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第七魔王戦記 ~少女魔王は戦場にて微笑む~  作者: 猫じゃらし
第2部  調停者の戦場 第6章 廃墟から城砦へ
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第61話 ドワーフが来る

 ベラが来たのは、翌朝だった。


 馬車が城門をくぐった。ベラが降りた。周囲を見回した。


 訓練場で30名が走っていた。班ごとに固まって走っていた。グリムの声が響いていた。


 中庭に市場の屋根があった。マルコが荷を降ろしていた。商人が2名、布と鉄製品を広げていた。


 農地の方から鍬の音が聞こえた。ターニが畝を確認していた。


 ベラが少し驚いた顔をした。


「……ナナ?」


「お久しぶりです、ベラさん」


 ベラがナナを見た。それから訓練場を見た。市場を見た。農地を見た。


「……本当に街を作ってるのか」


「作っています」


 ベラが少し間を置いた。それから短く笑った。


「Eランクで登録した子供が」


 それだけ言った。


 ナナは何も言わなかった。


 ベラが中庭を見た。


「ギルドの窓口を設置する場所、用意は?」


「はい。中庭の一角に机と椅子を置きました」


「案内して」



 中庭に案内した。


 机と椅子が2つあった。屋根が張ってあった。市場の隣だった。


 ベラが机を見た。椅子を見た。それから頷いた。


「悪くない。ここなら人が来やすい」


 ベラが荷を降ろした。依頼書の束だった。ギルドの印章があった。


「週に1回、ここに来る。依頼のやりとりはここでやる」


「分かりました」


 ベラが依頼書を机に並べた。


「今週の依頼は3件。街道安全確保の定期巡回が1件。南の平野の略奪集団排除が2件」


「受けます」


「即答?」


「はい」


 ベラが少し間を置いた。


「……変わったな」


「変わりましたか?」


「いや、変わってない。ずっとそうだった」


 ベラが椅子に座った。周囲を見回した。


 市場でマルコが種を売っていた。農民が集まっていた。


 訓練場でグリムが30名を動かしていた。


 ベラが少し笑った。


「……実績が積み上がってる。ギルドで話題になってる」


「分かっています」


「昇格の話が出てる。ただし——年齢制限がある」


「はい」


「でも、例外規定がないわけでもない」


 ベラがナナを見た。


「実績を積み続けろ。私が推薦状を書く」


 ナナが少し驚いた顔をした。


「……ベラさんが?」


「最初の依頼を出したのは私だ。最後まで見届ける」


 ベラが立ち上がった。


「じゃあ、また来週」


 それだけ言って、馬車に向かった。



 ベラを見送った。


 馬車が出ていった。


 ナナは中庭に残った。ギルドの窓口ができた。机と椅子があった。依頼書が並んでいた。


(ベラさんが推薦状を書いてくれる。実績を積み続ける)


 オズが来た。


「ギルド窓口の設置、完了しましたね」


「はい」


「人口が55名になりました」


「分かりました」


 オズが帳簿を開いた。


「市場の出店料と通行料で、今月は銀貨15枚の収入になります」


「分かりました」


「来月はもっと増えます」


 オズが帳簿を閉じた。


 ナナは何も言わなかった。



 その3日後、ストーンフォールから馬車が来た。


 レンが報告に来た。


「北から馬車が3台。ストーンフォールの紋章がある」


「人数は?」


「10名前後。馬車に荷がある」


 ナナは少し間を置いた。


「中に入れてください」


 レンが出ていった。



 馬車が城門をくぐった。


 中から降りてきたのは、がっしりした体格の男たちだった。全員がドワーフだった。白いひげを伸ばした者もいれば、若い者もいた。全員が同じように、汚れた作業着を着ていた。


 先頭にいたのは、中年のドワーフだった。白いひげを短く刈っていた。目が小さく、眉が太かった。手が太く、指に傷があった。鉄の匂いがした。


 男が周囲を見回した。訓練場を見た。市場を見た。農地を見た。


「これがヴァル=イグレアか」


 声が低かった。少し不機嫌そうだった。


 ナナが近づいた。


「ようこそ。私が第七魔王ナナミア・ヴァル=ミリスです」


 男が少し間を置いた。ナナを見た。


「……若いな。ストルム様が言ってた通りだ」


 それだけ言った。


「俺はガリンだ。ストルム様に命令されて来た。石材と鉄材の納品ついでに、建設の手伝いをしろとさ」


 ナナが少し驚いた。


「建設の手伝い?」


「そうだ。お前たちだけじゃ遅い。見かねたストルム様が俺たちを寄越した」


 ガリンが城壁を見た。


 修復が進んでいた。ヴォルクが指揮を取り、30名が動いていた。石を積み上げている。鉄で固定している。全員が汗をかいていた。


 ガリンがしばらく見ていた。それから短く言った。


「……雑だな」


「え?」


「石の積み方が統一されていない。鉄の固定が甘い。あれじゃあ3年で崩れる」


 ガリンが荷を降ろし始めた。後ろのドワーフたちも動いた。


「俺たちが直す。お前たちは他のことをやってろ」


 ナナは何も言わなかった。


(ストルム王が職人を送ってきた。交易協定を超えた協力だ)



 その日から、ガリンたちの仕事が始まった。


 ヴォルクが最初に話しかけた。


「どの部分から手直しをしますか?」


 ガリンが城壁全体を見回した。それから短く答えた。


「全部だ」


「……全部?」


「全部やり直す。積み方が悪い。基礎から見直す」


 ヴォルクが少し驚いた顔をした。それをすぐに消した。


「分かりました」


 ガリンがヴォルクをしばらく見ていた。


「お前、元軍人か?」


「はい」


 ガリンが何も言わなかった。ただ頷いた。


「なら話が早い。人を動かすのに慣れてる。お前が指揮を取れ。俺が言う通りに動かせ」


「承知しました」


 ヴォルクがすぐに動いた。ガリンの指示を聞き、30名を再編成した。


 ガリンが図面を描いた。地面に直接描いた。石の積み方を指で示した。鉄の固定位置を棒で線を引いた。


「これが正しい積み方だ。覚えろ」


 30名が図面を見た。ガリンが何度も同じことを言った。石を持ち上げた。置いた。叩いた。音を確認した。


「この音になるまで調整しろ」


 作業が始まった。


 ガリンが見ている。少しでも積み方がずれると、すぐに声をかけた。


「違う。やり直せ」


 30名が最初は戸惑っていた。それがだんだん慣れてきた。1時間が過ぎた。2時間が過ぎた。


 ガリンが少し満足そうな顔をした。


「……やっと形になってきた」



 昼になった。


 オズが食堂に全員を呼んだ。ガリンたちドワーフ職人も一緒だった。


 ガリンが食事を見た。パン・スープ・塩漬けの肉。


「少ないな」


 オズが少し困った顔をした。


「申し訳ありません。人数が増えて、食料の配分を調整しています」


「そうか」


 ガリンがパンを食べた。スープを飲んだ。それから短く言った。


「まあ、食えるだけマシか」


 隣に座っていた若いドワーフが「ガリンさん、この街はまだ作ってる最中だろ」と言った。


「分かってる」


 ガリンがナナを見た。


「人口は何人だ?」


「今は55名です」


「55か。1ヶ月前は?」


「30名前後でした」


 ガリンが少し間を置いた。


「……急激に増えてるな」


「はい」


 ガリンがパンをちぎった。スープに浸した。食べた。


「なら持ちこたえろ。俺たちも我慢する」


 ナナが少し驚いた顔をした。


「ありがとうございます」


「礼はいらん。ストルム様の命令だ」


 ガリンがスープを飲み干した。それから立ち上がった。


「飯が終わった。午後も働くぞ」



 午後になった。


 ガリンが住居区を見回り始めた。ナナが後ろを歩いた。


 住居区は簡素だった。壁が薄かった。屋根が低かった。雨が降ると漏れた。


 ガリンが1つの家に入った。中を見た。天井を叩いた。壁を押した。それから出てきた。


「……全部やり直しだな」


「え?」


「この住居じゃあ冬が越せない。壁が薄い。断熱がない。雨も防げない」


 ガリンが地面に図面を描き始めた。棒で線を引いた。


「壁はこう。屋根はこう。窓はここに1つ。煙突をここに置く」


 ナナが図面を見た。


「これは……住居の設計ですか?」


「そうだ。俺が設計する。お前たちが作れ」


「でも、資材が……」


「石材と鉄材は俺たちが持ってきた分を使え。足りなければストーンフォールに連絡しろ。追加で送らせる」


 ガリンが図面を描き続けた。1つの住居が完成した。それから隣の場所に別の住居を描いた。


「居住区全体を見直す。配置が悪い。無駄が多い」


 ナナは何も言わなかった。


(ガリンは住居区全体を作り直すつもりだ)


 ガリンが図面を描き終えた。それをナナに見せた。


「これが新しい居住区だ。今の倍の人間が住める。冬も越せる。雨も防げる」


 ナナが図面を見た。住居が整然と並んでいた。道が整備されていた。水路が引かれていた。


「……これを作るにはどれくらいかかりますか?」


「お前たちだけなら半年だ。俺たちが手伝えば2ヶ月で終わる」


 ナナが少し間を置いた。


「……ストルム王の許可はあるんですか?」


 ガリンが短く笑った。


「ストルム様が言った。『街を作るというなら、ちゃんと作れ』と」


「そうですか」


「だから俺たちが来た」


 ガリンが図面を地面に置いた。それから城門の方を見た。


 馬車に石材と鉄材が積まれていた。まだ半分以上残っていた。


「材料はある。人もいる。あとはやるだけだ」


 ナナが頷いた。


「お願いします」



 夜になった。


 城壁修復が終わった。30名が戻ってきた。全員が疲れていた。顔が汗で光っていた。


 ガリンが最後に城壁を見上げた。


「……まあ、今日はここまでだ」


 それだけ言って、食堂に向かった。



 食堂で夕食が始まった。


 オズがパンとスープを配った。今朝より少し多かった。マルコが届けた野菜が加わっていた。


 ガリンがスープを飲んだ。


「野菜があるな」


「はい。行商人のマルコさんが届けてくれました」


「行商人が来るのか?」


「10日ごとに来ます」


 ガリンが少し間を置いた。


「……街として機能し始めてるな」


 ナナは何も言わなかった。


(ガリンはイグレアを観察している。ストルムに報告するために)



 夕食が終わった。


 ガリンが外に出た。城壁に上がった。ナナが後から来た。


 ガリンが南を見ていた。


 農地が見えた。開墾が進んでいた。松明の明かりがあった。ターニが土を確認していた。


 市場の屋根が見えた。中庭にギルドの窓口があった。依頼書が並んでいた。


 訓練場から声が聞こえた。グリムが30名を動かしていた。


 ガリンがしばらく見ていた。それから短く言った。


「……お前、何がしたいんだ?」


「街を作っています」


「それは分かる。なぜ作る?」


 ナナが少し間を置いた。


「守るためです」


「何を?」


「ここに来た人たちです」


 ガリンが少し黙った。それから頷いた。


「そうか」


 長い沈黙が続いた。


 ガリンが城壁から降りた。ナナが後を追った。


「ガリンさん」


「なんだ?」


「ストーンフォールにいた方が良くないですか?」


 ガリンが少し驚いた顔をした。それをすぐに消した。


「……ストルム様が見ておけと言った」


「何を?」


「お前が本当に街を作るかどうか」


 ナナが少し間を置いた。


「そうですか。それでは見ていてください」


 ガリンが短く笑った。


「ああ、見てる」


 それだけ言って、ドワーフたちの寝床に向かった。



 ナナは城門に残った。


 南を見た。


 農地が見えた。市場が見えた。訓練場が見えた。住居区が見えた。ギルドの窓口が見えた。


(ストルム王が職人を送ってきた。ガリンは観察している。それをストルム王に報告する)


(見せ続ける。作り続ける)


 城門の方から音が聞こえた。


 ガリンが何かを組み立てていた。明日からの作業の準備をしていた。他のドワーフたちも手伝っていた。


 ナナは何も言わなかった。



 翌朝、ナナが城壁に上がると、ガリンがもう作業を始めていた。


 日が昇る前から動いていた。


 ヴォルクが30名を連れて来た。グリムが訓練を中断させた。全員がガリンの指示を聞いた。


 ガリンが図面を見せた。


「今日はここまでやる。終わらなければ明日に回す。ただし——丁寧にやれ。雑な仕事は後で崩れる」


 全員が頷いた。


 作業が始まった。


 石を積む音が聞こえた。鉄を叩く音が聞こえた。ガリンの声が聞こえた。


「違う。やり直せ」


「もう一度」


「そうだ。その調子だ」


 ナナは城壁の上で、それを見ていた。


(ガリンたちが来た。ヴァル=イグレアが形になっていく)


 中庭からマルコの声が聞こえた。「今日は種を持ってきました」


 農地からターニの声が聞こえた。「こっちの土の方が良さそうです」


 訓練場からグリムの声が聞こえた。「揃えろ。遅い」


 ギルドの窓口に依頼書が並んでいた。


 ナナは城壁から降りた。


 オズが来た。


「人口が70名になりました」


「分かりました」


「住居が足りません。今夜から一部は食堂で寝ることになります」


「ガリンさんが住居の設計をしてくれました。2ヶ月で新しい居住区ができます」


 オズが少し驚いた顔をした。


「……本当ですか?」


「はい」


「それなら間に合います」


 オズが帳簿を開いた。


「市場の出店料と通行料で、来月は銀貨20枚の収入になる見込みです」


「増えましたね」


「はい。マルコさん以外に商人が3名来ました」


 オズが帳簿を閉じた。


 ナナは中庭を見た。


 マルコが種を広げていた。農民が集まっていた。ターニが土の説明をしていた。


 ギルドの窓口があった。依頼書が並んでいた。


 城壁からガリンの声が聞こえた。「やり直せ」


(人が集まっている。商人が来る。職人が来る。ギルドの窓口ができた。イグレアが街になっていく)

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