3-C 会議! 白い部屋は真理也!
五秒でわかる前回のあらすじ
「天使軍の二人カッケー‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」
「うわぁ〜‼︎」
白い壁に囲まれた広い部屋の中で、私は思わず感嘆を漏らした。
「ねえエル、ここは別の次元なの⁉︎ すっげーー‼︎ カッケェェェェェェェ‼︎ 」
「あはは、喜んでもらえて何よりだよ」
私達が今いるここは——天使軍の軍基地、らしい。
彼らの言う軍基地というものは、人間界のかしこにあるらしい。ここはその一箇所にすぎないのだとか。
「のわっ⁉︎」
突然、目の前が真っ白になった。
——いや、顔面に白いモノが覆いかぶさったらしい。痛くない。むしろ、けむくじゃらでモフモフしていて、仄かに動物臭い…………
「モ……モゴゴォ⁉︎(こ……これはまさか⁉︎)」
私はソレを、両手でひっぺがした。
「グラミューーーーー‼︎ 会いたかったよー!」
「キューーーーッ!」
猫のサイズで、長い耳に長い尻尾。胴体にハート形のブチ。
正真正銘、私が一時的に飼ってたグラウミュース!
私の家では充分に飼育ができないので、マニさんに——天使軍に、預けていたのだ。
「きゃーっ! 可愛いーっ! いつでも可愛いなお主ー! 元気だったか〜?」
私は片腕に彼を収めて、もう片手で顎を撫でてやる。すると彼は気持ち良さそうに一切の抵抗を無くしてしまう。そんなだらしがない様子を見て、つい頬が緩んでしまった。
「と、ところで……」
私はグラウミュースで死角になっていた、この部屋全体を見渡す。
ここは、リビングに当たる部屋なのだろうか。真ん中に、真っ白で大きなダイニングテーブルが置かれている。
そして、その付近の椅子には見知らぬ影が腰掛けていた。
『————』
「ソレイル、日本語音声にできる? アルカは日本人なんだ」
私は、椅子を引いた人物の顔を見て、ぎょっとした。
髪の長さ、服装、体つきからして女性であろう。
彼女の顔は——電光掲示板だった。
いや、顔が丸々ソレ、というわけではなさそうだ。頭に電光掲示板を、顔を隠すように装備している、といえばいいのだろうか。
……意味がわからないと思うが、私もよくわからない。
『はじめまして、ミスアルカ。私の名前はソレイル』
驚いた。彼女が話した言葉が、電光版に浮かんできたのだ。リアルタイムで言葉を認識し、文字に表しているのだろうか?
更に驚いたのは、今の言葉が機械的な「音声」だったこと。女声ではあるようだが、一文字一文字をぶつ切りして発音するのは、彼女本人の生の声ではないことを示した。
「う……お……ん゛ん゛っ」
あまりにも「人間」からかけ離れた姿に一瞬後退りしそうになったが、こういう人もいるだろう、むしろ何か深い事情もあるかもしれない、と自分に言い聞かせて、足を踏みしめる。
グラウミュースを足元に降ろし、姿勢を正す。
「ええっと……よ、よろしくお願いします!」
私は上半身を九十度に折って止めた。
三秒後、私は顔だけを上げ、二番目に重要そうな質問を試みる。
「あの、ソレイル、さんも、天使軍なんですか?」
すると、ソレイルさんの電光版に「:-)」の模様が浮かび上がった。「笑顔」の表しているのだろうか? 視覚的に、縦向きの方が嬉しいのだが。
『はい。エルやマニとは別の部隊。しかしここで仕事を共にしている。』
「別の部隊?」
その問いには、ずっと横に居たエルが答えた。
「ソレイルは特殊部隊じゃないってことだよ。彼女は戦闘員ではないものの、別の面では非常に優秀なんだよ」
「べ、別の面……?」
ええい、2人してまどろっこしい! ちゃんと名前を言え固有名詞をよォ! 「別の」とか言われても他の選択肢沢山あるんだから!
「そうだなあ……わかりやすく言えば、機械操作とか情報処理とかが得意だよ。ね、ソレイル」
『その説明はざっくりしすぎ。』
彼女の「顔」が困り顔になる。ツッコミされた当本人はエヘヘと頬を掻くだけだった。
それにしても、天使軍は不思議な人が多そうだ。エルもマニさんも、一部の感覚が極端に外れているし。そう考えれば、これからの私は個性豊かで楽しい軍隊ライフになりそうだ。
『しかし、大雑把であり、正しい。改めてよろしく。』
「よ、よろしくです!」
ソレイルさんが丁寧に頭を下げたのを見て、私も慌てて身体を折る。
また三秒後に上半身を上げ、ここにいる人物を見渡す。
顔は見えないものの、ソレイルさんはきっと、他の二人より年上な気がする。次がマニさん、その次にエルという具合か。いや、後者の二人は同い年かもしれない。
そんな考察を巡らせていると、さっきまで何やら軍基地中の棚を漁っていたマニさんが、私達に近づいてきた。
「さて、そろそろ状況整理しましょう?」
かちゃり、と小さく音を立てながら、彼女は白いテーブルに、ティーポットと人数分のカップを置いた。どれもお揃いの、パステルカラーのストライプ模様が施されている、とても女の子らしくて可愛らしいものであった。きっと、これを主に使っているのはマニさんなのだろう、と私は推測した。
「そうだね……アルカにも、まだ説明していないことは沢山あるし」
エルはそう言いながら、私を見下ろした。彼は笑顔を崩さない。
そんな中、マニさんはカップに何かを注いでいた。黒い液体である——と、じっと観察させてくれる間もなく、エルが話を続けた。
「アルカ。まず、僕たちが今最優先すべき課題が、天界との通信を可能にすること。そして、『もう一人』の捜索だ」
彼はテーブルの横に設置されていた、卵型の椅子に腰かけた。そして、私にもう一つの椅子に座るように促す。私は素直にその背もたれを引いた。
私が椅子に腰掛けると、膝の上にグラミュが乗っかってきた。落ち着いたように四つ足を折って脱力するので、その背中を撫でながら、考える。
天界との通信——は、エル達天使が天界に帰れないことを知っているので、その考えはわかる。
しかし、気になるのは一つ。
「もう一人って?」
「私達天使軍の仲間です。下界へ送られた時、私達がバラバラになったのは知っていますよね?」
マニさんに聞かれて、私は頷く。
確かその話の時エルが——ああ、そうだった。
「連絡がついたのが二人『だけ』——」
「すごい、よく覚えてたね。そう、人間界に送られた天使軍は、本当は『4人』だったんだ」
エルは左手の4本の指を立てた。それを見て、頭の中で整理しながら、私は目の前に置かれたカップを両手で持って口へ運ぶ。
——苦い!
思わず渋い顔になったので、目と口をめいいっぱい開けて堪えた。
これは……コーヒー……か……? 存在は知っていたが、飲んだのは生まれて初めてだ。
「じゃ、じゃあ……もう一人さんは、こっちにはいるけど、連絡がつかないってことか」
「そういうこと。アルカは賢いね」
「『賢い』はさすがに大袈裟だよ、エル」
コーヒーをもう一口飲み込み、私は苦笑いする。
舌の感覚が戻らない。まじで苦い。
大人は本当にみんなこの味を好むというのか? ……負けてられない。
『……ジザに関する明瞭な情報はまだない。しかし、彼が安全では無いことは分かる。』
「え、どういうこと?」
私はソレイルさんの画面を覗き込んだ。
彼女は少し時間をかけてから、再び人工音声で話し始める。
『ジザのエフェークオスは今、通信ができない。さらにGPSの応答も無く、各部分の遠隔操作もできない。つまり、「ボロボロに細部まで壊れている」または「水没している」可能性が高いと思われる。』
「ジザ」——それが行方不明の天使の名前なのだろうか。
それを聞いても私はピンとこなかったが、他の二人は瞬時に反応し、ぶつぶつとギャラクアス語で何か言い始めた。
『て、ことは……ジザさん……』
『もしや……ジザは……?』
彼らはすごい剣幕だった。
マニさんも、エルも。私はそれを目にしてしまうと、無意識に身震いした。
「ま、まさか——」
まさかその人、もう命が——⁉︎
私はエルの顔を覗き込む。いつも温厚なエルがこんな顔をするなんて。きっとそういう意味に違いない。
ふと、彼と目が合った。彼は言葉を選ぶのに少し時間をかけ、ゆっくりと口を開けた。
「きっと大丈夫。誤って池に落とす、なんて事だってあるだろうし——ね」
エルは三人に聞こえるように言ったはずだが、最後は私に、へらりと笑いかけた。どこか誤魔化すように、そして自分に言い聞かせるように。
そこへ、少し戸惑った様子でマニさんがテーブルに手をつき、立ち上がった。
「そ、そうです! 確信があるまで、捜索は引き続き行いましょう。少し手がかりがあっただけで十分ですよ。皆さん、それぞれよろしくお願いします。ジザさんの救出は遅くなればなるほど危険になります。私たちももっと行動範囲を広げましょう、エルさん」
彼女はいつもより早口で、彼の様子をを伺うように目を配った。
もちろん相手は満面の笑みで頷いた。それを見てマニさんはうなずくも、険しい顔を変えることはなく、席に腰を下ろした。
一呼吸置いてから、今度はより冷静な口調でマニさんが話す。
「……それで、ソレイルさん。一方の天界の方って、どうなってるんでしょうか……」
彼女はカップの取手を人差し指で撫でた。
『はい』
相手は呼吸をしない。いや、その動作が見えないだけだが。無機物のような天使の顔が、その文字が、問いに答えるのだった。
『今分かることは、天界のゲートが開かない理由が』
『アルカディアの策略ということ。』




