女王討伐 前編
橋へ向かおうとすると、ヒューゴが駆け寄ってきた。
「ウェイトリーさん……!」
「どうした?」
「あの時は助けていただいて……本当にありがとうございました!」
深々とお辞儀をする。
「怪我は?」
「ポーションでほとんど治ってます。完全に治さなかったのは、忘れないようにしようと思って……」
「そうか、良かったな」
「あの、ウェイトリーさんの強さは見て知っていますが……本当に一人で行かれるんですか?」
「まあ、俺が駄目でもルーファス師匠がいる。大丈夫さ」
「ハッ、よくいうわ……」
見るとルーファスとノエレがいた。
「小僧、こやつの心配よりも自分の心配をせい」
「は、はい! すみません……!」
「わかったなら、さっさと持ち場へ急がんか」
ルーファスに言われ、ヒューゴが慌てて頭を下げた。
「で、では、失礼します!」
逃げるように去っていくヒューゴ。
まあ、引退したとはいえ、元特級冒険者なんて雲の上の存在だろうからな。
俺はヒューゴに少し同情しつつ、「手厳しいですね」と苦笑した。
「そうですよ、もうちょっと言い方があるじゃないですか」
ノエレが可哀想にと短く息を吐いた。
「なぁにを甘っちょろいことを言っとる。儂らは今から命を張りにいくんじゃろうが」
「それは……そうですけど」
「ウェイトリーよ、戻ったら一局打ってもらうぞ?」
「ええ、構いませんよ」
「よぅし、ほれノエレよ。行くぞ」
「はーい。じゃあ、ウェイトリーさん、こっちは任せてくださいね!」
ノエレが力こぶを作って見せた。
「ああ、頼んだ――」
俺はチスパに乗り、橋に向かって走り出した。
* * *
高台の師匠から合図が送られる。
これで全員が配置についた。
隠密をかけ、橋を渡ろうとした、その時――。
ドドドドド……。
「なんだ……?」
地鳴りが響いてくる。
見ると橋の向こう、森の奥から小鬼の大群が押し寄せてくるのが見えた。
「チッ……小鬼爆増か⁉」
いくらなんでも早すぎる。
女王が巣を構えてから最短でも一カ月はかかるはずだ。
俺は上空に向けて手を広げる。
『――火球!』
信号代わりに魔術を放った。
* * *
「む……あれは⁉」
高台に陣取っていたルーファスが目を細めた。
森の木々の隙間から緑の波が押し寄せてくるのが見えた。
「始まっとったか……えぇい、忌々しい」
ルーファスが吐き捨てるように言うと、橋の手前で赤い火球が打ちあがった。
「ウェイトリーか」と、小さく息を吐く。
「年寄りは……いたわるもんじゃがのぅ」
ルーファスの手に弓はない。
それどころが矢の一本も持っていなかった。
斜に構え、呼吸を整えながら、左手を緑の波へ向ける。
ルーファスの体から、まるで湯気のような闘気が立ち昇った。
左手に輝く闘気の弓が現れる。
そして右手で光に触れ、後ろに引き絞るとそれは光の矢となった。
「――ルミナス・レイン!」
閃光が迸る。
放たれた光の矢は一直線に緑の波へ向かう。
そして、その上空で弾け、光の矢雨となった。
緑の波にぽっかりと穴が開く。
「ふむ……まあ、久しぶりじゃし、こんなもんか」
ルーファスは手で屋根を作り、森の様子を眺めた。
「……さて、ぼちぼちやるかの」
腰を叩きながら、ルーファスは二の矢を繰り出した。
「えっ⁉ あれは師匠の……⁉」
ノエレが声を上げた。
「は、始まったんでしょうか⁉」とリズ。
「いや、早すぎますね。何かイレギュラーが発生したのかも」
「師匠のところへ行ってみますか?」
「いや、作戦に変更があるなら、こちらに何かしら合図があるはずだ。下手に動くのはまずい……」
ゴルダがヒューゴ達にも届くよう大きく声を張った。
「一気に来るかも知れねぇ、皆、気を抜くなよ!」
「おう!」「はい!」
ノエレはぎゅっと拳を握りしめた。
* * *
ルーファスが放った光の矢雨を受け、目の前の小鬼たちが一瞬で倒れた。
「さすがだな」
想像以上だ。特級は伊達じゃなかったか。
全盛期なら俺は必要なかったかもな。
だが、波はとまらない。
同族の屍を乗り越え、小鬼たちが踊るように突進していく。
続けざまにルーファスの矢が降り注ぐが、少なからず討ち漏れがあった。
あとは、彼らを信じるしかない……。
俺は俺の役割を果たすだけだ。
小鬼たちを避けながら、俺は窪地を目指して走った。
小鬼の数は恐ろしいほどに増えていた。
まるで軍隊蟻だ。
女王を起点とする小鬼暴走は、奴らの能力まで底上げする。
「少し減らしておくか……」
走りながら右手に魔力を集める。
魔力の粒子が渦を巻いていく。
『暴竜……』
左手で右手首を抑えながら、俺は緑の波に向かって魔術を放った。
『――旋風‼』
竜のごとき竜巻が木々をなぎ倒しながら突き進む。
巻き込まれた無数の小鬼たちが宙を舞った。
* * *
「おほっ! やりおるわい……」
ウェイトリーの魔術の威力を目の当たりにして、ルーファスは嬉しそうに笑った。
「来たぞ!」
ヒューゴが小鬼に斬りかかった。
『ギヒャァッ!!!』
「一匹たりとも通すな!」
「おう!」
『ギギィ――ッ!!』
小鬼がヒューゴの背後を襲った。
「――くっ⁉」
『ギャ……ッ⁉』
小鬼の側頭部を矢が貫く。
「ハリー⁉」
「おいヒューゴ! 俺のこと忘れてただろ?」
互いにニヤッと笑みを交わし、アイコンタクトを取る。
「あ、あわわわ……ファイア!」
リズが炎の魔術を放つ。
『ギキィイッ――!!』
燃え上がる小鬼。
「ナイスです、リズさん! その調子です!」
ノエレがリズをフォローする。
「むぅん!」
『グギョッ!!?』
ゴルダが戦斧で小鬼の頭を粉砕した。
「はあ、はあ……ぐっ……くそ、まだいけるか!」
各自の働きにより、戦線は維持されていた。




