愚帝礼讚(終)
「白麗よ。」
帝が呼び掛けた。
「後宮にて不貞を働いた者を、生かしておくわけにはいかん。劉白麗という人間は、永久にこの世から消える。」
やっぱり。薔花は俯いた。
「故に、名を捨てよ。只の何も持たぬ白麗として、世に紛れて生きるが良い。その子の父親と共にな。」
薔花は目を見開いて帝を見た。帝は小さく微笑んでいた。
「崔薔花を皇后とする事に異を唱える者は居らぬな。薔花、此所へ。」
言われて薔花は帝の隣に立った。
「此れなるは皇帝と皇后である。皆叩頭せよ。」
始めに芙蓉が額付くと、慌てて皆従った。
最早、薔花の立后に異を唱える者は居なかった。
「本当に皇后が私でよかったのですか?それに後宮の解体も……私、嗣子を産めるかもわかりませんのに。」
帝と二人きりになると、薔花は問うた。嬉しくはあるが、同時に不安でもある。
「お前が良かったのだ。そもそも他の妃には一度たりとも手を出しておらんのだぞ。俺って一途だろ。」
「……それも知りませんでした。」
「芙蓉達は知っていたがな。他の者は、俺が女を抱けぬ不能だと思っていた筈だ。」
閨での帝を知る薔花としては、そちらの方が冗談の様に思える。
「もうじき喪が明ける。忙しくなるぞ、お前も俺も。俺はお前の希望通り、政務に復帰せねばならん。朝寝もおちおちできぬ身だ。寂しくて泣くんじゃないぞ。離れがたくなるからな。」
「な、泣いたりしません!」
赤くなって反論するもやはり不安になり、薔花は訪ねた。
「私、本当に帝の隣に居られるんですよね。忙しくなっても、夜には私の所に帰ってきて下さるんですよね?」
「当然だ。それから二人の時は晴嵐と呼べと言ったであろう。」
「……晴嵐さま。」
かっと目を見開いた帝は、そのまま薔花に襲いかかった。
翌朝、床から起き上がれず、声も出せない薔花を満足そうに眺めた帝は、
「やはり『いってらっしゃい』くらいは言えるよう手加減せねばならんな。」
等とぬけぬけと言い、薔花の頬を一撫ですると、揚々と朝見に向かっていった。床から手を振るのみでそれを見送った薔花は、喜びと恥ずかしさで布団に潜り身悶えするのであった。
かつて、大陸の東に彩の国と呼ばれる大国があった。貧富の差が拡大し、役人に不正は横行。腐りかけた大国を立て直したのは、中興の祖と名高い広徳帝である。
彼の帝の治世、交易は栄え、文化は咲き誇り、庶民に至るまで大国の恩恵を享受した。帝を支えるのは、崔皇后。後の世に、妻の鏡と讃えられる女性である。
帝はこの女性を大層寵愛し、崩御の時まで仲睦まじく過ごしたと伝わっている。




