

帝の言葉に皆首を傾げる。

「大司農黄悟覚でございます。」

芙蓉の父親など皆知っているからだ。

「では芙蓉、お前の実の父は誰だ?」

「先の帝、孝節帝にございます。」

「つまりお前は、余の実の妹にして公主という訳だ。公主に嫌がらせをするなど、余に楯突く行いとしか思えぬなぁ。」

芙蓉が公主?知らなかったのは薔花だけではないようで、全員呆けた顔わをしていた。が、公主に悪事を働いた、という事実に気付いた者達の顔色は目に見えて青くなった。

「慎、芙蓉に誰が何をしたかは把握しているな。」

「勿論です。」


「さて、もう一人身籠ったと言う者がいたな。」

薔花ははっとして白麗を見た。白麗は目に見えて青冷め、唇を噛み締めている。

「白麗、それは誰の子だ?」

「帝の御子にございます!」

白麗は悲痛な声で叫んだ。

「帝は私とも床を共にして下さったではありませんか!」

朱慎、と呼ばれて再び宦官が前に出る。

「申し上げます。以前白麗様は帝にお酒を振る舞われ、帝が眠った後に衣をぬぎ、同じ布団に入られ、帝が目を覚ました後は事後の様に振る舞われた事がございました。実際には、帝が白麗様の元を訪れた時に事に及ばれた事は一度もございません。」

「余の飲んだ酒は調べたか。」

「はい。眠り薬が混入しておりました。」

白麗が震えているのは恐怖か、或いは怒りだろうか。帝が冷めた目で白麗を見る。

「もう一度聞く。それは誰の子だ?」

「……だって仕方がないではありませんか!帝はちっとも私を相手にしてくださらないし、私は子を成しに此所へ参りましたのに。あの方は、私を美しいと言って下さったし、慰めて下さいました。私を愛していると言って下さった。私達が結ばれるにはこうするしかなかったのです!相手を自由に選べる帝には、私の気持ちなどわかりません!」

部屋はしんと静まり返った。

白麗の叫びは薔花の胸に響いた。

後宮とは、帝一人の為の花園だ。帝に見てもらえないまま徒に盛りを過ぎて枯れ行く花の心は如何なるものか。

薔花は帝を見た。

帝に薬を盛り、あまつさえ帝に侍る身でありながら他の男と通じるなど万死に値する罪だ。しかし、愛し合う男女を惨く引き裂くのが正しいのか。

薔花とて、帝と引き裂かれる事があれば、狂気に走るかもしれぬ。白麗の想いや新しい命を思うと、彼女に情けをかけてほしかった。

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