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第17話 17人

 グレンフォードの城門をくぐったとき、衛兵が2人ともこちらを見た。


 当然だった。17人が列をなして入ってきた。全員武装していた。先頭に10歳の子供がいた。


「傭兵団の黒い翼です。グレンフォードを拠点にしています」


 衛兵が少し間を置いた。


「……通れ」


 17人で通った。


 街に入ってからが問題だった。



 最初の問題は宿だった。


 ナナが泊まっていた宿は3人部屋が2つしかなかった。17人は入らない。


 オズが動いた。荷物を置く前に街を歩き回り、1時間後に戻ってきた。


「宿を3軒押さえました。合計で18人泊まれます」


「費用は?」


「1泊あたり銅貨20枚ずつ、3軒で銅貨60枚です。銀貨6枚相当になります」


(1日で銀貨6枚。3日で銀貨18枚。1週間で銀貨42枚)


「分かりました。今日のところはそれで」


「長期的には厳しいですね」


「はい。早めにDランクに上がる必要があります」


 オズが頷いた。帳簿に書き込んだ。


 次の問題は食事だった。


 17人分の食事を毎食外で取ると費用がかさむ。かといって自炊する場所もない。


 オズがまた動いた。


「食堂と交渉してきました。17人分を一括で頼む代わりに、1食あたり銅貨2枚値引きしてもらいます」


「交渉できたんですか?」


「食堂側も大口の客は歓迎です。ただ席が足りないので、2回に分けて食べることになります」


「構いません。ありがとうございます」


 オズが少し照れたような顔をした。


「これが仕事ですので」



 昼過ぎにギルドに向かった。


 ナナとグリムとリーゼの3人で行った。17人全員で押しかけると威圧になる。


 ベラがカウンターにいた。ナナを見た。グリムを見た。リーゼを見た。


 少し間があった。


「増えたな」


「はい。今日から17人で活動します」


「……リーゼか」


 リーゼがベラを見た。


「久しぶりだな、ベラ」


「紅き牙が黒い翼に入ったのか?」


「そうだ」


 ベラがリーゼを見た。リーゼを見てからナナを見た。それから書類を取り出した。


「登録を更新する。全員の名前と役割を書いてくれ」


「はい」


 14人分の名前と役割を書いた。ベラが確認した。


「14人追加で登録する。ランクはEからだ」


 リーゼが少し苦い顔をした。


「再登録は新規扱いだ」


 リーゼがナナを見た。ナナが小さく頷いた。


「分かった」


 リーゼが短く言った。


 ベラが書類を片付けながら言った。


「Dランクまであと2件だったな」


「はい。今日から動きます」


「掲示板を見ていけ。ただ」


 ベラが少し声を低くした。


「17人いるなら、それに見合った依頼を選べ。Eランクの小さい依頼を17人でこなしても意味がない。分けて動け」


「分かりました」


 掲示板を確認した。


 Eランクの依頼が8件あった。いつもより多かった。


 ナナは全件確認した。報酬、場所、期間、内容。


(2件、同時に動ける)


 1件目——街の南側の農村で害獣が出ている。大型の猪が3頭。農作物を荒らしている。報酬銀貨6枚。


 2件目——街道の補修作業の警備。街の東側の街道で石畳の補修工事がある。作業員10人の護衛。期間2日。報酬銀貨8枚。


(南と東に分けて同時に動ける)


 ナナはリーゼを見た。


「南の害獣と東の警備、2件同時に動きます。どちらを取りますか?」


「私はどちらでもいい。お前が決めろ」


「では東の警備をリーゼさんに頼みます。作業員10人の護衛です。期間は2日。リーゼさんの判断で人員を選んでください」


「何人使っていい?」


「8人まで」


「分かった」


「南の害獣は私たちが行きます」


「3人でいいのか?」


「猪3頭なら問題ありません」


 リーゼが少し目を細めた。それ以上は言わなかった。


 ベラに2件とも依頼書を持っていった。ベラが確認した。


「2件同時か」


「はい」


「黒い翼とリーゼのチームで別々に動くということか?」


「そうです」


 ベラが少し間を置いた。


「……登録した。気をつけろ」



 翌朝、2手に分かれた。


 リーゼが8人を選んだ。ダリオ、ジャック、ジョン、ミラ、それから古参の4人。


「東の街道に行ってくる」


「よろしくお願いします。何かあれば——」


「何もない。心配するな」


 リーゼが歩き出した。8人がついていった。ダリオが最後に振り返った。ナナを一度見て、前を向いた。


 ナナはグリム、レン、オズと南の農村に向かった。残り5人は宿で待機させた。


(オズを連れていくには理由がある)


「オズ、農村の道中で依頼主への対応を見ていてください。後で改善点を教えてください」


 オズが少し目を丸くした。


「私がですか?」


「依頼主との交渉や報告のやり方を整えていきたいです。外から見た方が分かることがあります」


「……分かりました」



 南の農村は半日で着いた。


 依頼主の農家に挨拶した。前回の野犬の依頼と同じような農家だった。男が出てきて、ナナを見て少し戸惑ったが、グリムを見て落ち着いた。


 猪の出没場所を確認した。麦畑の南側の茂み。毎朝夜明けに出てくるという。


 翌朝、夜明け前から待った。


 茂みの前に3人で位置についた。グリムが正面。レンが右の木の上。ナナが左から全体を見る。


 夜明けとともに茂みが動いた。


 大きかった。野犬より大きかった。肩までの高さが人間の腰ほどある。牙が長く、外側に湾曲していた。3頭が並んで出てきた。先頭の1頭が鼻を鳴らした。地面を踏み固める音がした。


(重い。突進を正面から受けたら人間が飛ぶ)


 グリムが静かに大剣を構えた。


 先頭の1頭がグリムを見た。目が赤かった。鼻息が荒くなった。


 突進してきた。


 速かった。あの体格でこの速さか、とナナは思った。グリムが半歩右に動いた。猪の牙が空を切った。グリムがすれ違いざまに大剣を横に払った。猪が横回転して吹き飛んだ。そのまま転がって、木の幹に激突した。動かなくなった。


 残り2頭が同時に動いた。


 2頭目がグリムへ。3頭目がナナへ。分散してきた。


(賢い)


 2頭目がグリムの脇をすり抜けようとした。グリムが追った。追いながら大剣を振り下ろした。猪が向きを変えた。速かった。大剣が地面を叩いた。


 3頭目がナナに向かって一直線に来た。距離が詰まった。


 地面を盛り上げた。猪の足元に土の壁を作った。猪が躓いた。前足が折れるような音がした。転んだ。すぐに立ち上がろうとした。


 レンが放った。矢が3頭目の首に刺さった。猪が止まった。もう1本。動かなくなった。


 グリムが2頭目に向き直った。猪が再び突進してきた。今度はグリムが動かなかった。真正面から受けた。大剣の腹で牙を受け止めた。押し合いになった。グリムの足が地面にめり込んだ。


 ナナは風を猪の後ろから叩きつけた。前から大剣、後ろから風。猪が動けなくなった。グリムが大剣を押し込んだ。終わった。


 3頭、全滅。


 グリムが荒い息をついた。大剣を地面に突き立てて、一度深く息を吐いた。


「……思ったより手強かった」


「2頭目が賢かったです。向きを変えるのが速かった」


「ああ。猪をなめていた」


 レンが矢を回収しながら言った。


「分散してきた。群れで狩りをする習性があるのかもしれない」


「次からは警戒しましょう」


 オズが少し離れた場所から見ていた。メモを取っていた。



 農家に報告して、報酬の銀貨6枚を受け取った。


 帰り道にオズが言った。


「報告の仕方について、2点気になったことがあります」


「聞かせてください」


「依頼主への報告が短すぎます。3頭仕留めたという事実だけでなく、今後の注意点や痕跡の状況を伝えた方が依頼主は安心します。それが次の依頼につながります」


 ナナは少し間を置いた。


「なるほど。次から改めます」


「それと——」


「はい」


「団長は事実しか言いません。間違いでは無いのですが、依頼主は感情的な安心感も求めています。『助かりました』という言葉に対して、もう少し丁寧に応じた方がいいと思います」


(軍人的な対応が出ている)


「分かりました。改めます」


 オズが帳簿を閉じた。


「生意気なことを言いました」


「いいえ。そんなことはありません。これからも指摘してください」


 オズが少し頭を下げた。


 グリムが横から言った。


「お前、なかなか言うな」


「事実ですので……」


「……グリムさんも同意していますね。団長は愛想がない」


「聞こえています」


 レンが前を歩きながら小さく言った。


「間違いない」


「レンまで」


 3人が黙った。ナナも黙った。


(改善の余地があるということだ)


 グレンフォードに戻ったのは夕方だった。


 リーゼたちはまだ戻っていなかった。2日の依頼なので翌日になる。


 宿に戻ってから、オズが収支を計算した。


「今日の報酬銀貨6枚。宿と食事で銀貨7枚の支出。差し引き銀貨1枚の赤字です」


「明日リーゼさんたちが戻れば銀貨8枚入ります」


「合計で銀貨7枚の黒字になります。今日の赤字分を引くと銀貨6枚。これでグリムさんへの借りの残り18枚のうち6枚を返せます」


「返します」


 グリムが受け取った。


「……また返してくれるのか」


「払えるときに払います」


「残りは12枚か」


「はい」


 グリムが少し黙った。


「急がなくていい」


「急ぎます」


 グリムが短く笑った。



 翌日の昼前、リーゼたちが戻ってきた。


 全員、無事だった。ただ、ジャックの左腕に包帯が巻いてあった。


「何があったんですか?」


 ジャックが少し笑った。


「作業員の1人が工具を落として、それが転がってきて——俺が蹴り飛ばしたんですが、角に当たりまして」


「戦闘ではないのですか?」


「そうです。盗賊も何も来なかった。平和な2日間でした」


 リーゼが横から言った。


「ミラが処置した。骨は折れていない」


 ミラが頷いた。


「切り傷です。2日もあれば塞がります」


 ナナはジャックを見た。


「痛みはありますか?」


「まあ、多少は。でも大丈夫です」


「無理をしないでください。次の依頼は外します」


「え、でも——」


「万全ではない状態で連れていく方が危険です」


 ジャックが少し黙った。


「……分かりました」


 リーゼが小さく口の端を動かした。


「団長が言うなら従え」


「はい」


 ダリオが横で腕を組んでいた。ナナを見た。何も言わなかった。ただ、最初より目つきが柔らかかった。


 リーゼが銀貨8枚をナナに渡した。


「報酬だ。どう扱う?」


「オズに渡します。全体の収支に入れます」


「私たちの取り分は?」


「今週の収支をまとめてから分配します。全員平等に」


 リーゼが少し目を細めた。


「平等に、か」


「はい。役割に差はありますが、危険を負っていることは同じです」


 リーゼは少し間を置いた。


「……分かった」


 オズが銀貨を受け取って帳簿に記録した。


 ベラに2件の完了報告をした。ベラが確認した。


「これでEランクの規定達成数に達した」


「昇格試練は?」


「明日から受けられる。準備しておけ」


「はい」


「試練の内容は当日まで教えない。それが規定だ」


「分かりました」


 ベラがナナを見た。


「17人になって、動きが変わったな」


「これからもっと変わります」


 ベラが少し口の端を動かした。


「そうだな」


 それだけ言って、書類に戻った。


 ナナはギルドを出た。


 空が夕焼けになっていた。


 前魔王が言った。


『昇格試練か』


(そうだ)


『内容が分からないのは厄介だな』


(何でも対応できるように準備する)


『具体的には?』


(17人全員の動き方を確認しておく。得意なこと、苦手なこと。それだけ分かっていれば何が来ても対応できる)


『……準備がいいな』


(当然だ)


 前魔王は少し黙った。


『我が言うのもなんだが——お前、少し楽しそうだな』


 ナナは少し間を置いた。


(そうかもしれない)


 夕焼けの中をギルドから宿へ歩いた。

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