政治家の息子の男の娘が誘拐されたが、可愛い男の娘に助け出される小説を書いて下さい!
その夜、東京の湾岸地区はいつになく静かだった。
国会議員・神代隆一の一人息子――神代ユウトは、世間では「完璧な御曹司」と呼ばれていた。成績優秀、礼儀正しく、容姿端麗。だが彼にはひとつだけ、誰にも言えない秘密があった。
ユウトは「男の娘」だった。
柔らかな声と中性的な外見を持ち、私服では少女と見間違えられることも多い。しかしそれは彼の意思であり、彼自身の生き方でもあった。
そして、その夜――その自由は突然奪われた。
黒いワゴン車。人気のない埠頭。手際のいい誘拐。
「おとなしくしていろ。政治家の息子なら、価値は分かってるな」
ユウトは抵抗できなかった。腕を縛られ、視界が暗闇に閉ざされる。
父の顔が頭をよぎる。だが同時に、彼は奇妙なほど冷静だった。
(……助けは、来るのかな)
その頃。
埠頭のさらに奥、コンテナの影を駆け抜ける小さな影があった。
白銀の髪を揺らしながら走る少年――いや、少女にも見えるその人物は、軽やかに地面を蹴った。
名前はリリィ。
見た目は可憐な男の娘。しかしその正体は、裏社会でも噂される“救出屋”だった。
「また厄介な案件……政治家の息子とか、一番やりにくいんだけど」
そうぼやきながらも、その瞳はすでに獲物を捉えていた。
コンテナの中。
ユウトは薄暗い中で拘束されていた。
「静かにしろよ、坊ちゃん。すぐに買い手が来る」
「……買い手?」
その瞬間だった。
――ドンッ!!
鉄の扉が外側から吹き飛ぶ。
砂煙の中から現れたのは、小柄な影。
「その“商品”、返品でお願いしまーす」
軽い声。しかし次の瞬間、空気が変わった。
一人目の男が動くより早く、リリィの蹴りが顎を撃ち抜く。
二人目がナイフを抜いた瞬間には、すでに背後を取られていた。
「はい、おやすみ」
一撃で沈む男たち。
ユウトは呆然と見つめていた。
「え……君、誰……?」
拘束を解かれながら、ユウトはようやく声を絞り出す。
リリィは振り返る。
その顔は、驚くほど整っていた。まるで人形のように可愛らしく、しかし目だけは鋭い。
「助けに来た通りすがり。依頼人は……まぁ、あなたのお父さん」
「父さんが……?」
「政治家ってのは面倒だね。子どもが誘拐されると、国が動く」
リリィは肩をすくめた。
「でもさ。君は“商品”じゃないでしょ」
その言葉に、ユウトは一瞬言葉を失った。
外へ出ると、夜風が頬を撫でた。
遠くでサイレンの音が近づいている。
リリィは歩きながら、何気なく言った。
「ねえ、君さ。怖くなかったの?」
ユウトは少しだけ考えてから答えた。
「怖かった。でも……来てくれたから」
リリィは一瞬だけ足を止める。
そして小さく笑った。
「そっか。それなら仕事としては成功かな」
その後、警察が到着し、事件は解決した。
だがユウトの中には、奇妙な余韻が残っていた。
救われた安堵ではない。
救ってくれた“あの存在”への、説明のつかない感情。
数日後。
ユウトの元に一通のメッセージが届く。
『次はもう少しマシな事件で会いたいね』
差出人は、リリィ。
ユウトはスマホを見つめながら、ふと小さく笑った。
「……変な人だな」
そして、まだ少し震える指で返信を打った。
『今度は、ちゃんとお礼を言いたいです』
夜の東京のどこかで、白銀の男の娘はそのメッセージを見て、少しだけ嬉しそうに目を細めた。




