↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
推しの悪役令嬢を救いたいだけなのに、いつの間にか神様になってました  作者: 櫻 美澪


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/7

不憫な悪役令嬢

本作をお読みいただきありがとうございます!


本作は基本的に毎日20時10分頃の更新を予定しています。


異世界転生した主人公が、魔法を中心に成長していく物語です。


長く楽しんでいただける作品を目指して頑張りますので、今後ともよろしくお願いいたします!

*****


――とうとう、断罪の瞬間がやってきた。


高い天井から吊るされたシャンデリアが、広間をまばゆく照らしている。その中央に、二人の少女が立っていた。


一人はコーラルピンクの髪にエメラルドグリーンの瞳を持つ少女、リリアン。公爵令嬢であり、この物語における悪役令嬢だ。


けれど今の彼女には、いつもの気品はなかった。伏せられた瞳。青ざめた頬。かすかに震える唇。まるで、今にも壊れてしまいそうな儚さを纏っている。


その隣に立つのは、赤い癖毛のショートヘアをした少女だった。


名前はミーア。リリアンの側仕えである彼女は、普段のメイド服ではなく、真っ赤なドレスに身を包み、深い緑色の瞳でこちらを睨みつけている。


二人は、あまりにも対照的だった。


私は手元の証拠を確認しながら、淡々と口を開く。


「それでは、順番に確認していきましょう」


一つ。また一つ。


二人の罪が明らかになっていく。


そのたびに、リリアンの顔から血の気が引いていった。反対に、ミーアの表情はどんどん険しくなっていく。


そして――。


「わたし……そんなの、知らない」


リリアンが、震える声で呟いた。その声は小さく、広間の空気に溶けてしまいそうだった。


「違います!」


ミーアが突然叫んだ。


さっきまでの強気な表情はどこへやら、瞳には白々しく大粒の涙が浮かべている。


「私は……リリアン様に脅されていて……! 仕方がなかったんです! 信じてください!」


静まり返った広間に、ミーアの声だけが響いた。


リリアンは、何も言わなかった。

ただ、ゆっくりとミーアを見る。


その瞳に浮かんでいたのは、怒りではなかった。

――絶望だった。


やがてリリアンは視線を落とし、しばらくの間、何かを耐えるように唇を噛みしめる。


そして再び顔を上げた時には、もう迷いはなかった。


「……そうですか」


その声は、不思議なほど穏やかだった。


まるで、全てを受け入れる覚悟を決めたかのように。


こうして――悪役令嬢リリアンの最後は、あっけなく終わった。


*****


「いや、リリアンに罪を背負わせてんじゃねーよ!!!!」


私はスマホをベッドに叩きつけた。


ぽすん、と間の抜けた音がする。


画面に映っていたのは、さっきまでの断罪シーン。壮大なBGMがブツリと途切れた。


「……はぁ」


私はベッドに倒れ込み、天井を睨んだ。


『光の巫女は運命を恋う』。


大手ゲーム会社が発売した、女性向け恋愛ゲーム

――いわゆる乙女ゲームである。


発売前から大々的に宣伝され、かなり期待されていた作品だ。ゲームシステムも悪くない。攻略対象のキャラクターも魅力的だし、主人公も好感の持てる性格をしている。


それなのに、評価は「中の上」。


理由は、ものすごく単純だった。


――悪役側が不憫すぎる。


特に、その元凶となったキャラクターがミーアである。


主人公は、希少な光魔法の使い手であることを認められ、特待生として魔法学園に入学する。


ところが、入学して早々。同学年の少女、ミーアからいじめを受けることになる。


教科書を隠される。嫌味を言われる。わざとぶつかられる。


テンプレみたいな嫌がらせのフルコースだ。


しかもミーアは毎回こう言うのだ。


「全てはリリアン様のためです!」


主人公は平民。対してリリアンは公爵令嬢。


だからプレイヤーたちは思った。


――どんな性悪令嬢なんだ、そのリリアンって。


しかし蓋を開けてみれば、断罪の場に現れたのは儚げで、可憐で、どう見ても超絶美少女だった。


しかも、ミーアの行動は完全に独断。リリアンは何も知らなかった。


そして極めつけが、あの断罪シーンだ。


追い詰められたミーアは、自分を守るためにリリアンへ罪を押しつけた。


「リリアン様に脅されていたんです!」


いやいや「全てはリリアン様のため」とか言ってたのは、お前だろ!


「……納得できるかぁ!」


私は枕を抱きしめながら、もう一度叫んだ。


結果、ミーアは処刑。


リリアンは修道院送り。


主人公は光の巫女として認められ、攻略対象たちと幸せになる。


めでたし、めでたし。


……なわけがない。


リリアンだけ、何も悪いことをしていないのに。


だから発売当時から、ネットではリリアンへの同情の声が絶えなかった。


『リリアン救済ルートください』

『どう考えても一番かわいそう』

『ミーアは何なの?』

『リリアン様を幸せにしろ』


そして、かくいう私もリリアン推しだった。


グッズを見つければ買う。新しいイラストが公開されれば保存する。数少ない出番を何度も見返す。友達とリリアンの魅力について語り合う。


挙げ句の果てには、ミーア擁護派とネットでレスバまでした。


……我ながら、かなりの厄介オタクである。


それでも。


リリアンには幸せになってほしかった。


本当に、それだけだった。


「……いつか救済ルート、追加されないかな」


そんなことを呟きながら、私はスマホを拾い上げる。


画面には、柔らかく微笑むリリアンが映っていた。


「おやすみ、リリアン」


明日も仕事だ。

私はスマホを枕元に置き、布団へ潜り込む。


今日も推し活を満喫した。

そんな満足感を抱えながら、私は静かに目を閉じた。


――この時の私は、まだ知らなかった。


次に目を覚ました時。


私自身が、あの物語の中にいることを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。