2話
しばらくして詩織が落ち着いたのを確認した健斗は詩織に声をかける。
「大丈夫か、詩織?」
「うん。ありがと、もう大丈夫」
「そうか。そりゃ良かっ―――」
「それより健斗、どういうこと!?いきなり健斗が健斗じゃなくなるし!健斗が猫になっちゃうし!」
「ちょっと落ち着けって。ちゃんと説明してやるからさ」
まだ少し混乱しているのか、話の整理が出来ていない詩織に、健斗が落ち着くように言う。
「で、でも―――」
「はい、深呼吸!吸ってー、吐いてー」
いきなり言葉を遮られた詩織は、仕方なく健斗の指示に従う。
「落ち着いた?」
「うん」
それから健斗は詩織に自分の住んでいた場所の事、魔法の事、冬弥の事、冬弥が何をしたか等といった事を話した。
「信じられないか?」
「実際に魔法みたいなのを見ちゃったし、信じるよ」
健斗は自分が話した事を信じてもらえているか心配になったが杞憂だったと思い、安心する。
「でも、何で健斗は猫になっちゃったの?」
「冬弥に支配されそうになったから、俺の意識と魔力の大半を外に逃がしたんだよ。あとはその魔力で身体を作ってやれば自由に行動が出来るようになるからな」
「じゃあ、何で元の姿にならなかったの?」
「ここにあるのは俺が蓄えていた魔力だけだから、あんまり身体を大きくすると身体の維持に魔力が掛かってすぐに魔力が切れて身体が消えちまうんだよ」
「じゃあ、もっと小さな動物にしたら良かったのに。猫にしたのは何か理由があるの?」
「そんなの猫が好きだからに決まってるだろ」
「・・・。」
「・・・。え?」
急に出来た謎の沈黙に思わず困惑する健斗。
「そういうところ変わらないよね」
自分が消えるかも知れないと言うのに能天気な健斗に呆れる詩織。
「で、でも、やばいことになった」
「そりゃそうだよ。消えるかもしれないのに。何か考えはあるんだよね?」
「あぁ」
「どうしたの?」
急に何か言いづらそうになる健斗を見て、詩織は真剣な顔になる。
「異世界に行けば魔力が豊富にあるし助かるんだが・・・。」
「それで?」
「・・・。」
「・・・。」
少しの沈黙の後、健斗が口を開く。
思わず唾を飲み込み喉を鳴らす詩織。
「一人じゃ異世界に行けないんだ」
「どういうこと?」
「魔力と意識だけの塊じゃ世界を渡ってる間に消えちまう。だから世界を渡っている間に俺が入り込める器が必要なんだ。つまり、お前にも来てもらわないといけないんだ」
「分かった、行く」
「え?」
「え、それだけ?」
かなり覚悟を決めて言った健斗は、詩織のあまりにあっさりとした返事に驚いた。
「俺はてっきりもっと色々言われるかと思ってたんだが」
「あぁ、そういうことか。でも、それで健斗が助かるんでしょ?だったら行かない訳が無いよ」
「本当に良いのか?」
「うん。異世界とか魔法とか面白そうだし」
「もう戻って来れないかもしれないんだけど」
「健斗がいるなら寂しくないし大丈夫だよ」
「そ、そうか」
もう戻って来れないかもしれないと言うのに即答した詩織に、健斗のほうが狼狽えてしまう。
「そうと決まれば早く行かないとね。行くのは早いほうがいいんでしょ?」
「そ、そうだな。じゃあ、明日の―――」
「それじゃ、さっそくゴーだね」
「は?今から行くのか?」
「え?違うの?」
今から出発しようとする詩織に、健斗は呆れてため息を吐いてしまう。
「いやいや、無理だろ。準備とかあるし」
「あ、そっか。じゃあ、早く準備しないとね」
「他にも皆に連絡とか」
「それならさっき連絡したよ」
「いつの間に!」
「それじゃ、準備開始ー!」
そして2人は詩織の家に行き、詩織が準備をしたのだが・・・。
「荷物これだけ?」
健斗の前には少し大きめのリュックとその中に入れる物が並べられているのだが、その内容は、
着替え約3日分
非常食3週間分
サバイバルナイフ3個
ポケットティシュ15個
小型テント2個
寝袋
だけだった。
「だって、火とか水は魔法で健斗が出せるんでしょ?」
「確かにそうだけど」
「他にも魔法で出来そうな事を考えたら、これぐらいしかなくない?」
「まぁ、そうだな。っていうか、ティッシュの数多くね?」
「いっぱいあったほうがいいでしょ?」
「それもそうか。あと、よくサバイバルナイフとか持ってるな」
「お父さんがこういうの好きだからね。サバイバルとかしない癖に」
--詩織のお父さんがサバイバル系の映画とかが好きだとは知っていたが、まさかこんな物を持っているとは思わなかったな。
「それじゃ、準備出来たし、早く行こうよ」
「そうだな。それじゃ、魔法使うぞ」
そう言うと、健斗の前に半径1mくらいの紅い魔法陣が浮かび上がる。
「よし。行くぞ、詩織」
「うん」
そして二人はその魔法陣に入って行き、異世界へと渡った。




