19/64
3-A プロローグ
——ドッドッドッ
窮屈な筒の中で、波が響く。
肌に伝う熱。息。さらに加速する血流。微かな風に踊る、細い黒髪。
彼女もまた、その赤い目で身体の強張りを訴えている。
————近すぎだろ!
俺の呼吸が限界だ。
なんでこんなことになってるんだ!
他人の敷地の端で、こいつと密着しているなんて!
こんなことになってるのは、誰が悪いんだ?
今まで流れに流され生きてきた、俺自身に原因があるのか?
「すぐる」
彼女は耳元で囁く。顔が熱くて仕方ない。
肩幅は小柄なくせに、それなりに筋肉のついた腕。後頭部で束ねられた長い髪。対象を大きく映す、瞳。
(……やっぱコイツ、可愛いんだよな。)
合わせて4回。伝えて割れた筈であるあの衝動が、今もなお咲いているらしい。
息を飲む音。全ての神経がそこに行った瞬間、
背後から俺の喉元へ手が伸びた。
「——息しないで、すぐる」