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16,545回処刑され続けた魔人ですが、別世界で気ままなグルメ旅を始めます  作者: 雉子鳥幸太郎


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最高のチーズと最高のエール

ファルデンギルド近くの酒場で皆が集まっていた。


「諸君、本当に良く頑張ってくれた……! 皆のお陰でこうしてまた酒が飲める。本当にありがとう! ウェイトリー、一言頼む」


ゴルダに背中を押され、俺は仕方なく前に出た。


「あー、なんていうか、今回の成功は、各々が自分の仕事をこなしてくれたからだ。特に波を食い止めた新人たちは誇っていいと思うぞ」

「ほとんど儂がやったがの」

ルーファスが茶々を入れる。

皆が笑った。


「まあ、反省会は各自でやってくれ。俺は一秒でもはやく、このチーズとエールを楽しみたいんだ」

「賛成!」とヒューゴ。


俺はジョッキを掲げた。


「では――ファルデンに!」

「「ファルデンに!」」


乾杯を済ませ、席に着くと俺はゴルダが用意した最高のチーズと最高のエールを前にした。


「これが……」

生唾を飲み込む。


「まずはそのまま試すのがいいじゃろう」

ルーファス師匠がニヤッと笑う。


俺は静かにチーズを一欠け、口に運んだ。


「⁉」


「ほっほっほ、顔を見ればわかるの」


まるでクリームのような滑らかさと濃厚な風味……。

程よい酸味の残るうちに、エールを流し込んだ。


「くっ……!」


た、たまらん……!

本当にチーズなのか? 次元が違うぞ……!


「ほれ、何か忘れとらんか?」

「……忘れてませんよ、これですよね?」


俺は魔術格納から香辛料を取り出した。


「ほっほ、どれ、儂のにも頼む」


俺はルーファスのチーズに香辛料をかけた。

ルーファスは迷わず口に入れる。


「かぁ~! これじゃこれ、働いた甲斐があるというものよ!」


自分のチーズにもかけ、急ぎ口へ放り込む。


「んん! これはまた別物ですね!」

「エールが進むわい」


ふと、視線を感じる。

見ると、ヒューゴやリズたちが俺たちのチーズを羨ましそうに見つめていた。


「……食ってみるか?」


「いいんすかっ⁉」

「やったぁ!」


俺はヒューゴに香辛料の小瓶を渡した。


「全員にかけてやれ」

「はい! えっと、少量をチーズの上に、ですよね」

「そう。それからエールを一口」


ヒューゴが一人ひとりのチーズに丁寧にかけていく。


「私のにもお願いします!」とミア。

「ゴルダさんも?」

「……頼む」


珍しくゴルダが素直に頷いた。

全員に行き渡ったのを確認して、俺は言った。


「じゃあ、一緒に」

各々がチーズを口に運ぶ。


「「「……っ⁉」」」


「う、うまっ⁉」

ヒューゴが目を見開いた。


「なんですかこれ……!」

リズが両手で口を押さえている。


「エール、エール!」

ハリーが慌ててジョッキを傾けた。


「か、かぁ~!」

「すごい、チーズがこんなに変わるなんて……!」


ノエレが自分の分を口に入れた途端、固まった。

「……師匠、これ反則じゃないですか」

「ほっほっほ、だから言ったじゃろうが」

ルーファスが得意げに鼻を鳴らした。


しばらく、テーブルに言葉はなかった。

皆が黙って、チーズとエールに集中していた。


「ウェイトリーさん」

リズがおずおずと声をかけてきた。


「この香辛料、どこで手に入れたんですか?」

「ある錬金術師にもらった」

俺はルーファスに目をやった。


「……ノエレが育てた薬草畑の端に生えとったやつじゃ」

「え、そうなんですか⁉」とノエレが驚く。


「気づかんかったか。まったく、見習いとはいえ情けない」

「だって師匠が教えてくれないから……!」

また始まった。

俺は苦笑しながらエールを一口飲んだ。


ゴルダがそっと隣に座った。

「……約束通り、最高のものを用意できたか?」

「十分すぎるくらいだ」


「そうか」

ゴルダは自分のジョッキを静かに傾けた。


「正直に言う。今回、お前がいなければ終わっていた」

「いや、俺がいなくてもルーファス師匠が」


「儂だけでは無理じゃな」

ルーファスが珍しく真顔で言った。

「千を超える群れ、時間をかけて倒すことは可能じゃろう。しかし、街を守りながらとなると話は別よ」


「……そうですか」

「素直に礼を受け取れ、この朴念仁が」

笑いが起きた。


「ウェイトリーさん!」

ヒューゴが立ち上がった。


「俺たち、もっと強くなります。次に会う時には……ちゃんと、力になれるように」


リズとハリーも頷いていた。


「ああ」

俺はジョッキを持ち上げた。

「楽しみにしてるよ」


ヒューゴがぱっと顔を輝かせた。

やがて夜も更け、皆が三々五々帰っていく。


最後に残ったのは俺とルーファスとノエレだった。


「でも、めんどくさがりの師匠が手伝うなんて思わなかったですよ、見直しました!」

「まったく、儂をなんだと思っとるんじゃお前は……」


ルーファスはそっぽを向きながら、しかしどこか満足そうだった。


「ウェイトリーよ」

「はい」


「次はどこへ行く?」

「まだ決めてません。のんびり決めます」


「そうか」

少し間があった。


「どこかで遊戯盤を見かけたら……相手をしてやれ。強い相手を求めている奴は、どこにでもおるからの」


俺はルーファスの顔を見た。

遊戯盤の話をしているのか、そうでないのか、判断がつかなかった。


「……覚えておきます」


三人で外に出ると、夜空に星が広がっていた。


「うわあ……きれいですねぇ」

ノエレが空を見上げた。


「田舎はこれがいいんじゃよ」とルーファス。


俺もしばらく、空を見上げた。

リスボルンの魚と白ワイン、そしてこのファルデンのチーズとエール。

悪くない旅だな。


「では、俺はそろそろ」

「うむ。達者でな」

「ウェイトリーさん、またいつか!」


宿に戻り、チスパに草をやる。

チスパは黙って食んでいた。


宿の部屋に戻り、手帳を開く。

ペンを手に取って、少し考えてから書いた。


――ファルデンのチーズは本物だった。エールも。


書いてから、もう一行。


――また来よう。


手帳を閉じようとしてページを戻り、最初の一行を見返す。


――リスボルンに着いた。魚がうまい。


我ながら子供みたいだな、と思った。

でも、悪くない。


あの地下牢で何千回も同じ天井を見上げていた俺が、今は見知らぬ街の宿で手帳を開いている。


書くことがある。


また来たいと思う場所がある。


行きたい場所にいける。


たった、それだけのことだが、それだけで俺は十分満足だった。


手帳を閉じて、ベッドに倒れ込む。

次はどこへ行くか。


それは明日、チスパと一緒に決めるとしよう。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

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