表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

所長が事務所にやってきた。ヤア! ヤア! ヤア!

「そろそろですね」


「うん、確かにそろそろなんだけど、その……」


 落ち着かない調子で時計を見ているメリッサ。彼女を困った表情で見つめるタルギン。


「もう三十分前からその調子だよね、君」


 ミーシャを待ちわびるメリッサは、遠足前日の子供状態だった。

 時刻は昼少し前、約束ではそろそろミーシャが来る。


「時間との戦いですからね!」


「そ、そうかい……」


 なにやら覇気漲るメリッサにタルギンは気圧される。一体何が時間との戦いなのか。そもそも何と戦うつもりだろうか。


「す、すいません!」


 聞き覚えのある少年の声。リン――というベルの音、と、タルギンが理解するより速くメリッサが動く。

 椅子に座ったまま、飛び上がる。机を踏み台に前へ跳躍。

 机を踏み越える形で華麗に着地。そのまま一直線にドアへ。


――速い!


 俊敏さが持ち味のニンジャであるタルギンも驚くメリッサの挙動。というか、必死すぎてちょっと怖い。

 開きかけるドア、その前に立つメリッサ。

 

「こ、こんにちムギュ!」


 礼儀正しく挨拶をしようとした市民服の少年が、メリッサの豊満な胸にぶつかる。胸が衝撃を吸収し、バウンド。


「いらっしゃい、ミーシャ君! よく来たわね!」


 満面の笑みでミーシャを迎えるメリッサ。抱擁までしないのは、流石に理性が働いたからか。


「あ、はい、よろしくお願いします……あ、あのタルギンさんにもご挨拶を」


「あ、それは今いいから、ちょっと今は別の所に行きましょう! 出来ればギルド事務所からかなり離れた所へ!」


 ほほえみを絶やさず、ミーシャの手を引く。方向はギルド事務所の外へ。


「え、あの、仕事場はギルド事務所じゃ……?」


 困惑するミーシャ。小さな手を握りながら、メリッサは少年の肩を抱く。


「お願い、今だけは私といっしょにギルド事務所を離れて……あだっ!!」


 突然の衝撃にメリッサが離れる。たたらを踏み、後退。


「なーに日の高い内から未成年誘拐かましとんじゃメリッサ、行き遅れのせいでケツに火が着いたんかのう?」


 メリッサにハイキックをかました人影、蹴りの体勢のまま陽気に声を上げた。

 年齢は十代後半、長い黒髪、陶器のように白い肌。濃い朱基調とした装飾過多の魔導師服。しかし両肩が出た艶めかしいデザイン。

 そして、人形のように一種非人間的に整った容姿。口元に長いキセル。 


「ったく、せっかく来てやったつーに、逃げ打つたぁいい度胸じゃのう、アホ部下が。……おう、ぬしがミーシャ・ニルドか!」


「え、あ、はい」


 突然見知らぬ女性から勢いよく名を呼ばれ、困惑するミーシャ。思わず気をつけの体勢になる。

 その顔を覗き込みように、彼女は距離を詰めた。


「ちょっと、ミーシャに近づかないで下さい! 警察呼びますよ!」


 悲鳴を上げるようにメリッサが制止。間に割り込む。


「なんじゃい、まだ舐めたり触ったりしとらんから法には触れとらんぞ! ケチんなや行き遅れ!」


「誰が行き遅れですか、セクハラ製造機!」

 

「ちょっと、メリッサ君、周りの住民の皆さんに迷惑だからあまり外で大声は……あ、」


 事務所奥から騒動を聞きつけ出てくるタルギン。その言葉が途中で止まる。


「……これはお早いお着きで、セレナ所長」


「おう、久しいのう、タルギン。女房殿は息災か? 相変わらず禿げてるのう」


 慇懃に頭を下げるタルギン、その頭頂部をぺしぺしと楽しそうにはたくセレナという女性。 


「……所、長……?」


 タルギンの言葉に呆然とするミーシャ。いまいち意味が理解出来ない。

 観念した表情でメリッサがミーシャの方に手を置く。


「ミーシャ君。このエキセントリックかつアレな人物が、その、うちのギルド事務所所長、……つまり」


 ゆっくりと息を吐く。


「この事務所で一番偉い人なの」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ