『ある廃寺で願い事をした男の子の話』…第2章・男の子、高校3年になる
いきなり時間が飛びます。
廃寺での参拝からかれこれ5年程の時が流れ、あの時の少年・真田昭弘は高校3年生になっていた。小さかった身長は170㎝以上伸びている。物静かな性格の彼はクラスの中ではどこか浮いていて、所謂「陰キャ」と呼ばれるタイプであり、軽薄な同級生達から時折、嫌がらせとも取れるからかいを受けていた。
それは「いじめ」と認定されるほどのものではないにせよ、彼の心に小さな棘を残すには十分だった。
「真田君…」
担任である女教師・高峰椿はそんな昭弘の様子を気にかけていた。肩まであるウェーブのかかった黒髪の彼女は清楚で知的な美貌が印象的な女性だった。まだ20代前半と若く、教師としては経験が浅いながらも、生徒達に対する真剣な姿勢が伝わる人物だ。
椿はかつて、昭弘が中学1年生の頃に教育実習生として彼の通う中学校に赴いたことがあり、その後は大学を卒業し、正規の教員免許を取得。そして、紆余曲折を経て現在は高校教師となっていた。
椿にとって、昭弘は忘れられない生徒の一人だった。自分のクラスの生徒となった彼と再会した時、彼女は驚き、昭弘も椿の顔を見て目を丸くしつつも、どこか嬉しそうな感じだった事を今でも覚えている。
そんな縁もあって何か力になりたいと思い、教師として適切な距離を保ちながら彼を見守ってきた。
ある日、椿は職員室で先輩教師の山川浩太に昭弘のことを相談してみることにした。
「ん?ああ、高峰先生。何か用でも?」
「山川先生、真田君のことなんですけど…最近、クラスで少し孤立してるみたいで、同級生から…いじめ…って言う程では無いと思うんですけど、嫌がらせを受けてる様子もあるんです。私、何だか心配で」
山川は30代半ばのベテラン教師だったが、その態度はどこか投げやりだった。彼は書類を眺めたまま、軽く首を振って答える。
「ああ、真田か。まあ、高校生なんてそんなもんだと思うよ?自分から動かないと周りも寄ってこないしね。放っておけばその内に慣れるさ」
椿は眉をひそめつつ、声に熱を込めた。
「…でも、彼は少し繊細な子で。私には見過ごせないんです、放っておくだけじゃ解決はしない気がして…」
「教師が過保護に構うのもどうかな?俺はそこまで深入りしない方が良いと思うけど…だが、まあ、彼が助けを求めてきたら考えよう。それまでは様子見でいいんじゃないか?」
と言って、再び書類に目を落とした。
「…そうですよね。ありがとうございます」
椿は「助けを求められる様な事になる前に何かすべきでは?」という本音を抑えてそう言うと、静かに席を立って職員室を出た。
一方、山川はそんな彼女の後ろ姿をじっと見つめていた。
「…いい女だ。俺の女房とは月とスッポンだな…」
彼には椿に対する下劣な欲望があった。
彼は妻子持ちだが家庭は冷え切っており、妻との会話はほとんど無い。美しい椿に目を奪われたのは赴任当初からで、強く惹かれていた。
まだ20代の若い椿は166㎝の長身に、女性らしい柔らかな曲線を描く抜群のスタイル――バスト91(F)、ウエスト59、ヒップ88(※山川の目利き)――の持ち主だった。
家庭が冷え切っている分、彼女への想いは歪んだ形で膨らみ、「いつかチャンスがあれば…」と、彼の頭の中にはどす黒い欲望が渦巻いていた。
山川にとって椿の魅力はそれほどまでに抗いがたいものであり、彼女を手に入れるためなら、危うい手段を選ぶことさえ厭わないほど、その想いは強かった。