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Deceptive Love  作者: 緋色
第三章:ベルトリオン編
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第六十話:答え合わせ

あと少しで三章が終わってしまう( ; ; )

今日は二話出します!


 声を高らかに上げるエミリーを横目に、ルディアは呼吸を整え、剣を何度も握り直し自分の今の握力を確認する。


 国内外の情勢について、ベルトリオンにいるルディアの耳にも届いていた。世界各地で戦争の火蓋が切られようとしている。彼女はいくつもの戦争を経験し、それゆえにその凄惨さや残酷さを身をもって知っている。


 だが目の前の女はどうだ? 戦争の始まりをまるで嬉々としてるかのように語っている。ルディアは軽々しく戦争という言葉を扱うこの女に怒りが湧いてくる。


 「貴様‥‥‥戦争を何だと思っている?」


 鋭い眼光がエミリーに向けられるが、彼女は全く動揺しない。むしろその言葉をかけられるのを待っていたかのようだった。


 「戦争とはギャンブルです! 民や資源と言ったチップを戦場というテーブルへと運び、勝てば栄光を手にし、負ければ破滅その身に受ける! 人は幸せを知ると何を犠牲にしてでもそれを掴み取ろうとします。故に戦争は終わらないのです」


 話し合うだけ無駄だ。それは初めから分かりきっていたことだ。


 ルディアは、エミリーが間合いに入った瞬間地面を蹴り飛ばし、斬りかかる。埃が舞い踊り、空気が音を上げる。


 「無駄ですよ」


 エミリーは剣を軽く受け流すと同時に距離を取る。磔台の側に寄ると、再び剣に魔力を込める。


 「これで三人目です。貴方の精神はいつまで持ちますかね」


 「待て!」


 ルディアが声を発した時にはすでに遅く、磔にされた騎士は一瞬にして炎に包まれた。騎士の悲鳴とルディアの雄叫びが互いに反響する。


 エミリーは、目の前で燃やされる騎士を見て発狂するルディアに愉悦を感じていた。言い換えれば、エミリーが見ているのはルディアだけだということだ。それが彼女の定めた運命に亀裂を生んだ。


 ここに磔にされているのはただの騎士ではない。ヴァルムント帝国で最も勇猛果敢とされたルディア・ガルハート直属の騎士達である。


 死すとも誇りは砕けず、血を流せど信義は揺るがない。


 火だるまになった騎士の目にエミリーが映る。


 帝国に仇なすものを討ち滅ぼすのみ。


 「うおおおおおおお!!!」


 騎士は心に炎を灯し、肉体の炎を纏い、飛びかかる。


 「な!?」


 これが、エミリーの顔から初めて笑顔が消えた瞬間だった。


 咄嗟に剣で火だるまになった騎士を斬り伏せる。騎士の体は黒い炭と化し床へと倒れる。彼は最後まで騎士として魂を燃やし続けた。


 そして、その一瞬の隙をルディアは見逃さない。体に一瞬激痛が走るが、そんなものは部下の死に比べれば何ということもなかった。大剣に魔力を込め斬り抜ける。


 エミリーの右目に付けられていたモノクルからレンズの破片が飛び散ると同時に赤く染まる。


 「っ‥‥‥!」


 右目の視界が暗闇に包まれる。


 「疑問に思っていたことがある。運命を操作する力がありながら何故、リリアとのポーカーで回りくどいルールを追加したのか。だが、たった今理解した」


 振り返り、剣を構える。エミリーは片手で右目を抑えている。手袋が赤く染まり、指の隙間から血が滴り落ちる。


 「一度に操れる人数は一人だけ、そして、自分自身の運命は操れないのだろう?」


 エミリーの顔は半分は赤く染まっていた。その表情は初めの笑顔に戻っていたが、その声には怒りが篭っていた。


 「‥‥‥その通りです」


 「皮肉なものだな、他人に自分の運命を左右されてきた貴様に与られた能力が、自分ではなく他人の運命にしか干渉ができない欠陥品だとは」


 ルディアの言葉にエミリーは少し微笑んだ。その笑顔は、今まで見せてきたものの中で最も穏やかだった。


 「神々から頂いたこの力は、加護や権能、中には祝福と呼ぶものもいます。ですが私はこれを呪いと称します。」


 血に汚れた手袋を取り外し床へと捨てる。


 「神々の執行者は皆、過去に辛い境遇に立たされたもの達です。そんな我々に手を差し伸べた神が与えた力は決して我々が望んだものではありません。これは自分達の境遇をただ鏡に映しただけ、ただ逆の立場を味わうためのものです」


 エミリーは剣に魔力を込め始めた。


 「自分の幸せを望んだ私は他人の運命を操る力、他人の幸せを望んだ妹は自分の運命を操る力を得ました」


 皮肉、ルディアはこれ以上に相応しい言葉を見つけられなかった。だが、それと同時に同情という感情を自分の中に見つけられなかった。そして一つ気がかりなことが思い浮かぶ。


 「その妹はどうした?」


 「食べました」


 その返答は実に呆気なく、そして残酷だった。


 「‥‥‥は?」


 ルディアの思考がここで初めて止まる。


 「言葉の通りです。彼女の力がどうしても欲しかった。ですがスキルを貰う方法など知りませんので取り込むのが一番可能性が高かったのです」


 彼女には理解できなかった。自身も昔、背中を預けた友を戦争で失った時は胸が張り裂けそうなほど泣き叫んだ。ましてや何年も互いに支え合った中だ。それほど大切な者を私利私欲で殺すなど考えたこともない。


 「‥‥‥共に支え合って生きてきたんじゃないのか?」


 その瞬間、再びエミリーの笑顔に邪気が孕む。


 「言ったでしょう? これは呪いだと」

 

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