魔王を倒した男勇者は王様との謁見で褒美を望む。この国の可愛い男の娘王子と結婚したいと。小説を書いて下さい!
魔王が討たれたという知らせは、王都に届いた瞬間から国中を震わせていた。
長きにわたり世界を覆っていた恐怖は終わり、民は英雄の帰還を祝う準備に沸き立っていた。
その英雄――男勇者アルクは、傷だらけの鎧をまといながらも、まっすぐ王城の大広間へと進んでいた。
剣はすでに鞘に収められている。
だが、その存在感は未だ戦場のままだった。
玉座には老王が座り、その左右には貴族たちが並ぶ。
「勇者アルクよ」
王の声が響く。
「そなたは魔王を討ち、この国のみならず世界を救った。望む褒美を申してみよ」
金銀財宝か。
爵位か。
それとも領地か。
誰もが当然そう思っていた。
アルクは片膝をつき、静かに頭を下げる。
そして一度だけ息を整えたあと、はっきりと言った。
「望みがございます」
王がうなずく。
「申してみよ」
アルクは顔を上げる。
その瞳には、戦場では見せなかった色が宿っていた。
「この国の王子と結婚させていただきたい」
――一瞬、空気が止まった。
貴族たちの間にざわめきが走る。
衛兵の手が剣に触れる。
だがアルクの表情は揺らがない。
王はゆっくりと目を細めた。
「もう一度言うがよい」
「王子と結婚したいと、申し上げております」
はっきりとした声だった。
そこには迷いも冗談もなかった。
沈黙が広がる。
そのとき、玉座の奥の扉が勢いよく開いた。
「父上! 今の話は本当ですか!」
現れたのは、この国の王子だった。
柔らかな金髪、整った顔立ち。
そして何より特徴的なのは――華やかなドレスのような装いをまとった、その姿だった。
いわゆる“男の娘”と呼ばれる王子。
可憐で、だが確かに“王族の気品”を持つ存在。
アルクは初めて彼を見たときと同じように、少しだけ呼吸を止めた。
王子はまっすぐアルクを見つめる。
「勇者アルクが……僕と結婚したいと?」
アルクは立ち上がる。
「はい」
短く、しかし確かな答え。
王子はしばらく沈黙したあと、小さく息を吐いた。
「……魔王を倒した英雄が、随分と突拍子もない願いをするんですね」
その言葉には、拒絶ではなく困惑が混じっていた。
アルクは一歩も退かない。
「褒美を望めと言われたので」
「それが僕だと?」
「はい」
王子は少しだけ視線を逸らす。
そして、ぽつりと呟いた。
「……理由を聞いてもいいですか」
その問いに、アルクは少しだけ間を置いた。
戦場では語れなかった言葉を選ぶように。
「魔王を倒しても、戦いは終わらないと思っていました」
「……」
「ですが、あなたを見たときだけは違いました」
王子の瞳がわずかに揺れる。
アルクは続ける。
「この国で、唯一“守りたい”と思ったものが、あなたでした」
広間が静まり返る。
王子は目を瞬かせ、それから少しだけ頬を赤くした。
「……そんなこと、いきなり言われても困ります」
そう言いながらも、声は柔らかかった。
王は静かに口を開く。
「王子よ。そなたはどう思う」
王子はしばらく黙っていた。
そして小さく息を吸い、アルクを見た。
「僕は……まだ何も決められません」
「それでよい」
王は頷く。
「ならば時間を与えよう」
王子は少しだけ驚いた顔をする。
アルクは静かに頭を下げた。
「ありがとうございます」
王子は小さくため息をつき、それからアルクに歩み寄る。
「……いきなり結婚とか言われても、普通は困るんですよ」
「承知しています」
「なら、まずは……友達からにしてください」
その言葉に、アルクはわずかに目を見開いたあと――小さく頷いた。
「はい」
玉座の間に、戦いとは別の時間が流れ始める。
魔王を倒した勇者の物語は終わった。
だが、勇者と王子の物語は――ここから始まるのだった。




