1話
初投稿です。
おかしなところや改善点などがありましたら、是非教えてください。
――ピピピピピ
ガチャ
「んぅ?もう朝か」
時計の針が七時を指しているのを見て少年、新城 健斗は身支度を始める。
学生服をクローゼットから取り出し、慣れた手つきで着替えていく。
健斗は身長は165cm程度、成績は常にクラスで10~8番で運動神経は並程度。
髪は長くも短くも無く、顔は良い方。
ある事を除いて彼は、成績が少し良いこと以外は普通の高校生だ。
そのある事というのは彼が住んでいた場所についてだ。
彼は昔、特殊な場所に住んでいた。
その場所には異世界と繋がる亀裂が入った空間があった。
普通はそんなものは出来ないのだが、昔異世界から魔物がこの世界へ来てしまった時に出来てしまったものらしい。
元々その土地は異世界との繋がりが強かったらしく、たまたまその空間に歪が出来たときに魔物が渡ってきてしまったのだ。
とは言え、その魔物はかなり低級で人の力でもすぐに倒せたらしい。
その時に出来た亀裂なのだが少しずつ塞がっており、今では微量の魔素が流れ込んでくるぐらいだった。
そんな場所で育ってきた彼には、少し変わった性質があった。
彼には産まれつき人格が二つあったのだ。
その人格の名前は健斗と冬弥
二人はお互いに協力し合って色々な事を経験して、仲も良かった。
しかし、冬弥はそんな世界に退屈していた。
そして、冬弥は七歳の頃に異世界に渡るために亀裂を広げようとした。
それを発見され、邪魔されそうになった冬弥は魔法で数人の大人達を攻撃し、殺してしまった。
それを心の中で見ていた健斗は、冬弥と入れ替わり、心の中に冬弥を押さえつけた。
その隙に大人達が健斗の心の中に結界を作り、冬弥を封印した。
そしてその後、健斗は両親と共にその場所を追放され、八歳のとき今の家に引っ越してきた。
そしてそれから八年、普通の人のように生きてきて今に至るという訳だ。
着替え終わると部屋から出て下の階にあるリビングへと向かう。
「おはよー」
「おはよう。今ご飯が出来たところよ」
「あいよ」
まだ眠そうにしながら椅子に座る健斗の前に健斗の母、新城 陽子が朝ごはんを並べる。
「いただきます」
「召し上がれ」
目の前に出されたご飯で、健斗はまずは味噌汁を口に含んだ。
「やっぱりうまいな、母さんの料理は」
いつも言っていることだが、健斗は本気で陽子の料理はおいしいと思っていた。
学校で弁当を食べている時に、このクラスの中で一番おいしく弁当が作れるのはたぶん俺の母さんだと友達に言ってマザコンと称された程だ。
「ごちそうさまでした」
陽子と会話をしながら朝食を食べ終えた健斗は歯磨きをし、鞄を持って玄関へと向かう。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい。気をつけてね」
「分かってるよ」
健斗は学校へ行く時の恒例行事のようになっている会話を交わし、学校へと向かう。
「おはよう、健斗」
「よぉ、詩織」
学校に向かう途中で健斗は八歳からずっと同じ学校の、言わば幼馴染である少女、立花 詩織と出会った。
詩織は身長は160cm程度、運動はあまり出来ないが成績はクラスで常に2位か3位とかなり良い。
髪は背中まで伸びていて肌は白くきれいで容姿的にはとてもかわいい。
彼女は健斗が引っ越してきたときからずっと一緒で、今の健斗があるのは彼女のおかげだろう。
「健斗、眠そうだね?」
「あぁ。ちょっと昨日―――」
--あれ、意識が・・・。
急に意識が遠くなり、倒れそうになる。
隣で詩織が心配そうに何か言っているがよく聞こえない。
--この感覚は・・・。
どこかで感じたことのある懐かしい感覚に包まれ、それが何なのかを必死に思い出そうとする。
--これは・・・。もしかして魔法か!?
その感覚の正体を思い出した時、心の中で何かが壊れ、誰かに心が侵食されていく感覚に襲われる。
--まさか、あいつか!?やばい、意識が飛ぶ・・・。
「健斗、大丈夫?」
詩織が心配そうに健斗の顔を覗き込みながら言った。
「ククク・・・。やった。やっと出て来れました・・・」
急に独り言のようにブツブツと何かを言い出した健斗に、詩織はさらに心配する。
「えっと、大丈夫、健斗?」
「あぁ、僕なら大丈夫ですよ。ただ、もう僕は健斗ではありませんけどね」
急に口調が変わり変なことを言い出す健斗に詩織はイタズラかと思ったが、さらに起こった健斗の変化を見て、驚き後ずさる。
「け、健斗・・・!?」
「これですか?少し待ってくださいね。すぐに終わりますから」
一瞬何が起こっているのか分からなかったが、詩織はすぐに理解できた。
健斗の身体が変化しているのだ。
身長が数センチ縮み体の筋肉が落ちて男にしては華奢な体になっていく。
髪も伸び少し優しそうな顔つきに変わる。
男だとは分かるが、健斗とは別人のようになっていた。
「ど、どういうこと・・・?」
「心を僕が支配したので、身体も僕の姿になったんでしょうね」
声も少し高くなっているように感じる。
動揺して言葉を発することができない詩織の前に一人の男が目の前に居る“誰か”の後ろからやってきた。
「うまくいったようだな、冬弥」
「えぇ。でも、魔力がかなり減ってしまっているみたいですが、どうかしたんでしょうか?」
「もともと魔力はお前が操っていたわけじゃないんだろ。健斗って奴の人格と一緒に眠っちまったんじゃないか?まぁ、今考えても仕方ないしな。さっさと行こうぜ」
今自分の目の前に居る“誰か”が冬弥と呼ばれていることが分かったが、それ以外何も分からない状況に詩織は恐怖と共に怒りを感じていた。
「ちょっと!健斗の心を支配したってどういうこと!?健斗を帰してよ!」
「ん?ちょっとそれは無理ですねぇ。それに今あなたの質問に答える必要も無いですし」
「おい、冬弥。こいつ生かしておいても良いのか?」
「別に良いですよ。誰かに言ったとしても、この世界じゃ信じてもらえないでしょうし」
「それもそうか。じゃ、早く行こうぜ」
「そうですね」
そう冬弥が返事をして手を軽く前に突き出すと、そこに紅い魔方陣が浮かび上がった。
「ちょっと!?待っ―――」
「それじゃ。無いと思いますが、またお会いできたらいいですね」
そう言葉を残し魔法陣の中に消えていった二人を見送り、詩織は呆然とただ立ち尽くしていた。
その時、いきなり詩織の目の前に人の頭くらいの大きさの丸くて黒い“何か”が現れたのだ。
「な、何!?」
突如現れた黒い“何か”にまた何か起こるのかと驚く詩織の前で、その“何か”は形を変化させていく。
「これは・・・。猫?」
形を変化させ、金色の目をした黒猫になったのを見て詩織は何が起ころうとしているのか考えようと無駄な努力をしていたが、詩織の思考はすぐに驚きで遮られる。
「危ねぇ。もう少しで完全に支配されるところだった」
目の前の黒猫が喋ったのだ。
しかし、それよりも驚いたことがあった。
詩織には、その声に聞き覚えがあったのだ。
「もしかして、健斗!?」
「よぉ、詩織。心配かけたな」
その黒猫から感じる雰囲気で目の前の黒猫が健斗だと確信した詩織は、安堵でその場にへたり込み泣き出した。