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NEW・アルカディア!  作者: 祝 冴八
[DAY5]確執への抱擁
38/64

5-G 随伴! 正義の赤いマフラー!

5秒で分かる前回のあらすじ

「新キャラだ! 敵だ! アホの子だ!」


「あの、メノスさん……じゃなくてメノス」

「なんだ」

「あの、一応聞きたいんですけど……」


 ——グルルルルルルルル…………


 質問の代わりに、私の腹の虫が鳴いた。彼は顔をしかめた。


「…………」


 服に飾られたチェーンが、彼が歩くたびガシャガシャ音を鳴らす。


「ご、ごめんなさい、消化器官の非随意的な活動で……」

「…………」


 ——ズボッ‼︎


 言い訳をつらつらと呟いていた私の口の中に、目にも止まらぬ速さで柔らかい何かが突っ込まれた。

 驚いてソレを手で口から取り出し、確認してみると…………


 それはチョコレートの入った、とぐろを巻いたパンだった。


「……チョココロネ」


 彼はそれだけ言って私を放った。

 そうか、これはチョココロネか。

 …………


 …………くれるのかな……?


「ありがとう……」

「チョコレートが入っててうまいぞ」

「う、うん」

「一巻きずつ食べれば何日か食べ続けられる」


 は⁉︎ 待て! 聞き捨てならないぞ⁉︎


「メノス‼︎ 一食にちゃんと適量食べてんのアンタ⁉︎」

「そんなこと知ってもどうしようもないだろ」


 彼はそれだけ吐いて歩みを進めた。


「どうしようもないって……って、ああ! ちょっと待ってよ!」


 それを私は早歩きで追いかける。追いつきそうな距離まで行けば、先ほど聞きそびれた質問を尋ね直すことにした。


「ええっと、ねえメノス、一応聞くけど、ここってアルカディアだよね?」

「当たり前だ」

「よかった……私、出口が分からなくて。連れてってもらえないかな……?」

「ああ……とりあえずコイツを放り込んでからな」


 メノスは左手で摘んでいる天生物をぶらぶら揺らして見せてきた。


「やったー!」


 その天生物自身は、眠っているわけではないが、一切鳴き声を上げずに大人しく運ばれている。


「……ところで、この子はどこに連れて行くんすかセンパイ」

「あ? そんなことも知らんのか」


 いかん、ちょっと気に障ったらしい。すごいコメカミに皺寄ってる!


「実験ラットにするだけだ。それ以上もそれ以下もない」

「実験ラット? なんの実験?」

「さあ」

「いや知らんのかい!」


 ついツッコミを入れてしまった。このメノスとかいう人、もしかしてアルカディアの一員じゃないんじゃ……? いや、そんなことはないのはわかっているが。


「どうせ失敗しかしないんだ。それに、内容を知ったところで俺には理解できないからな」


 ——なるほど、とりあえずわかったことは、天生物は実験体だと言うことだ。

 しかし、今の彼の言い方だと、実験をしているのはメノスではないようだ。当事者でない者に出会ってしまったのは結果として残念だが、私の命からすれば幸いだったかもしれない。


「う、うーん、そうなのか……」


 私が相槌を打つと、途端に会話が途切れてしまった。

 ま、まあいいだろう。天生物の用途がわかった。それはかなり有益な情報になった気がする。インカムの向こう、つまりエルたちの反応を想像しながら、この沈黙を見過ごした。


「……あ、ねぇねぇメノス」


 少し歩いた末、私は静寂を切るための話題を思いついた。


「さっきからさ、メノスが誰かに似てるなーって思ってたんだよね……」

「は? 俺が?」

「うん。心当たりない? 『俳優のナントカに似てる〜』とか言われたりとか」

「ないな」


 メノスは一切こちらを向かず、淡々と単語を吐く。

 一応念を押しておくが、これは接待とかそういうのでは全くなく、私は本当にメノスの容姿に見覚えがあって話しているのである。

 彼の後ろを歩きながら思考を巡らせていると、彼が巻いていたマフラーが、私の顔に軽く当たった。


「——赤い——マフラー……チェーン……」



「————ああっ!」



 私が急に叫んだからか、メノスは瞬時に振り向き、私に身構え始めた。


「……なんだ」


 目が細くなっててめちゃくちゃ不機嫌そう! ごめんなさい!


「お、思い出したんだよ! 『さすらい勇者』に出てくる主人公!」

「さすら……なんだって?」


 彼は私の叫びに反して、事件の一つも起きていないことを悟ったようで、すぐさま元の進行方向に戻って歩き始めた。


「『さすらい勇者』知らないの⁉︎ ゲームだよゲーム! 人間界で20年くらい続いてる、人間界イチ有名といっても過言じゃないゲームだよ!」

「知らん」

「知れよ!」


 私は両腕を高速に上下に動かして、メノスの冷たい返事に対抗した。

 説明しよう!

 『さすらい勇者』シリーズは、勇者となった主人公が、いろんな街に放浪して最終的に悪者のボスを倒す、王道ファンタジーRPG(ロールプレイングゲーム)である!

 ちなみに、今年さすらい勇者の新シリーズが出たのだが、題名が『さすらい勇者・王手』だった。


「主人公は勇者なんだけど、赤いマフラーをつけてるの! あとね、目元がキリッとしてるところとかもメノスにすごく似てるんだ!」

「……どうでもいい」

「どーでもよくないよ! メノスも優しいしさ、勇者と言っても過言じゃないでしょ! どうよ?」


 私はメノスの表情を伺った。正直言って、私はメノスさんはいい人だと勝手に確信している。迷ってる人を助けてくれる時点で、絶対根は悪い人じゃ無い筈————


「うるさい」


 立ち止まって、私に指差した。


「二度と俺を勇者とか言うんじゃない。今後一切だ。似たモノを着てるだけで一緒にするな」


 声ははぼとりとその場に落ちた。重くて、拾い上げられそうにない。

 私は、私が刺してしまったであろう言葉のナイフを、もう振るわないように、胸の奥に仕舞い込む事にした。


「ご……ごめんなさい」

「…………」


 メノスはまた歩き出す。

 いかん、気まずくなってしまった。だがこんな廊下の真ん中に置いていかれてもそれはそれで困るので、私は彼の後ろを静かについていく事にする。


『まぁ……! 口が悪いにも程がありますよ‼︎ 彼はいつかお説教です!』

『マニ、感情的になったらダメだよ。アルカも聞いてるから』


 インカムから聞こえる声によって、私だけは気まずさが薄れた。やっぱり知っている人の声は安心するな……とほほ。

 などと考えながら足を進めていたら、目の前のメノスが足を止めた。


「……ほら、着いたぞ」


 そう言って指さしたのは、廊下の壁にすっぽりハマった、金属製の扉だった。


「……なんか急に出てきたね」

「いや? ずっとここにあったが?」


 ちげーよ。今まで廊下に窓の一つも無かったからそう感じたってことなんだよ。ずっとここにあったってのはメノスの記憶の中であって……あーなんかどうでもいいや。


「というか、もう怒ってないの?」

「なんの話だ」


 そう軽くあしらうと、メノスは無言で開戸のノブを回した。メノスを先頭に、横幅の狭い入り口をくぐってみると——


「——うっ……」


 壁に沿って左右にざっと並べられているのは、アルミ製の檻。あるいは虫かご。それらの中に、大小様々な見たこともないような動物が敷き詰められていた。いや、これは人間界の動物ではない。天生物だ。

 ゲージを齧って外に出ようとする者。こちらに延々と吠え続ける者。ゲージの奥で怯えて動かない者。今にも餓死をしそうな者。

 まるで留置所だ……いや、留置所以上に、動物たちの生きる権利を否定している。


「ひどい……」

「あんまりそいつらと目を合わせるなよ——『希望を持たせるな』って意味だ」


 メノスは振り向かずに言い放った。やっぱりそうだ。一見落ち着きを払っているように感じるが、彼も人の子……もとい、天界人の子だ。慈悲の心がないということはないのだ。


 ガシャンと金属音を鳴らし、彼は小さな檻を開けて、持っていた天生物を雑に放り込む。


 ——ああ、これじゃあ本末転倒だ。本来はあの天生物をハイジュウにしないために私がゲートに入ったようなものだったのに。そして、本来なら他の天生物だって助けたいのに。私は何もできないまま、彼らがまた逃げ出すのを祈るしかないのか……


 そう気落ちしていた時だった。

 この部屋の隣で、大きな破壊音がした。


 ——ガジャァッ! ガラガラガラッ!


 地鳴りが起きる。咄嗟に当たりを見渡したが、この部屋には異常がない。


「……ここを出るぞ。この豚小屋に押し潰されたくなければな」


 メノスが冷淡にそう言った。手袋をはめた指で、私達の背後のドアを指す。先に出ろ、ということだろう。

 私は頷き、出口を飛び出す。


 するとソレは、すぐに視界に入ってきた。



 何かが基地の床をえぐり出していた。焦茶色の、太い何か。


 それはうねりながら頭上に伸びている。天井さえ突き抜いており、穴の中から見えるそれは。


 ——赤い果実を実らせた、


 雲をも超えるほど、大きな、木だった。



「…………は?」

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