不憫な悪役令嬢
本作をお読みいただきありがとうございます!
本作は基本的に毎日20時10分頃の更新を予定しています。
異世界転生した主人公が、魔法を中心に成長していく物語です。
長く楽しんでいただける作品を目指して頑張りますので、今後ともよろしくお願いいたします!
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――とうとう、断罪の瞬間がやってきた。
高い天井から吊るされたシャンデリアが、広間をまばゆく照らしている。その中央に、二人の少女が立っていた。
一人はコーラルピンクの髪にエメラルドグリーンの瞳を持つ少女、リリアン。公爵令嬢であり、この物語における悪役令嬢だ。
けれど今の彼女には、いつもの気品はなかった。伏せられた瞳。青ざめた頬。かすかに震える唇。まるで、今にも壊れてしまいそうな儚さを纏っている。
その隣に立つのは、赤い癖毛のショートヘアをした少女だった。
名前はミーア。リリアンの側仕えである彼女は、普段のメイド服ではなく、真っ赤なドレスに身を包み、深い緑色の瞳でこちらを睨みつけている。
二人は、あまりにも対照的だった。
私は手元の証拠を確認しながら、淡々と口を開く。
「それでは、順番に確認していきましょう」
一つ。また一つ。
二人の罪が明らかになっていく。
そのたびに、リリアンの顔から血の気が引いていった。反対に、ミーアの表情はどんどん険しくなっていく。
そして――。
「わたし……そんなの、知らない」
リリアンが、震える声で呟いた。その声は小さく、広間の空気に溶けてしまいそうだった。
「違います!」
ミーアが突然叫んだ。
さっきまでの強気な表情はどこへやら、瞳には白々しく大粒の涙が浮かべている。
「私は……リリアン様に脅されていて……! 仕方がなかったんです! 信じてください!」
静まり返った広間に、ミーアの声だけが響いた。
リリアンは、何も言わなかった。
ただ、ゆっくりとミーアを見る。
その瞳に浮かんでいたのは、怒りではなかった。
――絶望だった。
やがてリリアンは視線を落とし、しばらくの間、何かを耐えるように唇を噛みしめる。
そして再び顔を上げた時には、もう迷いはなかった。
「……そうですか」
その声は、不思議なほど穏やかだった。
まるで、全てを受け入れる覚悟を決めたかのように。
こうして――悪役令嬢リリアンの最後は、あっけなく終わった。
*****
「いや、リリアンに罪を背負わせてんじゃねーよ!!!!」
私はスマホをベッドに叩きつけた。
ぽすん、と間の抜けた音がする。
画面に映っていたのは、さっきまでの断罪シーン。壮大なBGMがブツリと途切れた。
「……はぁ」
私はベッドに倒れ込み、天井を睨んだ。
『光の巫女は運命を恋う』。
大手ゲーム会社が発売した、女性向け恋愛ゲーム
――いわゆる乙女ゲームである。
発売前から大々的に宣伝され、かなり期待されていた作品だ。ゲームシステムも悪くない。攻略対象のキャラクターも魅力的だし、主人公も好感の持てる性格をしている。
それなのに、評価は「中の上」。
理由は、ものすごく単純だった。
――悪役側が不憫すぎる。
特に、その元凶となったキャラクターがミーアである。
主人公は、希少な光魔法の使い手であることを認められ、特待生として魔法学園に入学する。
ところが、入学して早々。同学年の少女、ミーアからいじめを受けることになる。
教科書を隠される。嫌味を言われる。わざとぶつかられる。
テンプレみたいな嫌がらせのフルコースだ。
しかもミーアは毎回こう言うのだ。
「全てはリリアン様のためです!」
主人公は平民。対してリリアンは公爵令嬢。
だからプレイヤーたちは思った。
――どんな性悪令嬢なんだ、そのリリアンって。
しかし蓋を開けてみれば、断罪の場に現れたのは儚げで、可憐で、どう見ても超絶美少女だった。
しかも、ミーアの行動は完全に独断。リリアンは何も知らなかった。
そして極めつけが、あの断罪シーンだ。
追い詰められたミーアは、自分を守るためにリリアンへ罪を押しつけた。
「リリアン様に脅されていたんです!」
いやいや「全てはリリアン様のため」とか言ってたのは、お前だろ!
「……納得できるかぁ!」
私は枕を抱きしめながら、もう一度叫んだ。
結果、ミーアは処刑。
リリアンは修道院送り。
主人公は光の巫女として認められ、攻略対象たちと幸せになる。
めでたし、めでたし。
……なわけがない。
リリアンだけ、何も悪いことをしていないのに。
だから発売当時から、ネットではリリアンへの同情の声が絶えなかった。
『リリアン救済ルートください』
『どう考えても一番かわいそう』
『ミーアは何なの?』
『リリアン様を幸せにしろ』
そして、かくいう私もリリアン推しだった。
グッズを見つければ買う。新しいイラストが公開されれば保存する。数少ない出番を何度も見返す。友達とリリアンの魅力について語り合う。
挙げ句の果てには、ミーア擁護派とネットでレスバまでした。
……我ながら、かなりの厄介オタクである。
それでも。
リリアンには幸せになってほしかった。
本当に、それだけだった。
「……いつか救済ルート、追加されないかな」
そんなことを呟きながら、私はスマホを拾い上げる。
画面には、柔らかく微笑むリリアンが映っていた。
「おやすみ、リリアン」
明日も仕事だ。
私はスマホを枕元に置き、布団へ潜り込む。
今日も推し活を満喫した。
そんな満足感を抱えながら、私は静かに目を閉じた。
――この時の私は、まだ知らなかった。
次に目を覚ました時。
私自身が、あの物語の中にいることを。




