5-F 潜入! 流れる風向き東向き!
5秒で分かる前回のあらすじ
「のわあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
『大変! アルカさんが!』
『…………』
『ソレイルさん、どうにかなりませんか…………ああ! 私がエルさんに模擬戦なんて挑んでいなければ…………!』
『…………』
『ホントに私はダメな子です。こんなことになるなんてもうダメです…………』
『…………大丈夫』
『大丈夫、これはむしろチャンスだから』
*
「————うぅ、いてててて……」
私が目を開けると、そこは見知らぬ施設の、通路のど真ん中だった。
「ええっと、そうだ、私はゲートを通って——って、ここはどこ?」
辺りを見渡してみると、先ほど私が倒したハイジンの破片と、気絶している天生物を発見した。
それ以外に視界に見えるのは、右曲がりに延々と伸びる灰色の廊下だけであった。
「もしかして……もしかしてもしかして、アルカディアの基地に来ちゃったのかな…………あれッ」
私は更に周りを見渡した。
——さっき通ってきたはずの、ゲートが無い。
「ま、まさか…………!」
「私、帰れなくなった——⁉︎」
いや、大丈夫! エフェークオスがあれば新しいゲートが開けるから——
「——そういえば、エフェークオスってエルが持ってんじゃん‼︎ ぬおおおおおおおおおお‼︎」
なんばしょっと⁉︎ 私!
これは困った。エフェークオスがないと帰れないどころか、エル達との連絡も取れない。いわゆる八方塞がりってやつだ。
あの時、エルが私にハイジンへの攻撃を止めるように言ったのは、こういうことだったのか。今頃きっと、エルは私のことを心配しているだろう。
と、途方に暮れていた所、助け舟の声が聴こえてきた。
『————カ、返事をして、アルカ!』
辺りを見渡す。彼の姿はない。遂に幻聴まで聴こえるようになってしまったか、と考え出し、私は少し焦りを覚えた。
「エ、エルいるの⁉︎ どこにいるの⁉︎」
『下だよ、アルカ』
下……その言葉通りに自分の足元を覗いてみると、見覚えのある金属が蠢いていた。
「これ……ソレイルさんのクモロボット!」
咄嗟にしゃがんでそれを観察する。
胴が缶詰め型の、長い節足を持つロボット。これは紛れもなく、つい先ほど見たソレイルさんの探索機だ。
『よかった、まだアルカが無事で』
その中からエルの声が聴こえた。恐らくこのロボットは通信機能が付いているのだろう。恐ろしいスペックである。
「エル、エルなの⁉︎ エルは大丈夫だった⁉︎」
『うん。僕はすぐ軍基地に戻ってきたんだ。それより、自分の心配をしないの? アルカ』
彼は少しおかしそうに返事をしてくれた。
よかった、エルが安全なら悔いはない。
「エル、ごめんなさい。私、またエルの言うこと守らなくて」
『……大丈夫。それよりアルカ、まずはこの探索機にある——』
『ああっ! アルカさんだ! アルカさんご無事ですか⁉︎ 怪我はないですか⁉︎ 寒くないですか⁉︎ お腹空いてないですか⁉︎』
突然エルではない声が聴こえた。もちろん私の知ってる人だ。
「だ、大丈夫だよマニさん」
『はあよかったあ……! もうエルさんもソレイルさんも、ずっと画面見てたなら早く教えて下さいよぉ! もう!』
「ははは……心配かけてごめんなさい」
私はちょっぴり笑った。こんな状況でも、彼らの声が聞こえるのは心強い。
ロボットを掌に乗せてよく見てみると、そのボディの中に、小さなレンズの様なものが無数に埋め込まれているのがわかった。
なるほど、これがカメラなのか。と言うことは、エル達の見ている画面に今、私の顔がドアップで映っているかもしれない。想像したら吹き出しそうになった。
『アルカさん寂しくないですか⁉︎ 何か落ち着けるように、って、ちょっとエルさん何するんですか……もがっ』
『……あーもう、すぐ騒ぐんだからマニは……ごめんねアルカ』
「ううん。エル達がいてくれるだけで嬉しいや」
私が肩をすくめると、あちらからも軽く笑う声が聴こえた気がした。
『それじゃあアルカ、この探索機のフタを開けてもらえる?』
「フタ?」
探索機——クモロボットのフタ——って、やっぱりこの缶詰のタブっぽいやつだろうか。念のため上下左右確認してみたが、フタっぽいものはそこ以外にはなさそうだ。
意を決してタブに指をかける。そのまま上に引き上げてみると、想像通り簡単にフタが開いた。
「マジで缶詰めじゃねえか……」
誰だよこれデザインしたの。確かに長期保存には便利なのかもしれないけど、長期保存する様なものを探索機に入れるんでない!
「中に何か入ってる……」
『掛けてみて』
「掛ける?」
中からそれを取り出すと、小豆の様な黒い粒が出てきた。でもエルは「掛ける」と言ったはず。何も「掛ける」という動作ができる物には見えないが……
……と思っていたら、その小豆が、一瞬にして変形した。
「……っはァッ⁉︎」
よくみると、それは装飾の施された黒縁のメガネだった。
……メガネ? そうか、これなら掛けられる!
「掛けたよ!」
『そうか、どう? 聴こえる?』
「のわっ⁉︎」
そのメガネを掛けた途端、エルの声が耳元ではっきり聴こえる様になった為、私はつい一驚してしまった。
「も、もしかしてこのメガネ、イ、インカムってヤツですか⁉︎ 映画とかで、すすすす、スパイが新聞読んでるフリして『——今の聴こえたか?』ってやる奴ですか⁉︎」
『う……? う、うん、たぶんそうだよ』
「うっひょおおおおおお! すっげー! 超かっけー!」
私は興奮して、メガネのフレームをペタペタ触った。確かに、通常のメガネよりテンプルの部分が太くなっている気がする。なるほど、きっとその辺りから音が出ているのだろう。
——コツン
と、その直後、背後から音がした。はっとして瞬発的に、その音から遠ざかる様に跳び退き、振り向いた——
——ジャキィッ!
それも束の間。私の喉元に冷たいモノが突きつけられた。背後は壁。しまった、逃げられない。
剣……? いや、剣にしては刃が片方しかない——そうか! これはファルシオンってやつだ! きっとそうだ!
…………じゃなくて!
「——貴様は誰だ」
………ギャラクアス語だ。そのファルシオンを握っている者が発したのは、ギャラクアス語だった。明らかな殺意の篭った赤い瞳は、確実に私を捕らえていた。
『今から絶対に、僕に返事をしてはだめだよ』
エルの、いつもよりトーンを落とした声が耳元から聞こえてきた。冷や汗を掻いて硬直していた私は、エルの声ではっと我に帰り、状況を考え直す。
——この人、アルカディアの人なんだ。
赤いメッシュが一本入ったブロンドの髪。首には赤いボロボロのマフラーを巻いている。私より年上、恐らくエルと同い年くらいの男の人だった。
「わ、私は——」
辿々しいギャラクアス語で、私は彼との会話を試みる。
すると、耳元でエルが助言をしてくれた。私はそれに従って口を動かす。
「て、天生物が逃げていたから、追いかけていたところ、です……」
その男の人は、ファルシオンを突き立てたまま動かずに顔をしかめた。
「天生物なんてどこにいる」
「え! いましたよ! ほら、その辺に……」
私は、先程ハイジンが倒れていた場所を指差す。
ハイジンこそ既に「蒸発」してしまっていたが、モフモフの天生物はそこでしっかり寝転がっていた。
「ほら、これですよ」
「……ああ…………」
すると、彼はファルシオンを下ろして、ぼそりと呟いた。
「めんどくさ……」
は?
「ど、どうしましたか」
「いや、コイツらが逃げ出すのはしょっちゅうだからな。第一、コイツらに対するセキュリティーがガバガバすぎる」
そう言って、彼は天生物に近づき、その首根っこを摘み上げた。
「は、はぁ」
天生物ってよく逃げ出すんだ……確かに学校とか私の家の近くでもいろいろ出てきてたし、彼の話は恐らく真実だろう。
……あれ? なんか急にこの人から敵対心消えたっぽいのでは?
「……というか、お前は誰だ」
まだだった。
「え、えっと……あの……」
『アルカ、“新人です”って言って』
「えっと、し、新人です……」
私はなにも考えずエルの言葉を繰り返した。
すると、突然マニさんが喚き出した。
『エルさん⁉︎ 新人ですはなくないですか⁉︎ 新人って! それってアルカディアの新人ってことですよね⁉︎ それ系って“新人が入るなんて聞いてなかった”って言われてよくバレるやつですよ!』
————え⁉︎ 今私言っちゃったけど⁉︎ マ、マニさんそれ早く言ってぇぇぇ⁉︎
私が全身を震わせた直後、ファルシオンの少年は顔をしかめて口を開いた。
「新人? そんなの入るなんて言われてなかったが」
しまった! マニさんが言ってた通りの事言ってる! バレる! 私終わった!
「……ったく、何故いつも俺には連絡がないんだ……」
……いや、なんか流れが違う……?
「『ブロッコリー』ができない奴らばかりで非常に困る」
………………
…………あ!
多分それ『報・連・相』だな⁉︎ いやあ、面白いジョーク……だなぁ……? ……なのかな……?
「おい新人。新人なら新人で、何故ここに居る」
「…………」
……あれ⁉︎ この人、私のこと思いっきり『新人』って呼んでないですか⁉︎
もしかして、もしかしなくても、彼を騙せたのか⁉︎
『…………あれ……?』
ほら!マニさんも困惑してる‼︎
「え、えっと、天生物を追いかけてただけなのですが……」
「…………っ」
私の答えに、何故かその人は悔しそうな顔をし始めた。
「そうだった…………っ!」
あれ、なんか自分でダメージ受けてる。
「……新人、名前は」
なんか名前聞いてきた。
「ええっと、私はア——」
『ダメ! 本名はダメだ』
エルの言葉で私は口を紡ぐ。
そうか、本名教えたら後に居場所だのなんだのバレる可能性があるのか。
「ア……ア…………」
「アポカリプスです」
——説明しよう!
アポカリプスとは、キリスト教における黙示のことである!
「……は?」
やめて。聞き返さないで。
「アポカリプスって……本名か……?」
あ! なんか信じかけてる!
「そうです! 親がキリスト教大好きなので! こんな名前にされました!」
「……災難だな」
少年は、かわいそうなものを見る目で私を見下ろした。
彼は重そうなファルシオンを肩に担ぎ、体重を左脚に移動させた。
「じゃあ、言いづらいからアリスだな」
アリス! めちゃくちゃお洒落な略称をしてくれたじゃないかこの人。
「俺はラティメノスだ。メノスと呼べ。今からソイツを戻しに行く。ついて来い」
メノスさん、という人は、一切笑うことなく淡々と単語を吐き、背を向けた。
頼もしそうでそうでもない背中を見て、少しニヤついてしまった。
「えへへ、おっす! 兄貴‼︎」
「——メノスだ」
「メ、メノスさん……」
「敬称もいらん。寒気がする」
——いや、この状況面白すぎだろ……
「よろしく、メノス」
私は躊躇もなく、彼の後についていくことにした。




