第十六章 魔法近衛騎士隊 後編
アストの過去編…本編扱いにするか、独立させるべきか……
---王国三大魔法技術の一つ『魔術式』
かつて王国において、戦場の魔法とは“魔力に形と性質を与えて飛ばす”『魔導式』が主流であった。だが反魔力物質の存在が戦場の常識を大きく変えることになる。いかに鋭い形と驚異的な属性を持たせようが魔導式の大半は魔力で構成されており、王国軍はその殆どを無力化されてしまったのだ…。
唯一使い方によっては対抗できた『呪術式』はベテランの魔法使いにとっても習得が難しく、一般兵全体に普及させるのには無理があり、しかも燃費が悪いため戦場の主力には成りえなかった。
そこで王国軍は、“科学の親戚”と揶揄され軽蔑されていた“この世の理を知るための学問”である『錬金術』の知識と技術を総動員し、対抗するための術を必死に模索した。そして最終的に反魔力物質は魔力以外の力には大した強度を持たないということが判明し、魔法使い達にとっては不本意ながらも反魔力物質は直接魔力を用いない方が簡単に破壊できるという結論に至った。
---その結果編み出されたのが“魔力を持ってこの世の法則に介入する”『魔術式』であった。
魔力を持ってしてこの世の物質や法則に粒子規模で干渉し、人為的に自然現象を巻き起こす脅威の技術。なまじ仕組みが理解できる分、科学の本場である帝国は魔術の非常識っぷりに対して大いに驚愕した…。
---火、水、風、衝撃、磁力、重力…この世の物質や力を自在に操ることなんてまだ序の口…
---無数の鉱物を分解し、合成することにより新たな金属を精製できる…
---大気中の元素を選別して起爆性のガスを作ることなんて簡単なことだ…
---地脈を刺激して地震と津波を起こすことだって可能だ…
---気圧と気温を操り望む天候を生み出す事だって容易い…
魔力が無ければ理屈が解っても実現不可能、科学であって科学では無い未知の技術…。こうして王国は、再び戦場における魔法の優位性を甦らせたのであった…。
魔力に対しては絶対的な防御力を誇る反魔力物質。しかしそれは魔力に対してのみの話であり、反魔力物質自体はどんなに加工しても物理的な強度は普通の鉄程度しかない。昔、帝国が純反魔力物質製の戦車を造ってみたところ、その戦車は岩をぶつけられただけで大破したという記録がある…。
早い話、反魔力物質は『魔力“を”造り替えた物』には強いが『魔力“で”造り替えた物』には滅法弱いのだ…。
◇◆◇◆◇◆◇◆
人払いの結界により、人の気配が皆無になった夜の住宅街。その大通りで巨大な水の塊が己の形を変幻自在に変えながら二人の草薙衆に襲いかかっていた。
ある時は塊の一部を触手のように伸ばし、ある時は大蛇の姿を模って縦横無尽に這い回り、またある時は分離した一部を凝固させ氷の矢を放つ。水の塊はまるで巨大な生き物のように暴れまわる…。
何度か本体とも言えそうな一番巨大な塊に反魔力物質をコーティング済みの刀を突き刺したりしてみるが効果がほとんどなく、これを操っているであろうアストはすっかり見失ってしまった…。
「コーティング済みの刀で崩壊しないだと!?」
「チッ、魔術式か!?……だが…!!」
反魔力物質の数少ない天敵、魔術式。あらゆる物質や力に介入してみせるその力を使えば『水』を自在に動かし、操ることなど容易いことである。しかし、技量や個人差にもよるが魔法使い一人が巻き起こせる現象の規模なんてたかが知れている。水の場合なら精々、自動車が一台すっぽり納まる程度の量が限界だろう。ところが…
「なんなんだよコレは!?」
「何者なんだアイツ!?」
―――目の前の水の塊は二階建て民家を丸々覆い尽くしても、まだまだ余裕がありそうだった…。
改めてその規模を認識し、思わず足を止めてしまう二人。その隙を見逃さず、やや丸く一か所に纏まっていた水の塊は一気にその体を細長く引き伸ばし、真っ直ぐに二人への方へと突っ込んでいく。
―――ドガァ!!
「ぐああああああぁぁぁ!?」
「ディック!?」
反射的にその場を飛び退いたムラサメは辛うじて避けれたものの、ギリギリで反応が遅れたディックはそのまま跳ね飛ばされ勢いよく電柱に叩き付けられた。彼はそのままズルズルとずり落ち、地面に倒れこんだ。死んだかどうかは分からないが、もう戦えないのは確かなようだ…。
「クソッタレえぇ!!」
怒声と共に、ムラサメは出し惜しみするのをやめることにした。草薙衆正式採用装備である『浮遊足袋』と『高周波振動刀』のスイッチをONにする…。
装備品から出される空気の噴射音と甲高い振動音を響かせながら、ムラサメは人間離れした速度を持ってして水の塊へと間合いを詰める。途中、触手状態にして伸ばされた水の塊の一部が彼を迎撃するべく襲いかかってきたが、それら全てを避け、防御してみせた。そして、遂に距離を詰めたムラサメは居合切りの構えを取り…。
「亜人モドキが調子に乗るなあぁ!!」
―――秘技・喪鳳閃
機械の力を借りて抜き放たれた一撃は見事に水の塊を真っ二つにしてみせた。飛び散った水滴が大通りに雨のように降り注ぐ……黒い人影と共に…。
「ッ!!」
「集え…!!」
戦闘に集中するために隠蔽魔法を解除し、猫耳と尻尾を生やしたアストが両手を掲げながら一言呟くと真っ二つにされた水の塊に変化が起きた。
半分ずつに両断されたとはいえ、依然として大質量を誇る水の塊。両断されたことにより形を崩壊させる筈だったそれらは、まるで時間を巻き戻すかのようにアストの両手へと集まっていく…。
民家に匹敵する質量を誇っていたそれは魔法により圧縮され凝結される。地面へと舞い降りるまでの僅か数秒の間に、刃渡り60㎝程度の二本の氷剣がアストの両手に収まっていた。
「…行くよ?」
「舐めるなぁ!!」
―――ガキィン!!
言葉と同時に襲いかかる氷の双剣。上段から振り下ろされたそれをムラサメは愛刀で真正面から迎え撃つが、すぐにその表情は驚愕と憔悴の色に染まることになる…。
「な、重ッ…!?」
今まで何度も刀を振るい、様々な者達と刃を交えてきた。それゆえ、アストの氷剣の重さが見た目とまるで釣り合ってないという事実に一層焦ってしまった。まるで鬼族の金棒を受け止めたようで、このままの体勢が続いたら地面に埋もれそうな勢いである…。
(しかもこの刀で斬れないってどんな密度だ!?)
当然と言えば当然である。この氷剣は先程の巨大な水の塊を強引に圧縮して固めたものなのだ。密度は勿論の事、質量はさっきの巨大な水の塊そのものである。魔法の補助が無ければ振るうどころか待ち上げることさえ不可能だ…。
ムラサメはなんとか体をずらして競り合いから抜け出し、体勢を取り直すために距離をとろうとする。しかし、アストはそれを許さない。浮遊足袋を使用したムラサメを上回る速度で一気に間合いを詰め、彼に距離を取らさない。そのまま流れるような動きで3連撃をお見舞いし、刀を弾き飛ばした。
「しまっ…!?」
「斬り刻め…!!」
―――二刀乱舞・氷刃霊歌
「ぐおおぉお!?」
計12連撃の乱舞をもろに喰らい吹っ飛ばされるムラサメ。吹っ飛ばされた勢いをそのままに、20mほど地面をゴロゴロと転がりながら倒れた。
しかしアストは動きを止めることなく双剣の一本を彼が倒れている場所の真上に放り投げる。クルクルと剣が宙を舞う中、ムラサメが体をガクガクと震わせながらその身を起き上がらせようとしていた…。
「クソがあぁ!!まだだ!!」
「いや、終われ…!!」
―――螺旋水槍・零式
アストの意志により氷剣に圧縮された水が本来の面積と質量を取り戻す。そして雲の如く宙に漂う巨大なそれは一瞬のうちに再度凍りつき、螺旋状の巨大な矛となった…。
「なん…だと…!?…この、化け猫野郎があああぁぁ!!」
「言い残す言葉はそれでいいかな…?」
アストのその言葉と同時に、氷塊はムラサメに向かって勢いよく落とされた。
「う…おおおおぉぉぉぉぉおおぉぉおおぉぉぉぉ!?」
―――ドガシャアアアァン!!
絶対零度の死神は、彼を断末魔ごと呆気なく押し潰した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「あ~、疲れた…」
いくら『時代遅れの精鋭』といえど彼らの実力は本物。街を壊さず、殺さないように戦うというのは流石に骨が折れた。大規模破壊魔法で街ごと吹き飛ばしてやるのは簡単だが、そんなことやって良いわけもない。
「まぁ、空白地帯(最前線)の奴らと比べたら楽だけどね…」
そう呟きながら意識を刈り取った2人の草薙衆の元に歩み寄る。電柱に叩きつけられ、中身スカスカ厚さペラペラの氷細工を叩きつけられた2人は何とも辛そうな表情を浮かべながら沈黙し続けていた…。
「…ところで、君はここで何をしていたんだい?」
「私の自宅は先輩の所の隣ですよ?あんなあからさまな殺気に気付かない方がおかしいでしょう…?」
振り向けばアイカが居た。いつもの白いスーツは気の毒な彼らの返り血で赤く染まっている…。
「…案の定手加減無し、か……」
「周囲に被害は出してませんよ…?」
「いや、出来れば生け捕りにして欲しかった…」
今回の件は話の規模が少々大きい。陰謀絡みとなると、カザキリの協力は必要不可欠であり、その力を借りるためにはそれなりの情報源が必要である。
なんとなく言いたいことを察してくれたのか、彼女はすまなそうな表情を浮かべた…。
「あ…それは失礼しました……」
「いいよ。一応2人ほど捕まえたし…」
この2人をカザキリに届ければある程度は事が進展するだろう。早い所この件を終わらせて、フィノーラとのまったりした日常に戻りたいものだ…。
「……ところで、コイツらの言ってたことなんだけど…」
「王国の脅威になる者は討て、と日頃から上の連中に言われてます…。」
「…。」
「…が、王国の脅威になりそうな第四人類なんか見当たらないんで帰ります。」
奴が大声でペラペラ喋ってたことは全部聞こえてたらしい。それでも尚こう言ってくれるとは…本当に自分には勿体無い後輩だよ、この子は…。
「…ありがとう」
「何のことです?敵意が無い者を脅威と呼べないのは常識でしょう?」
「ははは、本当に君は貴族より貴族らしいよ…」
「……貴族らしい、ですか…」
「ん、どうした?」
「何でもありません。それより、何処かへ行く予定だったのでは?」
「…て、そうだ夕飯買いに行かないと……!!」
自分が何の為に外出しようとしていたのかをやっと思い出す。馬鹿共のせいで随分と時間をくってしまった…。
「草薙衆の2人は私が警察に引き渡しておきます。」
「すまない…。じゃあ、僕は行くからね。こんな時間に妙な事に巻き込んでゴメンよ、アイカ」
「いえ、私が勝手に首を突っ込んだだけですので……ところでアスト先輩…」
「ん?」
何やら随分と深刻な表情を見せるアイカ。しかし、それは一瞬のことですぐにいつもの彼女へと戻った。
「……やっぱり、何でもないです。気にしないで下さい…」
「そう、じゃあね」
その一言を最後に彼はスタスタと夜の商店街へと足早に向かっていった。その背中を見送りながら、アイカは誰も居なくなった大通りで1人ポツリと呟いた。
「……きっと、見間違いですよね。一瞬とはいえ先輩の…あの人の瞳が…」
―――紅く輝いていたなんて…
近いうちに設定集を更新する予定です。




