1. 死んじゃったけど転生してもらえるらしい
僕は16歳の椎名 佳。
両親からは謂れのない虐待を受け、高校には当然行かせてもらえず、毎日バイトをして働いて過ごしていた。
時々楽しそうに話をしながら歩いている高校生たちを見ると、俺にもこんな生活があったのかな、なんて思ってしまう。
そして今日もいつも通りバイトが終わり、家路についていた。
不幸な事故は誰にでも起こりうる。
車が行き交う交差点で信号を待っていたら、突然横からスッと小学生くらいの女の子が道路に飛び出したのだ。脳が理解するより前に、体が咄嗟に動いた。
そしてその子を抱えて歩道に逃げようとしたが、俺は足がもつれて転んでしまった。今思い出しても、かっこいいのかかっこ悪いのかわからないなぁ。
最後に俺の視界に映ったのは、トラックのタイヤと俺が助けようとした女の子。
ぐしゃり、と鈍い音が鳴ったかと思えば、お腹の辺りが熱湯をぶっかけられたかのように熱くなる。視界が真っ暗になり、誰かの悲鳴が聞こえる。
女の子の泣き声が、俺の耳に反響し、だんだんと意識が薄れていった。
「こうしてキミは短い人生を終えてしまった、とさ!」
「『終えてしまった☆』じゃないよ〜…………本当に僕……………死んだんだね」
「イエス、死んだ。だから女神である私とこうして話してるんじゃん?」
この女の人はどうやら女神だったらしい。女神って何…………。
確かにあの痛みと衝撃は残っている。………受け入れ難いが、この人の言う通りほんとに僕は死んでしまったのだろう。
わけがわからなくなってきたので、僕は考えることを放棄した。
そして改めてこの素性の知れない女の人を見つめる。
………お人形さんのように整った顔、決して大きくはないが形の整った綺麗な胸、豪華絢爛な装飾が施してある衣装。
確かに、この世のものではないような美しさを持っている。う〜ん、ここ天国かもしれん。
「何が『決して大きくはない』よ。はっ倒すぞ」
「口悪いなぁ」
「けど素直に褒めてくれるのは嬉しい〜!私のキミへの評価がまたちょっと上がっちゃった!!」
ハイテンションな彼女に、僕はいろんな疑問をぶつけたくなる。
まだ整理しきれていない僕の状況を察してくれたのか、自称女神は再び説明を始めた。
「で、キミは人生を終えちゃったの!でもそれは私のミスだったのよ!」
「はぁ………」
「人間の寿命は埋めれた時に決まっているの!そこでこのノートに名前を書くと寿命通りに死ぬんだけど……」
「何そのデスノートみたいなノート」
「たまたまキミの名前のところにお茶をこぼしちゃって………そのせいで寿命が書き変わっちゃった」
「えぇ?ポンコツすぎない?………まぁもう死んじゃったし良いけどさ」
「キミ結構さっぱりとしてるね。で、流石に申し訳ないから別の世界にあなたを転生させることにしたの!」
転生?よく小説とかで見る、あの転生?
………怖いモンスターとかいるのかな。痛いの嫌なんだけど。
まぁ、毎日親に嬲られるよりはマシか。
「大丈夫大丈夫!私がちゃんとチート能力つけてあげるから!よっぽどのことがない限りキミは殺されないと思うよ!」
「よっぽどのことをする奴がいるのか………」
「そこは、まあ、ねえ?」
そのチート能力とやらに期待するしかないようだ。
どうかその世界は平穏でありますように………。
「じゃあ早速転移するね!」
「あ、もう転生するんだ………一つだけ、いい?」
「うん、もちろん良いけど?」
「転生しても、また会える?」
一人だと心細い。できればついてきて欲しいが、女神にも仕事があるのだろう。わがままを言うわけにはいかない。
「……………教会で願えば会えると思うよ。………キミ、私のこと口説いてる?」
急に何を言い出すのだろうか、この自称女神様は。
「全くキミは………もう転生させる!じゃぁね〜〜」
女神はどこか呆れた感じで僕のことを転生させた。また会えると良いな。そんなことを思いながら、強い眠気に襲われるのだった。
◇◇◇
再び目を覚ますと、視界に碧空が映る。
日本でも田舎の方はこのくらい綺麗だったな、なんて考えるが、月らしきものが三つ見える時点でもうここは日本じゃない。
おそらく地面に大の字で仰向けになっているであろう僕の体。そこから寝返りを打つと、またいろいろな情報が脳にインプットされていく。
まず視界に入ったのは、鬱蒼と茂る樹々だった。
僕の意識的には、「ああ森だな」としか思わないのに、脳にはここに群生している木の種類、学名、育て方さえも知識として浮かび上がる。
きっとこれが女神のチート能力とやらなのだろうな、と理解する。むしろそうでなくては何だと言うのだろうか。 僕は生物学者ではないというのだから。
次に視界に入ったのは、僕の髪。これが一番大問題。
なぜかって?僕の髪がめちゃくちゃ長いからだ。あと手もめちゃくちゃ細くて綺麗。
てっきり元の体のままこの世界に行くと思っていたから、少し面食らう。ちょっとイケメンになってくれたら良いな、なんて。
このまま寝っ転がっていても仕方がないので、僕はむくりと起き上がる。
「よっこらしょ、と…………?」
うん?なんか今めちゃくちゃ可愛い声が聞こえたんだけど??つい辺りをキョロキョロして探してしまう。
だが、この森には人間の気配を感じない。
「あーあー」
もしや、と思い僕は声を出す。
…………………うん、可愛い声の持ち主、僕でした。
嘘でしょ………?完全に女の子の声なんだけど。もしかしてあの女神、僕を女性の体に転生させたのか……?
「………ドレミファソラシド〜」
あぁ、完全に女の子だわ、これ。
恐る恐る僕の股間に手を伸ばすと……………
……………ああ、ない。さよなら、僕の息子……………。
どうやら僕は、完全に女の子になってしまったらしい。
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