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NEW・アルカディア!  作者: 祝 冴八
[DAY5]確執への抱擁
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37/64

5-F 潜入! 流れる風向き東向き!

5秒で分かる前回のあらすじ

「のわあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


『大変! アルカさんが!』

『…………』

『ソレイルさん、どうにかなりませんか…………ああ! 私がエルさんに模擬戦なんて挑んでいなければ…………!』

『…………』

『ホントに私はダメな子です。こんなことになるなんてもうダメです…………』

『…………大丈夫』


『大丈夫、これはむしろチャンスだから』



「————うぅ、いてててて……」


 私が目を開けると、そこは見知らぬ施設の、通路のど真ん中だった。


「ええっと、そうだ、私はゲートを通って——って、ここはどこ?」


 辺りを見渡してみると、先ほど私が倒したハイジンの破片と、気絶している天生物を発見した。

 それ以外に視界に見えるのは、右曲がりに延々と伸びる灰色の廊下だけであった。


「もしかして……もしかしてもしかして、アルカディアの基地に来ちゃったのかな…………あれッ」


 私は更に周りを見渡した。


 ——さっき通ってきたはずの、ゲートが無い。


「ま、まさか…………!」


「私、帰れなくなった——⁉︎」


 いや、大丈夫! エフェークオスがあれば新しいゲートが開けるから——


「——そういえば、エフェークオスってエルが持ってんじゃん‼︎ ぬおおおおおおおおおお‼︎」


 なんばしょっと⁉︎ 私!

 これは困った。エフェークオスがないと帰れないどころか、エル達との連絡も取れない。いわゆる八方塞がりってやつだ。

 あの時、エルが私にハイジンへの攻撃を止めるように言ったのは、こういうことだったのか。今頃きっと、エルは私のことを心配しているだろう。


 と、途方に暮れていた所、助け舟の声が聴こえてきた。


『————カ、返事をして、アルカ!』


 辺りを見渡す。彼の姿はない。遂に幻聴まで聴こえるようになってしまったか、と考え出し、私は少し焦りを覚えた。


「エ、エルいるの⁉︎ どこにいるの⁉︎」

『下だよ、アルカ』


 下……その言葉通りに自分の足元を覗いてみると、見覚えのある金属が蠢いていた。


「これ……ソレイルさんのクモロボット!」


 咄嗟にしゃがんでそれを観察する。

 胴が缶詰め型の、長い節足を持つロボット。これは紛れもなく、つい先ほど見たソレイルさんの探索機だ。


『よかった、まだアルカが無事で』


 その中からエルの声が聴こえた。恐らくこのロボットは通信機能が付いているのだろう。恐ろしいスペックである。


「エル、エルなの⁉︎ エルは大丈夫だった⁉︎」

『うん。僕はすぐ軍基地に戻ってきたんだ。それより、自分の心配をしないの? アルカ』


 彼は少しおかしそうに返事をしてくれた。

 よかった、エルが安全なら悔いはない。


「エル、ごめんなさい。私、またエルの言うこと守らなくて」

『……大丈夫。それよりアルカ、まずはこの探索機にある——』

『ああっ! アルカさんだ! アルカさんご無事ですか⁉︎ 怪我はないですか⁉︎ 寒くないですか⁉︎ お腹空いてないですか⁉︎』


 突然エルではない声が聴こえた。もちろん私の知ってる人だ。


「だ、大丈夫だよマニさん」

『はあよかったあ……! もうエルさんもソレイルさんも、ずっと画面見てたなら早く教えて下さいよぉ! もう!』

「ははは……心配かけてごめんなさい」


 私はちょっぴり笑った。こんな状況でも、彼らの声が聞こえるのは心強い。

 ロボットを掌に乗せてよく見てみると、そのボディの中に、小さなレンズの様なものが無数に埋め込まれているのがわかった。

 なるほど、これがカメラなのか。と言うことは、エル達の見ている画面に今、私の顔がドアップで映っているかもしれない。想像したら吹き出しそうになった。


『アルカさん寂しくないですか⁉︎ 何か落ち着けるように、って、ちょっとエルさん何するんですか……もがっ』

『……あーもう、すぐ騒ぐんだからマニは……ごめんねアルカ』

「ううん。エル達がいてくれるだけで嬉しいや」


 私が肩をすくめると、あちらからも軽く笑う声が聴こえた気がした。


『それじゃあアルカ、この探索機のフタを開けてもらえる?』

「フタ?」


 探索機——クモロボットのフタ——って、やっぱりこの缶詰のタブっぽいやつだろうか。念のため上下左右確認してみたが、フタっぽいものはそこ以外にはなさそうだ。


 意を決してタブに指をかける。そのまま上に引き上げてみると、想像通り簡単にフタが開いた。


「マジで缶詰めじゃねえか……」


 誰だよこれデザインしたの。確かに長期保存には便利なのかもしれないけど、長期保存する様なものを探索機に入れるんでない!


「中に何か入ってる……」

『掛けてみて』

「掛ける?」


 中からそれを取り出すと、小豆の様な黒い粒が出てきた。でもエルは「掛ける」と言ったはず。何も「掛ける」という動作ができる物には見えないが……


 ……と思っていたら、その小豆が、一瞬にして変形した。


「……っはァッ⁉︎」


 よくみると、それは装飾の施された黒縁のメガネだった。

 ……メガネ? そうか、これなら掛けられる!


「掛けたよ!」

『そうか、どう? 聴こえる?』

「のわっ⁉︎」


 そのメガネを掛けた途端、エルの声が耳元ではっきり聴こえる様になった為、私はつい一驚(いっきょう)してしまった。


「も、もしかしてこのメガネ、イ、インカムってヤツですか⁉︎ 映画とかで、すすすす、スパイが新聞読んでるフリして『——今の聴こえたか?』ってやる奴ですか⁉︎」

『う……? う、うん、たぶんそうだよ』

「うっひょおおおおおお! すっげー! 超かっけー!」


 私は興奮して、メガネのフレームをペタペタ触った。確かに、通常のメガネよりテンプルの部分が太くなっている気がする。なるほど、きっとその辺りから音が出ているのだろう。


 ——コツン


 と、その直後、背後から音がした。はっとして瞬発的に、その音から遠ざかる様に跳び退き、振り向いた——


 ——ジャキィッ!


 それも束の間。私の喉元に冷たいモノが突きつけられた。背後は壁。しまった、逃げられない。

 剣……? いや、剣にしては刃が片方しかない——そうか! これはファルシオンってやつだ! きっとそうだ!

 …………じゃなくて!


「——貴様は誰だ」


 ………ギャラクアス語だ。そのファルシオンを握っている者が発したのは、ギャラクアス語だった。明らかな殺意の篭った赤い瞳は、確実に私を捕らえていた。


『今から絶対に、僕に返事をしてはだめだよ』


 エルの、いつもよりトーンを落とした声が耳元から聞こえてきた。冷や汗を掻いて硬直していた私は、エルの声ではっと我に帰り、状況を考え直す。


 ——この人、アルカディアの人なんだ。


 赤いメッシュが一本入ったブロンドの髪。首には赤いボロボロのマフラーを巻いている。私より年上、恐らくエルと同い年くらいの男の人だった。


「わ、私は——」


 辿々しいギャラクアス語で、私は彼との会話を試みる。

 すると、耳元でエルが助言をしてくれた。私はそれに従って口を動かす。


「て、天生物が逃げていたから、追いかけていたところ、です……」


 その男の人は、ファルシオンを突き立てたまま動かずに顔をしかめた。


「天生物なんてどこにいる」

「え! いましたよ! ほら、その辺に……」


 私は、先程ハイジンが倒れていた場所を指差す。

 ハイジンこそ既に「蒸発」してしまっていたが、モフモフの天生物はそこでしっかり寝転がっていた。


「ほら、これですよ」

「……ああ…………」


 すると、彼はファルシオンを下ろして、ぼそりと呟いた。


「めんどくさ……」


 は?


「ど、どうしましたか」

「いや、コイツら(天生物)が逃げ出すのはしょっちゅうだからな。第一、コイツらに対するセキュリティーがガバガバすぎる」


 そう言って、彼は天生物に近づき、その首根っこを摘み上げた。


「は、はぁ」


 天生物ってよく逃げ出すんだ……確かに学校とか私の家の近くでもいろいろ出てきてたし、彼の話は恐らく真実だろう。

 ……あれ? なんか急にこの人から敵対心消えたっぽいのでは?


「……というか、お前は誰だ」


挿絵(By みてみん)


 まだだった。


「え、えっと……あの……」

『アルカ、“新人です”って言って』

「えっと、し、新人です……」


 私はなにも考えずエルの言葉を繰り返した。

 すると、突然マニさんが喚き出した。


『エルさん⁉︎ 新人ですはなくないですか⁉︎ 新人って! それってアルカディアの新人ってことですよね⁉︎ それ系って“新人が入るなんて聞いてなかった”って言われてよくバレるやつですよ!』


 ————え⁉︎ 今私言っちゃったけど⁉︎ マ、マニさんそれ早く言ってぇぇぇ⁉︎


 私が全身を震わせた直後、ファルシオンの少年は顔をしかめて口を開いた。


「新人? そんなの入るなんて言われてなかったが」


 しまった! マニさんが言ってた通りの事言ってる! バレる! 私終わった!


「……ったく、何故いつも俺には連絡がないんだ……」


 ……いや、なんか流れが違う……?


「『ブロッコリー』ができない奴らばかりで非常に困る」


 ………………


 …………あ!

 多分それ『報・連・相(ほうれんそう)』だな⁉︎ いやあ、面白いジョーク……だなぁ……? ……なのかな……?


「おい新人。新人なら新人で、何故ここに居る」

「…………」


 ……あれ⁉︎ この人、私のこと思いっきり『新人』って呼んでないですか⁉︎

 もしかして、もしかしなくても、彼を騙せたのか⁉︎


『…………あれ……?』


 ほら!マニさんも困惑してる‼︎


「え、えっと、天生物を追いかけてただけなのですが……」

「…………っ」


 私の答えに、何故かその人は悔しそうな顔をし始めた。


「そうだった…………っ!」


 あれ、なんか自分でダメージ受けてる。


「……新人、名前は」


 なんか名前聞いてきた。


「ええっと、私はア——」

『ダメ! 本名はダメだ』


 エルの言葉で私は口を紡ぐ。

 そうか、本名教えたら後に居場所だのなんだのバレる可能性があるのか。


「ア……ア…………」


「アポカリプスです」


 ——説明しよう!

 アポカリプスとは、キリスト教における黙示のことである!


「……は?」


 やめて。聞き返さないで。


「アポカリプスって……本名か……?」


 あ! なんか信じかけてる!


「そうです! 親がキリスト教大好きなので! こんな名前にされました!」

「……災難だな」


 少年は、かわいそうなものを見る目で私を見下ろした。

 彼は重そうなファルシオンを肩に担ぎ、体重を左脚に移動させた。


「じゃあ、言いづらいからアリスだな」


 アリス! めちゃくちゃお洒落な略称をしてくれたじゃないかこの人。


「俺はラティメノスだ。メノスと呼べ。今からソイツ(天生物)を戻しに行く。ついて来い」


 メノスさん、という人は、一切笑うことなく淡々と単語を吐き、背を向けた。

 頼もしそうでそうでもない背中を見て、少しニヤついてしまった。


「えへへ、おっす! 兄貴‼︎」

「——メノスだ」

「メ、メノスさん……」

「敬称もいらん。寒気がする」


 ——いや、この状況面白すぎだろ……


「よろしく、メノス」


 私は躊躇もなく、彼の後についていくことにした。

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