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色んなお話を読んでみた  作者: 旧河
第3部・自分で物語を作りたくて色々読んでみた
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『小悪党、何でも願いを叶える珠と出会う』

一話完結の話です。

地球とは異なる、ある世界の片隅で、ゼーシュという若い小悪党は、今日も日銭を稼ぐため、人様の物を漁っていた。彼は生まれつき要領が良いが、それで根は臆病。大胆な悪事を働く度胸はなく、常に地味な小銭稼ぎに終始していた。


ある日、ゼーシュは廃れた寺院の前に立っていた。この寺は、過去には多くの信者で賑わったというが、今では誰も近寄らない、廃墟と化していた。


「こんな場所なら、きっと誰も見てないだろう」


寺院の中は薄暗く、仏像は首が落ち、壁には苔が生えている。それでも、何かめぼしい物はないかと、彼は目を凝らして隅々まで探した。


やがて、本堂の奥、崩れかけた祭壇の影に、微かに光を放つ物があるのを見つけた。それは、掌に乗るほどの大きさの、透き通った青い珠だった。光を宿したその青は、神秘的な輝きを放っていた。


「なんだ、こりゃ?」


ゼーシュは興味津々にその珠を拾い上げた。その時だった。


「おや、新しい主か?」


脳裏に直接響くような声が聞こえた。ゼーシュは驚いて周囲を見回したが、誰もいない。まさか幽霊かと顔を青ざめたその時、手のひらの青い珠が、淡く光を放ちながら揺れた。


「驚かせてすまない。私は、この珠に宿る精霊のようなものだ。『ブルー』…とでも呼んでくれ。所謂『なんでも願いを叶える魔法の珠』だ」


再び脳裏に響く声。ゼーシュは狐につままれたような顔をした。


「信じられないのも無理はない。では、何か試してみるか? 」


ブルーの声は、どこか楽しげだった。半信半疑のゼーシュは、冗談半分で呟いた。


「じゃあ、何か美味いもんでも頼むよ。腹減って仕方ないんだ」


すると、寺院の薄汚れた床に、豪華絢爛な料理が突如として現れた。焼きたての肉の香ばしい匂い、色とりどりの野菜、そして、美しい盛り付けのデザート。どれもこれも、ゼーシュが普段口にすることのない、高級な品々だった。


「おお……!」


ゼーシュは驚きで目を見開いた。これは幻覚ではない。本物の食べ物だ。彼は恐る恐る肉に手を伸ばし、口に運んだ。豊潤な旨味が口いっぱいに広がる。


「う、うめぇ……!」


これは間違いなく本物だ。本当に願いが叶ったのだ。彼は急いで料理を食べ始めた。生まれて初めて味わう贅沢な食事に、彼の心は浮き立っていた。


「ああ美味かった…ごちそうさん」


食事が終わると、ゼーシュは一呼吸置いて、再びブルーに語りかけた。


「おい、ブルー…だっけ?お前、本当に何でも願いを叶えてくれるのか?」


「ああ、そうだとも」


「じゃあ、金銀財宝を……山ほど出してくれ!」


彼の言葉が終わるや否や、寺院の床は再び輝き、大量の金貨、銀貨、宝石が溢れ出した。まばゆいばかりの光が、薄暗い寺院を照らし出す。ゼーシュは目を輝かせ、宝石を両手で掴み、その重みを確かめる。


「やった! 俺はこれで大金持ちだ!!」


これで苦しい生活とはおさらばだ。欲しいものは何でも手に入る。彼は興奮のあまり、寺院の中で踊り出した。


しかし、ブルーの声が、そんな彼の浮かれた気分を鎮めた。


「待て、ゼーシュ。派手な行動で無駄遣いをしては、命が危ういぞ?」


「な、何?どういう事だよ…」


「考えてみろ。お前がこれほどの大金を手に入れたと知れば、どこからともなく狙ってくる輩が現れるだろう。表向きは地味にしていれば、そんな確率は格段に下がる。お前はどうしたい?」


ブルーのその言葉に、根は臆病なゼーシュは、確かにその通りだと感じた。大金を手に入れたからといって、派手に豪遊して命を狙われるなど、割に合わない。


「……確かに、そうだな。わかったよ…お前の言う通りにする。せいぜい地味に暮らすさ…表向きはな」


ゼーシュは素直にブルーの忠告に従った。彼は手に入れた金貨や宝石を、目立たない場所に隠し、細々と使い始めた。それでも、彼の生活は以前とは比べ物にならないほど豊かになった。周囲の人間は、ゼーシュがどこからか金を手に入れたことは薄々感づいていたが、彼が派手な行動をしない為、大きな騒ぎにはならなかった。


――――――


それから数年の月日が流れた。ゼーシュはブルーの忠告に従い、地味ながらも豊かで平和な生活を送っていた。盗みから足を洗い、小さな商売を始めるなど、堅実な道を歩んでいた。金に困ることはなくなり、心にも余裕が生まれていた。しかし、やはり欲は尽きない。


ある日、ゼーシュはブルーに相談した。


「なあ、ブルー。俺、ハーレムを作りたいと思うんだ」


彼は昔から、美しい女性に囲まれて暮らすことに憧れていた。ブルーの力で、その夢を叶えたいと思っていたのだ。


「ハーレムか……いいだろう。だが、その前に、下手するとこうなるという可能性の未来を見せてやる。それでも良いと、お前が本心から願うのなら、叶えてやろう」


そう言うと、ゼーシュの目の前に、突如として鮮やかな光景が広がった。それは、まるで現実であるかのように生々しく、そして複数の可能性に満ちた未来の映像だった。


最初の映像では、ゼーシュは豪華な屋敷に住み、多くの美女に囲まれていた。最初は幸せそうに見えたが、すぐに争いが始まった。女たちは互いに嫉妬し、ゼーシュの寵愛を巡って醜い争いを繰り広げる。ある者は毒を盛ろうとし、ある者は財産を奪おうと企む。ゼーシュは、そんな女たちに振り回されて疲弊しきった顔をしていた。やがて、女たちも争いに疲れて彼のもとを去っていった。彼は孤独に、そして虚しく、広い屋敷で独り座っていた。


次の映像では、ゼーシュはハーレムを作り、多くの子供をもうけていた。しかし、子供たちは互いに反目し合い、跡目争いを繰り広げ、ゼーシュの心労は増していく。そして遂に兄弟同士の殺し合いで犠牲者が出る痛ましい出来事が起きてしまった。


さらに別の映像では、ハーレムを持ったことで、周囲の人間から恨みを買い、命を狙われるゼーシュの姿があった。彼は常に誰かに狙われている恐怖に怯え、安眠もままならない日々を送っていた。彼の表情は、常に警戒と疲労に満ちていた。


これらの光景は、あまりにも鮮烈で、ゼーシュは息を呑んだ。ハーレムの先にある、破綻する複数の未来。彼が夢見ていた楽園とは、あまりにもかけ離れた現実だった。


「……こ、これは……」


ゼーシュは青ざめた顔で呟いた。彼は、確かに維持する自信がなかった。財はブルーの力で何とかなるとも思っていたが、それ以外…これほどの複雑な人間関係を管理し、常に争いを鎮めるのは自分には不可能に思えた。


「どうだった?」


ブルーの声が、静かにゼーシュに問いかけた。


「……破滅だ。俺には、維持できそうにない。欲に目が眩んで安易な考えをしていただけだったみたいだな…」


ゼーシュは震える声で…少し残念そうに答えた。ブルーは、静かに彼の言葉を聞いていた。この珠は、ただ願いを叶えるだけでなく、その先に起こりうる未来を見せる能力を持っていたのだ。ゼーシュは、この不思議な珠に、改めて驚いた。


――――――


ハーレムの夢を諦めたゼーシュだったが、独り身でいることへの寂しさは感じていた。そこで彼は、次にこう願った。


「ならば、国一番の美人を嫁にしたい」


ゼーシュはブルーの力を使ってその対象の女性を探し出した。彼女は透き通るような白い肌と、長くしなやかな黒髪を持ち、その瞳には知性と優しさが宿っていた。彼女の名は、ラーンといった。


早速、彼女にアプローチを始めた。しかし、ラーンは、彼のしつこい誘いを全く相手にしなかった。ゼーシュの軽薄な言動や、急に金持ちになった経緯に不信感を抱いているようだった。


「ブルー、どうすればいい? あいつ、全然俺に靡かないんだ」


ゼーシュは、ブルーに助言を求めた。


「私の力を使えば、彼女の心を操ることもできる。洗脳して、お前のものにすることも可能だが…」


ブルーは、冷徹にそう告げた。魔法の力で、ラーンの心を意のままにできる。しかし…。


「……いや、それは違うな……」


ゼーシュは首を振った。


「それは本当の愛じゃない…人形を抱いているようなもんだ。そんなのは、虚しいだけだ。俺は、ラーンに、心から俺を愛してほしい」


彼は意外にも、男の矜恃を持っていた。自分の力で、本当に愛されることを望んでいたのだ。


「ほう。お前にもそんな矜恃があったか」


ブルーの声に、どこか感心のような響きがあった。


「ならば、彼女の心を掴むためには、お前自身が変わる必要がある」


「変わるって、どういうことだ?」


「それは勿論、内面を磨くことだ。知識を得て、教養を身につけ、話し方や立ち振る舞いを改める。そして何よりも、ラーンが何を求めているのかを理解し、寄り添うこと…」


ブルーは、ゼーシュに最適解の道を示した。それは、即効性のある魔法の力に頼るのではなく、ゼーシュ自身が努力し、成長する道だった。最初は面倒に感じたゼーシュだったが、ラーンへの想いが彼を突き動かした。


彼はブルーのアドバイスに素直に従った。ブルーは、彼が必要とする知識や、学びの場を瞬時に用意することができた。彼は昼間は商売に励み、夜はブルーが用意した書物などから、様々な知識を貪欲に吸収した。歴史、文学、政治、経済、人間関係について深く学んだ。話し方や立ち振る舞いも、洗練されていった。ラーンを口説く時は、以前のような軽薄な態度は一切取らず、真剣な眼差しで語りかけた。彼女の興味のある話題について調べ、議論を交わし、彼女の意見に耳を傾けた。ラーンは、最初こそ警戒していたが、ゼーシュの真剣な態度と、彼が日々成長していく姿に、徐々に心を開いていった。彼はもはや、単なる小悪党ではなかった。知性と教養を兼ね備え、真摯な心を持った男へと変貌していた。


そして、長い時間をかけて、ゼーシュはついにラーンの心を掴んだ。彼らの間には、真摯な愛が育まれていった。結婚を申し込んだゼーシュに、ラーンは笑顔で頷いた。その日、ゼーシュは心から、ブルーに感謝した。魔法の力で安易な道を選ばなかったことで、彼は本当の幸福を手に入れたのだ。


――――――


その後、ゼーシュとラーンは結婚し、幸せな家庭を築いた。彼らの間には子供が生まれ、やがて孫にも恵まれる事になる。ゼーシュは、ブルーの力を慎重に使い続けた。何か問題が起きれば、彼はまずブルーに相談し、その忠告に従った。


例えば、彼の商売が拡大し、周囲の人間から妬みや策略に巻き込まれそうになった時、ブルーは彼の身に危険が迫る未来を見せ、その危険を回避するための具体的な方法を助言した。彼はその忠告に従い、事業の規模を適切に調整したり、信頼できる相手を選んだりすることで、常に危機を乗り越えていった。


さらに、自然災害や疫病といった問題にも、ゼーシュはブルーの力を借りて立ち向かった。ブルーは、災害の予兆や疫病の進行を予見し、その対策を講じるための知識や技術を提供した。ゼーシュはそれらを活用し、適切な場所に堤防を築いたり、新薬の開発を支援したりすることで、多くの人命を救い、社会の安定に貢献した。


そうして彼が成し遂げた功績は、枚挙に暇がない。飢饉を救い、疫病を退け、他国との争いを平和的に解決し、文化や科学の発展に尽力した。いつの間にか小悪党だった筈のゼーシュは、「稀代の英傑」と世間から評されるようになっていた。彼の名声は国中に轟き、人々に慕われた。


――――――


彼は、ブルーに「不老不死」について訊ねた事があった。しかし、ブルーは再び、その先にある恐ろしい未来を見せた。


「不老不死は、永遠の孤独を意味する。もし、お前がその願いを叶えれば、お前の愛するラーンも、子供たちも、孫たちも、やがては皆、お前を残して先に逝くだろう。そして、お前は無限の時間を独りで生き続ける。世界の全てが移り変わり、見知った顔も全ていなくなり、お前はただ、過去の記憶に囚われ続ける。この孤独に耐えられると思うか?」


映像では、不老不死となったゼーシュが、一人、荒れ果てた大地に佇む姿があった。彼の顔には、無限の悲しみと、終わりのない絶望が刻まれていた。彼は、かつて愛した者たちの墓標を前に、静かに涙を流していた。やがて、記憶も曖昧になり、自分が何を求めていたのかさえも忘れていく。ただ空虚に存在し続けるだけになっていた。


ゼーシュは、その光景に深く衝撃を受けた。不老不死など何の得も無い、限りある生だからこそ、輝きがある。彼はそう悟った。


――――――


更に時が流れて、ゼーシュは老境に入っていた。彼の髪は白くなり、顔には深い皺が刻まれていた。しかし、その瞳には、穏やかな光が宿っていた。彼は多くの功績を残し、愛する家族に囲まれ、充実した人生を送ってきた。


そして、ついにその時が来た。ゼーシュは臨終を迎えようとしていた。一緒に老いた妻のラーン、成長した子供たち、そして孫たちが彼の周りに集まり、静かに彼を見守っていた。


ゼーシュは、弱々しい声でブルーに語りかけた。彼の枕元には、相変わらず淡い光を放つ青い珠が置かれていた。


「……お前と出会って、本当に色々なことがあったな。何でも願いを叶えてくれるお前を手にしたのに、逆にその欲が自分の手に余るものだと教えられるとは思わなかったよ。ある意味、色々と何かを失った気もするが……まあ、それでも満足だ。俺みたいな奴には、勿体ない終わり方だよ。世話になったな」


ゼーシュは遠回しに礼を言った。ブルーとの出会いが無ければ、彼はきっと、愚かな欲望に囚われ、破滅していたことだろう。ブルーは、真の幸福とは何かを教えてくれた。安易な道の先にではなく、努力と根性、そして他者への愛の中にこそ、真の豊かさがあることを。


「お前は、私の力を最大限に活かした、稀有な存在だった」


ブルーの声が、ゼーシュの耳に響いた。その声には、どこか満足げな響きがあった。


「お前を選んで正解だったよ」


その言葉にゼーシュは微笑むと、静かに目を閉じた。彼の財産は、もはやブルーの力がなくても十分すぎるほど残されていた。子供たちも孫たちも、彼の教えを受け継ぎ、立派に成長していた。ゼーシュは妻のラーンの手を握り、静かに息を引き取った。その顔には、安らかな笑みが浮かんでいた。


ゼーシュが息を引き取ると同時に、枕元に置かれていたブルーは、淡い光を放ちながら、宙へと浮き上がった。そして、そのまま窓の外へと消えていった。まるで、最初からそこにいなかったかのように、静かに。


――――――


実は、ブルーは神々が気紛れに作った存在だった。彼らが退屈しのぎに作ったこの珠には、あらゆる異界を渡る能力が与えられていた。ブルーは、創造主である神々によって特別な目的を与えられていたわけではなく、ただ、その能力の赴くままに様々な世界を旅し、そこに住む知的生命体と出会い、その願いを叶えてきた。


しかし、その旅路は順風満帆ではなかった。最初は、融通の利かないところが多く、多くの悲劇を生み出してきた。


ある者は、「国が欲しい……国を喰らい尽くしたい」と願った。要は権力と富を得たいという願いだったが、ブルーは文字通り彼を「国を喰らい尽くす化け物」へと変えてしまった。その化け物は、国中のあらゆるものを喰らい尽くし、その国は滅び去った。


また、ある者はブルーの力を持ってしても思うように行かない世の中に悲観し、「こんな世界壊れてしまえ!!」と叫んだ。ブルーは、その願いを文字通り実行し、巨大な隕石を落下させ、その世界を物理的に破壊してしまった。


ブルーは、純粋に願いを叶えようとしただけだった。しかし、その結果は、常に悲劇を生み出してきた。多くの世界が、人々の欲望によって破滅していく様を、ブルーは何度も見てきた。


その経験から、ブルーは一つの結論に達した。「安易に何でも願いを叶えるべきではない」。人々の欲望は際限なく、そしてその先に破滅が待ち受けていることがあまりにも多い。ブルーは、人々に真の幸福をもたらすには、単に願いを叶えるだけでは足りないことを学んだ。


そして、ゼーシュという小悪党に出会った時、ブルーは「試み」を始めたのだ。安易な欲望を叶えるのでは無く、彼自身が成長する道へと導く。ゼーシュは、ブルーの「試み」において、まさに「成功」と言える結果を出した。彼は欲望に溺れることなく、自らの努力と、ブルーの的確な忠告によって、稀代の英傑へと成長した。そして、多くの人々に幸福をもたらし、穏やかな生涯を終えた。


ゼーシュの死後、ブルーは再び、どこかの世界へと旅立った。新たな主を求め、新たな物語を紡ぐために。彼はこれからも、様々な世界を渡り歩き、多くの人々と出会い、そして、彼らの願いと向き合い続け、新たな「試み」を行うのだろう。


終。

これが8話目です。

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