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マジシャンな黒猫の辿る未来  作者: 金貨の騎士
王国からの使者
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第四章 一応言っておく、鈍感では無い

二次小説の方、大丈夫かな?

 ベルフィーア 


 その世界の人々は、自分たちが生きるこの世界をそう呼んだ。太い『く』の字の形をした大陸がひとつだけ存在し、周囲を海と小さな島々に囲まれただけのその世界。



 その世界には、進化し続ける科学があった。


 その世界には、古くから栄華を誇り続ける魔法があった。


 その世界には、終わることの無い憎しみがあった。



 戦いが起こるのは必然。異なる形を持った大きすぎる力同士の邂逅は最悪の形を持って始まった。科学は魔法を否定し、魔法は科学を否定した。


 魔法と科学による戦火は、大陸の中央部…それも半分近い広さを亜人たちの国ごと焦土に変えた。その結果、ベルフィーアの勢力図はとても簡単なものになった…。



 科学主義国家『キルミアナ帝国』


 魔法主義国家『マルディウス王国』



 そして長き時代を経ることにより、かつて焦土と化した大陸中央部に豊かな自然が甦るころには難民と亜人、原生生物の集合地帯と成り果てた大陸中央部…。



 国境無き大地『イトリア無法地帯』、通称『空白地帯』


 

 時は『戦暦3056年』、両国が冷戦状態に突入してから4年が経過した頃だった…。














「ねぇ、どうしたの…?」


「…何が?」



 キルミアナ帝国の最北端…空白地帯との境界に接する商業都市『ミロクボンド』。そこに存在する庶民向けの繁華街を二人の男女が歩いていた。



「なんか怒ってない?」



 一人は自称『しがないマジシャン』の『アスト・フランデレン』。仕事着であり一張羅である黒スーツとシルクハットで身を包んでいる彼の姿は、昼食時ゆえ人で溢れかえった繁華街の視線を一身に集めていた。



「そんなことないよ?…別に……」



 そして言葉と裏腹に不機嫌な態度で返事をするのは『フィノーラ・ヴェルシア』。この街では探偵として有名である……『返り血の紅探偵』なんて物騒な異名で…。今日の彼女は上下紺色の服装の上に赤いジャケットを羽織っている。



「そんなに嫌なの?彼女のこと…」


「嫌いなわけ無いでしょ」



 二人は今、行きつけの飲食店に昼食を摂りに行く最中である。アストと二人での外出に最初こそご機嫌だったフィノーラだったが、その店に近づくにつれてこの状態になっていったのである…。


---ぶっちゃけ本当に怒ってなどいない、焦ってるのである。


 因みにその店の主人は二人の顔馴染みであり、"今は"とても仲が良好である。それでもフィノーラにはひとつだけ頭を悩ます懸案事項がその店の主にはあった。



「ただ、"ライバルの本拠地"に足を運ぶのは気が引けるだけ…」


「ライバルって、なんのさ?」


「アストは知らなくていい!!そして最後まで知らないで!!」 


「えぇ~」



 家事がまるで出来ないフィノーラのことだから、きっと飲食店を営む彼女に料理の腕で張り合ってたりするのかな?…なんてアストは考えているが、実際は違う。



(不味い…不味いわよ私!!このまま店に足を運び入れたら料理も何もできない私は手も足も出ない!!つまりアプローチに関しては"アイツ"の独壇場……そうなると敗ける…)



---恋の戦いに…!!



「あ、着いた」


「ッ!?」


 

 アストの声に反応して意識を向けると、目の前には目的地である小ぢんまりとした木製の定食屋(敵の城)が佇んでいた。結局何かの打開策を編み出すことも適わず、二人っきりの時間というアドバンテージを自ら無駄にしたことをフィノーラが自覚して後悔した頃にはもう手遅れ。アストの手は入り口の取っ手を掴んでいた…。



「さ、とにかく入ろうか?」


「…そうね」



---やや重い足取りで、彼女は恋敵が待ち構えし魔境へと歩を進めた…









 扉を開けた瞬間に様々な料理の香りが鼻に届き、食欲を刺激されたためか二人の腹の虫が遠慮なく鳴き始める。昼時ということもあってか店の中は客で溢れており、店主である黒髪赤目の彼女はとても忙しそうに手を動かしていた。



「こんにちは~」


「いらっしゃいませ~…って、アストさん!!」



 酒場を大幅に改造したこの店は2つのテーブル席以外、全てカウンター席である。そして本来なら数々の酒瓶がずらりと並んでいたであろう場所は、数々の調理器具が設置され見事な調理場と化していた。


 そこでフライパンとオタマ片手に何か作ってたこの店の主はアストに気づいた途端表情を輝かた。同時にフィノーラは苦い表情を見せたが…。



「なんか来るの久しぶりじゃないですか!!どうしたんですか今日は?」


「いや、普通に昼食を摂りに来たんだけど…」


 

 彼女の名前は『ミレイナ・トンプソン』、この定食屋『ねこじゃらし亭』の店主である。まだ少女と呼べる年頃の彼女であったが、一人で見事なくらいにこの店を錐揉みしている。



「分かりました、今すぐ席を用意しますから少し待ってて下さい!!」


「二人分ね」


「二人?……むっ…」



 言われて彼女はようやくフィノーラに視線を向けた。どうやら本気でアストにしか意識が向いてなかったようである。


 その途端、ミレイナの表情が冷めたものへと変わった…。 



「…ちっ!!」


「ホント露骨ね!?」


「承知しました、アストさんと暴力探偵の二名様ごあんな~い」


「ちょっと表出ろやコラァ!!」


「フィノ、口調が…」



 早々に険悪ムードになった二人にアストは思わず引き攣った笑みを浮かべた。いつも出会うたびにこんなやり取りをしている彼女らだが、なんだかんだ言って仲良しである……らしい…。


 さっきフィノーラに尋ねた時同様、昔ミレイナに彼女のことを尋ねたら『え?仲良しですよ?』という返事が返ってきた。知人達の話によれば、結構二人で一緒に居るときが多いらしく、その時の様子も楽しげだそうだ。アスト自身はその様子を見たことが無いのだが…。



「大体あんたアストさんに未だにタメ口ってどういうことよ!?」


「別に関係無いでしょ!!ていうか、あなただってアストと初対面の時にタメ口でしょ!!」


「う…そ、それは……アストさんが年上に見えなかったから…」


「…ミレイナ、それ結構気にしてるんだけど?」



 アストは今年で十九歳になる。そして彼女らは二人とも十八歳になったばかりであり、彼より年下なのだ。元々敬語だのタメ口だの気にする性格ではないので、フィノーラがどんな口調で話そうが特に気にしない。


 大体、彼女の昔の口調はこんな生易しいものでは無かったし…


 しかし強いて言うなれば、童顔と優男の良いとこ取りしたような容姿であるアストがフィノーラと並ぶと、十中八九年下と間違えられることであろう。目下アストのコンプレックスとなりつつあるのだ…。



「とにかく!!奥の個室に行ってて下さい、今日は予約入ってないですから」 


「え、本当?そりゃラッキーだ」



 特別な客をもてなす為に設置されたゲストルーム。酒場を改造する際に撤去するかしないか悩んだあげく、ミレイナは最終的に予約専用の特別席にすることに決めた。街の住人達の要望でもあったが、何より『誰かとの特別な空間』という響きに惹かれたそうだ…。因みに個室はそこそこ好評であり、家族での祝い事やカップルのデートによく用いられている。



「料理は日替わり定食でいいですか?」


「任せるよ。さ、行こうフィノ」


「あ、うん…///」


 そう言ってアストは自然にフィノーラの手を取った。それに対してフィノーラは嬉しそうに、ミレイナはかなり羨ましそうな表情を見せる。


 アストが予約専用室に向かって歩を進めミレイナに背を向けたとき、フィノーラは一瞬だけ振り向いて彼女と目を合わせながら不敵な笑みを浮かべた…。



(今日も譲る気は無いよ?)



 そんな『恋のライバル』からの挑戦的な視線に一瞬だけ呆けたものの、すぐさまミレイナも同じような笑みを浮かべてそれに応える。



(上等、むしろ手え抜いたら承知しないわよ?)



---同じ男に恋する少女二人の攻防は、本人の知らないところで今日も熱く繰り広げられていた…。














「やっぱりここって良い部屋だと思わない?」


「そうだね~。(ミレイナのテリトリーじゃなければね…)」



 そう言って店の奥にある扉を開き、割と広めな窓の無い古風な部屋に入る。中世の貴族の屋敷のような雰囲気をかもし出しており、荘厳なオーラを滲ませながらも派手すぎない絵柄の壁紙や装飾品、暖炉や小柄なシャンデリアまである。


 そして、その部屋の真ん中にはゆとりを持って十人前後が座れるサイズの丸テーブルがあり、テーブルの上には花瓶が乗っている。大抵そのテーブルで色々と食べたり騒いだりするわけである。


 二人はそのテーブル席に互いに向き合うように…ではなくて、隣り合うように席に着いた。



「…なんで隣?」


「だってテーブル大きいから真正面に行くと遠いんだもん…」 



 そのままフィノーラは頭をアストの肩に乗っけてくる。特に嫌がる理由も無い…ってか、むしろ嬉しいので彼女の頭をそのまま優しく撫でてあげた。



「はにゃぁ…///」


「ははは、フィノって僕やミレイナより猫みたいだね」


「…いっそ私も耳生やしてみようかな?」


「苦労しかしないから、止めておいたほうがいいよ。それにフィノは充分に可愛いって♪」


「ふふ、ありがとう///」



 とても気持ちよさそうな声を出し、うっとりした表情を見せるフィノーラ。彼女のその表情を至近距離で眺めた続けたアストからは、いつのまにか日頃の疲労なんぞぶっ飛んでいた…。


 店の客…特に独り身な方々が見たら砂糖を吐きそうな空間を作っていた二人だったが、店の表から聞こえて来た会話によって甘い時間は中断されてしまった…。



『ちょっとジェームズ!!あんた私の代わりに店番してて!!』 


『え!?俺メシ食いに来ただけなんだけど!?』


『いいからお願い!!…あぁ、もう!!なんで敵に塩を蔵ごと送っちゃったかなぁ!?』


『…つまり自分でアストさんとフィノーラさんが二人っきりになる状況を作ったと?お前バカ?』



---クワーン!!



『痛ってぇ!?おま、フライパンで殴るか普通!?』 


『いいから店番、や・れ!!』


『はいはい、了解です………ったく、そんなんだからフィノーラさん以上に寄ってくる男が少な…』

 


---ゴッ!!



「…生きてるよね?」



「いつものことだから大丈夫じゃない?」



 ミレイナ同様、顔馴染みである近所のジャンク屋の『ジェームズ・クラッド』が来ていたみたいだが、鈍器で殴ったような鈍い音が聴こえたのを最後に彼の言葉が響くことはなかった…。そして…



---ガチャッ



「お待たせしました、日替わり定食二人前で~す!!」



「「…。」」



 個室の扉が開かれ、注文された料理を手に持ったミレイナが満面の笑顔で立っていた。顔に付いている赤いものはケチャップかトマトソースだと思いたい…。



「…って、何してるんですか!?」



 会話が聞こえてから雰囲気は霧散したものの、体勢はさっきと同様アストの肩にフィノーラが頭を乗っけた状態のままである…。



「何って…イチャイチャしてたってとこかしら♪」



 若干取り乱すミレイナにフィノーラがさらりと応えた…。それに対し、ミレイナは己の耳と尻尾・・をピンと逆立たせて憤慨した。



「ずるい!!…アストさん!!同類・・のよしみですから私にも!!」


「え、ちょっと待っ…おぅわっ!?」 



---亜人…『化猫族』特有の猫耳・・尻尾・・を荒ぶらせ、ミレイナはアストに飛び掛った。


ジェームズは死んでません

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