番外編「収容所にて」
『——おい、天使軍さんよぉ!』
鉄格子が裸足で蹴られた。彼の努力は虚しく、鉄の塊が震える鈍い音のみが発生する。
その声に振り向いたのは、天色の髪を揺らす一人の少女だった。
「はい」
『もうこんな薄暗い所はごめんだ! 尋問と説教の繰り返し! 俺たちに何がしたいんだ!』
「……それはもう、お分かりでは?」
『もう十分だろ! 俺たちもう何日もここにいるんだぞ! 返してくれよ!』
「まだ1ヶ月経ってませんよ、せっかちさん」
少女は呆れる様に肩をすくめた。ここの檻に収容されている者は、全てがアルカディアの一員であった。アルカディアとは悪の組織である……いや、天界と人間界で暴れ回る、人々に被害を及ぼしている組織である。
単に悪とは言い難い。生命への侮辱をしているに過ぎない。
ここにいる者の中は、過去に犯罪を犯したことがある者もいれば、経歴がない者、子供などさまざまな人物がいる。
「それに、私たち天使軍だって天界へ帰れないんです。この中の誰かが、あの結界の解き方を教えてくれない限りは」
共通点とすれば、この部屋にいる唯一の天使軍、マニを見る鋭い目つきである。まるでこちらが悪者だ。彼女はそう思った。
それでも、彼らを解放するわけにはいかない。彼女は全ての悪魔から目を背け、この収容所を出ようとした。
『なぁ、天使軍さんよぅ……なんで殺さねえんだ』
掠れた声でマニを足止めしたのは、腕に大きく傷を負った、若い女性だった。
「……殺す? なんのことでしょう」
『アタシたちのことだよ……アルカディアは、お前さんの敵だろう。憎らしい奴らはさっさと片付けたほうが……人生楽だぜ』
「ご忠告感謝します、『ミゼル』さん」
『………っ!』
ミゼル、と呼ばれた女性は目を丸くした。なぜなら、名前を呼ばれたからである。この小型収容所では、囚人は番号で呼ばれる筈だ。よって自分の本名を忘れかける者も多くいる。ミゼルもその一人であった。
「私だけではありません。他の隊員にも、あなたたちの名前を顔を一致させています。もちろん、囚人番号も」
『…………なぜだ』
マニは、ミゼルの問いから顔を背けた。扉に備えられたエフェークオスに手をかざし、解錠する。扉が魔法によって開かれた時、マニは振り向き、彼らに微笑みかけた。
「人を殺しても、世界は変わりません。あなたが企もうと、私たち天使軍が抑え付けます。安心して未来をお過ごしください」
一字一句間違えずに、彼女はマニュアル通りの文字を唇から溢した。
以前から本編に書こうと予定していた話ですが、
作者の考えを含め、本日番外編という形でこの回を投稿させていただきました。よろしくお願い致します。




