何時も
「誰がやったん。」
ひそひそ声が、教室一杯に充満して、息苦しい。
「いや、まさか、マジに放火やったなんて、なぁ。」
旭は、大して驚きもせず、新しく出たお菓子のCMを見た感想でも話す、口振りで言う。
「あ、でもまだ、放火って決まったワケ、ちゃうか。」
放火って決まったワケじゃない。
だからって、
自然発火
なんて、不自然だ。
今は、5月で、乾燥する季節でもない。そもそも、体育館に、火災の元なんて、あるのか。
「あのさぁ、思うんやけど、放火犯は体育館やなくて、家庭科室とか、理科室に放火すれば、よかったんちゃう。」
いきなり、この子は何を言いだすのやら。
旭は、やる気の抜け切ったブレザーを気にしつつ、楽しそうに話す。
「なんで。」
「自然発火に見立てて、連続して色々な教室を、放火したら、謎の発火事件として語り継がれるかもやん。」
「ムリやろ。」
ブレザーが1年前の、この頃に比べると、大分、よれよれになっているのと同じように、自分も何かが抜けて、なくなってしまって、よれて皺だらけになって。
つまり、
脱力感。
「いいや、出来るかも知れへんで。」
旭はサンタクロースを待つコドモのように、夢を思い描く。
夢の思い描き方を、自分は、もう、忘れてしまった。
「皆ぁ、ほら、静かに。」
いつの間にやら、先生が前に立っていた。
「午後の授業は」
教室内が水を打ったように、静まり返る。
「無し、になりました。」
「よっしゃぁぁあああ!!」
爆音の渦。
「やった。」
旭と軽く手の平を打ち合わせる。
特に何がどう嬉しいとか、そういう具体的なものはないが、周りの皆は騒ぎ立てる程、喜んでいるので、自分も精一杯、嬉々とした表情を浮かべてみせる。
「あ。」
ふと、旭が何かを思いだしたように、呟いた。
「え、何。」
「次の月曜から教育実習の先生が来るんちゃうかったけ。」
そう言われれば。
「こんなことになってんのに、大丈夫なんかなぁ。」
「まぁ、ある意味、最高にいい経験になるんちゃう。」
旭は、にやりと笑う。
「まぁ、なぁ。」
火事が起こった。
それよりも午後の授業がなくなることの方が、皆にとっては、一大事なのだろうか。
新聞に載ることの方が。ニュースになることの方が。
体育館を使う運動部は、どうするのだろう。暫く、立ち入り禁止になる筈だ。練習はおろか、ボールの一つも、取りに行かせては、くれないかも知れない。
それでも、
体育館が燃えた。
という事実より、
そういう、表面的な大騒ぎの方が、楽しく、心地良いものなのか。
そういう、快楽も、自分は覚えていない。
事件は、決して、心地良いものでも、気持ち良いものでもない。
それなのに、
それだから。
異常が起こり、常ではなくなることと、祭り、祝い事は、同義か。
明日は、土曜日。
きっと、
常ではない、
何時もの土曜日だろう。




