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NEW・アルカディア!  作者: 祝 冴八
[DAY5]確執への抱擁
35/64

5-D 休養! 交わす言の葉希望の鍵!

5秒でわかる前回のあらすじ

「エルvsマニ」


「悔しいぃぃ! エルさんに! エルさんに負けたぁ!」

「マニ、暴れないで。手元が狂う」


 広間でマニさんが駄々を捏ね出した。

 彼女の身体には無数の傷が入っており、その一部一部に、エルが手を添えていく。

 彼の手からは、青白い光が漏れている。どうやら傷を直す魔法、かっこよく言えば「治癒(ちゆ)魔法」をかけているそうな。


「……『治癒魔法』と言う割には、傷が残っているようだけど?」


 私が聞くと、エルが少し困った顔で答えてくれた。


「そうだね。この魔法は回復を早めているだけなんだ」

「早める……ってことは、完璧に治っちゃう訳じゃないんだね」

「うん。でも、小さな傷ならあと一分もすれば消えるし、骨折なんかは一日あれば治るよ」


 そう言ってから、彼は再びマニさんの方へ向き直した。


「うぇぇん! もうちょっとで勝てると思ったのに……あいたたたたっ!」

「うるさいなぁ……って、ここ折れてるじゃん」

「みゃぁぁぁぁ! 折ったのはエルさんでしょ!」


 彼女は椅子の上で足をバタバタさせて、なかなか泣き止まない。それを見て、エルがなにやら考え込み始めた。


「マニ」


 そして、彼はさっきまで見られなかった満面の笑みで、マニさんに向かって両手を広げた。


「おいで」

「行くものか‼︎」


 もはやコント! ……と、ツッコミたい気持ちは抑えよう。

 すると、彼はマニさんを見て、小首を傾げた。


「……なんで?」


 いやなんでとかじゃないんだよエル殿。君、とりあえずハグしときゃなんとかなるとか思ってるだろ。


「ただでさえ負けた相手にすがるなんておかしいですし、自分から締め殺されに行くなんて嫌ですよ! あと図体が大きすぎます!」


 マニさん大正論。最後の「図体」は彼女の好みの話なのだろうけど。


「私はもっと小さくて可愛らしい子供みたいなサイズを……」


 と言いかけ、彼女ははっと静止した。


 ——待て。どうして二人ともこっちを見るんだ!


「えーっと! そうだぁ! 私、急に用事が!」

「アルカさん逃げないでください!」


 私が彼らから離れようと踏み出した途端、マニさんに片腕を引っ張られ、私は盛大に後方へ転ける。

 と思えば、私は何か柔らかいものの上に座らされていた。

 まあ、マニさんの膝の上なんですけどね。


「聞いてくださいよアルカさん! こないだもエルさんってば、模擬戦だって言うのに、素手で私の足ボキボキに折ったんですよ! そろそろ慣れましたけど、本当に痛いって言ったのに! 本当に折らなくていいじゃないですかぁ!」


 そしてマニさん、怒涛の愚痴吐き。

 相当溜まってたんだろうなあ、などと思いながら、私はしばらく彼女の膝の上で静かにじっとすることにした。


「よかったね、マニ」


 頭を撫でられたり、頬を軽く抓られたりなど、通常中学一年生にやるべきことではないことをやらされながら、しばらく優雅な一時を過ごすこととなった。



 その数分後、マニさんは自分の傷の完治を待つべく、自室に入って行った。

 そうすると、白い広間の大きなテーブルの端っこに、私とエルだけが座っているという空間ができた。

 模擬戦といえど、エルもそれなりに体力を消費していたらしい。卵型の椅子にどかっと座り、全体重を背もたれに預け、ふーっとため息をついている彼に、私は話しかけた。


「……エルとマニさんって、いつもどっちが強いの?」

「……えっ? なんで?」


 質問を質問で返すんじゃあないぞ。

 ツッコミしそうな自分を抑え、私は椅子から浮いた足をパタパタ動かした。


「うーん、なんか、さっきはエルが勝ったけど、結構互角だったように見えて」

「へぇ……そうか、そうなんだね」


 彼はどういうわけか、感心したように私を見た。その顔は、いつも通りの爽やかな笑顔だった。

 彼は、いつも笑っているような気がする。いや、ただ単にそういう()をしているんだ。声音だったり目の細め方だったり、そういうところで喜怒哀楽は見分けられることがあるけれど、大抵は、ずっと笑っているように見える。

 もしかしたら、私が気がついていない時に、「笑っていない」ことも、あったかもしれない。


「そうだなぁ……マニは、優秀な人材だよ。僕なんかよりも、ずっと仕事ができる」


 彼は背もたれに肘を突き、その手の甲の上に顎を乗せた。そして、私の目を、(うたぐ)るかのように真っ直ぐに見つめてくる。


「えーっと、エルは仕事ができないの?」

「できないというか、なんだろうな……」


 彼は少し考える素振りを見せてから、ゆっくり口を開いた。


「例えば、普段の話をするとき、経緯から長々と話すのが僕で、初めから結論を話せるのがマニ、って感じかな」


 それを聞いてもピンとこなかった私は、腕組みをして、もう一度考えてみた。

 だがやっぱりよく分からなくて、捻った頭を先頭に椅子から転げ落ちそうになる。エルが瞬時に支えてくれたので、頭を床に打つことはなかった。


「うーん、ごめんエル。ちょっと、私にはよくわからないよ」


 私が言うと、相手はまた、柔らかい笑みを浮かべる。


「あはは、実は僕もよく分かってないんだ。ごめんね」


 えへへ、と彼は肩を竦めた。エル、たまにこうやって子どもっぽい仕草を見せるよなぁ、と思いながら、私はつられ笑いをした。


「あはは……あっ、じゃあさ、エルはなんで天使軍に入ったの?」


 私の椅子を彼の椅子に少し寄せてから、私は話を変えた。

 すると、相手は少し驚いたような顔をした。


「……僕?」

「うん!」

「……聞いても、あまり面白くないと思うよ」


 彼は恥ずかしそうに微笑した。しかし、さっきより雰囲気の柔らかみが増しているのを察した私は、更に距離を積めることを試みた。


「私はエルに昔のこと教えたじゃないか! ちょっとくらい教えてくれてもいいんだよ、ぎぶあんどていく!」

「あはっ、んー……そうだなぁ、どうしようかな」


 勿体ぶるなよこの……! あの、あれだ、えーっと………

 ……やっぱやめた! 悪口はよくない!


「でもなんというか……僕が軍に入ったきっかけは、本当に流れだったんだよね」

「流れ?」


 やっと口を開き始めた彼の前で、私は前のめりになって話を聞いた。すると彼は、私の頭に手を置いて静かに撫で始める。


「うん、僕の周りの人がみんな天使軍の人たちだったんだ」


 彼は懐かしそうに、目を細めて笑った。

 一方私は、頭を撫でられるがままになり、その場から動けなくなってしまった。なので、相槌がわりに質問を返す。


「へぇ! でもさ、軍人さんって結構大変なんじゃないの?」

「そうだね、最初は大変だったけど、でも、今は…………」


 そこまで言うと、彼は口を閉ざしてしまった。

 私は、彼の顔がいつのまにか笑顔ではなくなっていることに気がつく。なんというか、なにか悪いものを思い出したかの様な。そんな顔だ。


 声をかけようかと私がまごついていると、彼がポツリと呟いた。


「…………人を、探してるんだ。そのために、強くなろうと思って、軍人を続けてる」


 彼の手つきが減速した。


「僕の……たぶん、大切な人。もしくは、僕がお世話になったことがある人……だと思うんだけど」

「……なんでそんな曖昧な」


 神妙にしている割に返答が微妙だったので、私は膨れっ面になった。そんな私を、彼は、いつもの優しい目で見下ろした。



「実は、小さい頃の()()()()()()()()()ね。その人がどんな人かわからないんだけど」



 …………


 …………


 ……………………は?


「え? ごめんエル、もっかい言って?」


 私が聞くと、彼はきょとんとした顔で返してきた。


「えっと……『人を探してる』……」

「そのあと!」

「『どんな人かわからない』……」

「うぅぅん! そのもうちょぉぉっと前!」

「『記憶が無くなってて』」

「それだ!」


 私は勢いよく彼の顔に向かって指差した。


「記憶がないって、どういうこと⁉︎ つ、つまり()()()()ってこと⁉︎」


 すると彼も指さ——すフリをして、私の頬をつついた。


「そうだけど」

「そうだけど……じゃないよ‼︎ 記憶喪失って⁉︎ そういう肝心な要素はさ、物語の序盤に言うべきじゃないの⁉︎ そういうのって! ねえ⁉︎」


 私も興奮してメタいこと言っちゃったし‼︎‼︎

 私は落ち着いて、エルの話を思い返してみることにした。


「……でもそっか、エルは、記憶が無いから、その人を探せば記憶が戻ると考えてるってこと……だよね?」


 すると相手は、首を横に振った。


「いや、記憶が戻るとは限らないし、そこには期待をしてないよ。でも——」


 彼はひと呼吸ついてから、私の頬から手を外した。


「記憶はなくなってしまったんだけど、僕の中に光がある気がするんだ」

「光とな?」

「うん。なんというか、希望? ……そんな感じの」


 私は適当に相槌を打ちながら、エルの照れ臭そうな顔を下から覗いた。この表情、もしやかなりレアなのでは。


「外の光の入らないような、僕の中の奥底にね、なにか……いや、“誰か”の存在がある気がしていてるんだ」


 彼は、私の目を見つめ直し、話を続ける。


「それが、誰かはわからないけど……その人を探しているんだ。そのために、僕は強くなることを求めてる。下界に来たのは、まあ——最後の手段、ってカンジ」


 くすり、と無邪気に彼が笑った。後半にかけて、一度崩れた調子が戻ってきたように感じた。


 彼の瞳の中で、小さな星が瞬いた。

 記憶を失くしている……ということは、彼は真っ暗な場所で、一人で苦しんでいたことも、あったのかもしれない。


 その中に、一つだけ光があったら——私も、そっちへ行こうとするだろう。


 そんな彼の目を真っ直ぐに見て、私は心から言葉を出した。


「きっと——きっと会えるよ!」


 私は彼の手を取って、言葉を続けた。


「だってエル、すごく頑張ってるから! 私みたいなヘタレな人でもいつも助けてくれるし、いつも人のために一生懸命考えてくれる。それに、すごく強い! 握力もそうだけど、敵とか、マニさんとかと戦ってる時のエルはめちゃくちゃかっこいい! それって、普通ちょっとやそっとじゃ身に付かないことだよ! だから、エルはさ、その人に、絶対絶対、会えるよ!」


 私は、エルの両手をギュッと握って、笑いかけた。


 一方彼は——いつもみたいに、いつも通りに、頬を緩めて笑った。



「——ありがとう、アルカ。僕もそんな気がしてきたよ」



【————緊急出動命令。緊急出動命令】



 人工音声が、けたたましく軍基地に響くまでは。



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