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石を預けて1ヶ月。事態は大きな展開を見せていた。
各地のツテを使い調査していたある日、港町レイランを収めるレイラン伯爵家から、石を返還せよとの命令がハウン姉宛に届き、ついで伯爵家使用人を名乗る男達が村までやってきた。
後にわかったことだが、数ヶ月前、レイラン伯爵家にあった技術石が数十個盗み出されていたらしい。
伯爵は国王、宰相に次ぐ地位であり、その中でもレイラン伯爵は国内有数の名家である。そんな伯爵家から物が盗まれたとなれば、名誉に傷がつくのは確実である。
そのため、伯爵家は、事を公にせず、緘口令をひくとともに極秘裏で行方を調査する方向で動いた。
その調査の範囲網に僕達が引っかかり、石を返せと圧力をかけてきた訳である。
しかし、僕達にとって、石は村の希望だ。返せと言われても返すわけにはいかない。
圧力には圧力をということで、伯爵家由来の物か調査してもらうために王に報告するとした旨を伝え、返還要求を突っぱねた。
最終的に、王に知られては拙い伯爵家が折れ、市場価格の1.2倍で買い取る形に落ち着いた。
多少、伯爵家に悪い印象を持たれはしたが、結果をだけを見ると、僕達の完全勝利といっても過言ではない。
その日からさらに1ヶ月。
予想よりも早く集まった資金と、いくつかの秘策を鞄に忍ばせ、ハウン姉は王都に居る商会会長の元を訪れた。
後方に自分が雇った護衛を6人配置し、魔物の皮で作られたふかふかのソファーに腰を下ろす。
宝飾品が埋め込まれた机を挟んだ向かいには、同様のソファーに商会会長がゆったりと座っている。
(相変わらずのデブよね。毎日良いもの食べてるんでしょ。ほんと、うらやましい限りだわ)
商会会長は40代の男性で、薄くなった髪に中年腹、ダメな貴族の三男といった感じである。
(これで、商才はあるのだから詐欺よね、まったく)
自分の感情など一切ださず、ハウンは優雅にお辞儀をしてみせた。
「お久しぶりでございます。北部フェアリース支部のハウンです。本日はお時間を頂き、誠にありがとうございます」
「いやいや、ハウン君は優秀だと支部長からも聞いている。1度話しをして見たいと思っていたんだ。それで、本日の話というのはなんだね?」
「はい。半年前よりお話しさせて頂いております。私の生まれた山間の村の税率についてお話しをと思いまして」
「そうだったな。たしか、そんな話しが部下から入っておる。して、部下を通じて断りの話を進めていたはずだが? 直接出向いてきた理由はなんだね?」
「はい、今回お目通り願った理由なのですが。あの村を買い取りたいと仰るお客様がいらっしゃいましたので、商談をと頼まれたものですから」
「ほぉー、あの村をか。なんとも目が良いお客様の居たものだ。しかし、あの村は我が商会にとって重要なところだ。売ってくれといわれてものう」
(なにが重要なのよ。特産もなく、利益になんてならないからって、派閥の憂さ晴らしに使ってるだけじゃない)
「それは重々承知なのですが、どうしてもと仰るので、お話しだけでもと思い参上した次第です。……そうでした。申し訳ありません。お土産を持参して居たことを忘れておりました。どうぞ、お納めください」
赤く染められた絹の布で、丁寧に包装された桐の箱を恭しく差し出す。
「これは?」
「はい。お客様よりお預かりしました塩でございます。最高級の品だとのことで、会長の御眼鏡にも叶うかと」
包みを確認した会長の顔が一瞬強張る。
中に包まれていた塩は、ここグルード王国では、港町レイランを所有するレイラン伯爵が独占販売している品である。
その最高級ともなれば、レイラン伯爵家とゆかりのあるものだけに販売される品であった。
つまりは、お客様は伯爵家ゆかりのものですよ。と暗につたえる品である。
(まぁ、石売却の時に脅して貰った品だから、後ろ盾も何もないんだけどね。
さー、どうされますか、豚会長?)




