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逃亡聖女と不死の騎士は、神なき世界で生きると誓う  作者: 八坂 葵


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第9話 想いは覚悟へ

 私はエテルノ様の部屋に通された。

 私を案内したプリメラさんは、そのまま出ていこうとしたが、エテルノ様から留まるよう指示をされた。

 深く柔らかなクッションに腰を下ろすと、エテルノ様は側仕えに茶の用意だけをさせ、そのまま下がらせた。

 今はこの部屋には三人しかいない。


「さて、エリアナよ。まず聞きたい。気付いたのは先ほどか? それとも前からその想いを抱いておったのか?」


 エルフの長老にはすでに私の心は見透かされているようだった。

 顔が温かくなるのを感じる。


「明確に気付いたのは先ほどです」

「そうか。ならば続けて問う。旅を続けるのは己のためか、ジークフリードのためか?」


 喉が……詰まった。

 これこそが私が最も悩んでいたこと。

 私はジークの想いに共感して旅をしているのか。

 それとも彼の心を得たいだけで付きまとっているのか。

 もし後者なら……私はなんて浅ましいのだろう。


「分から……ないのです。私がいなければ、ジークは動けない。だから仕方なく付いていかなければ。最初はそう思っていました」


「最初は仕方なくでした。でも……旅の中で知ってしまったのです。彼の優しさを。誠実さを。敵にすら剣を振るうことを迷う、あの人の弱さを」

「つまり、お前はあいつが好きで旅をしている。それだけの話ではないのか?」


 プリメラさんのその言葉に私は迷いながらも、


「そう、なのかもしれません」


 と俯く。

 するとプリメラさんから意外な一言を投げかけられる。


「それの何が悪いんだ?」


 思わず勢いよく顔を上げた。

 何が悪い?

 命がけで自分の呪いを解こうと覚悟を決めているジークのそばで、こんな自分勝手な思いだけの女がいていいわけがない!


「あなたは、彼の覚悟の強さを知らないから!」

「お前とて好きな想いは本物なのだろう? あとはお前の想いが安穏な地でないと続かないのか、それとも死地でも光り輝く想いなのか。それだけにしか私は思えないがな」


 力が抜け、肩が落ちた。

 この人にかかると、私が思い悩んでいたことが馬鹿馬鹿しくなってしまう。


「ハッハッハッ、まさかプリメラからそのような言葉が聞けるとはな。エリアナよ、どうじゃ? お主はジークと静かな暮らしを望むのか?」


 そんなことは決まっている。

 静かな暮らしだ。

 だけど……。

 ようやく、分かった気がする。

 心に浮かんだ言葉を、私はそのまま包み隠さず出すことにした。


「もちろんです。でも、今の彼にそれは望むべくもありません。想いは受け入れてもらえるかもしれない。でも彼には先にやらなくてはいけないことがある」

「そうかの? 例えば『破滅の龍』から逃れ、別の地で過ごすことも考えられるぞ?」

「それは、私の望む形ではありません。呪いを解き、共に愛し合い、歳を重ね、死んでゆく。そんな人として当たり前の形を、彼と送りたいのです」


 心の中で私の『覚悟』が形を成しつつあった。


「私は、彼に付いていきます」


 自分でも驚くほど、声ははっきりしていた。


「彼のためじゃありません」


 エテルノ様とプリメラさんが、同時に私を見る。


「私のためです」


 胸の奥にあったものが、ようやく形になった気がした。

 私はずっと迷っていた。

 彼の覚悟のそばにいる資格があるのか、と。

 でも違う。


 私はただ――ジークのそばにいたい。


 呪いを解き、共に歳を重ね、やがて死んでいく。

 そんな当たり前の未来を、あの人と生きたい。


「だから私は、彼に付いていきます」


 自分勝手で、醜い想いかもしれない。

 それでも。


「それが、私の望みです」

「迷いは、吹っ切れたかの?」

「はい! エテルノ様、プリメラさん、お二人には感謝してもしきれません。本当にありがとうございます」


 私はクッションから降りて、二人に深く頭を下げる。


「わ、私は思ったことを言ったまでだ。感謝される筋合いはない」

「プリメラ、こういう時は素直に受け取るもんじゃ。相手が本気かどうか、それくらい見抜けぬお前ではなかろう?」


 そこで顔を上げると、顔を赤くしたプリメラさんが目に入った。

 きっとこの人はほんの少し、素直ではないだけなのだろう。

 気付けば私は立ち上がっていた。

 そしてプリメラさんの前に膝をつき、その体を抱きしめた。


「な、な、何をする、人間め!」

「プリメラさん、あなたのおかげで私は自分の素直な気持ちに気づけた。覚悟を決めることができた。本当にありがとうございます」

「! ……別に、お前のためじゃない」


 身を固くしながらも、抱きしめられるままになっているプリメラさんに、わずかな歩み寄りを感じる。

 この人とは仲良くなれるかもしれない。

 そう思っていると、


「さて、では話を戻すぞ? お主がジークフリードについて行くにあたって、相談を受けていた魔力強化の対策はどうする?」


 エテルノ様がさらに問いかける。

 ジークのことに頭を悩ませていて忘れていた。

 そちらの問題もあったのだ。

 しかしもう悩むことはない。

 私はプリメラさんからゆっくり離れ、お腹に力を込めて答えた。


「もちろん受けます。それが私の夢を叶えるために少しでも力になるのなら、避ける意味がありません」

「命を落とすやもしれぬぞ?」

「ここで私が力を使えぬまま『破滅の龍』に挑むほうが、命を落とす可能性が高いのではないですか?」


 強い視線で私を見つめるエテルノ様へ、負けないくらい真っ直ぐに見つめ返した。


「ほほ、こう、若い女性に見つめ返されると照れるの。あい、分かった! では『魔力の泉』への挑戦を認めよう」

「長老! あそこは我らエルフ族でも秘中の秘の場所。なぜ人間に!」

「プリメラ、お前を付けるからじゃよ」


 真意を測りかねたのか、プリメラさんの視線が少しだけ泳ぐ。

 もちろん私にも全く分からない。


「私はジークフリードのことはエルフと同じくらいに信頼しておる。そしてプリメラ、お前は浅慮なところもあるが、若手の中ではワシはもっとも信頼を寄せておる」

「長老……」


 これまでそんな評価を聞いたことがなかったのだろうか。

 プリメラさんの顔は、今にも泣きそうなほど歪んでいる。


「その二人の旅を支えたいと、命をかけてもいいと言う者に、ワシも出来ることはしたくなった。それだけじゃよ」


 そしてエテルノ様は立ち上がり、ドアの方を向く。


「これ、いい加減出てこんか! このイタズラ坊主め!」


 すると、ギィ……と、扉が開いた。


「ジーク!」


 顔を真っ赤に染めたジークが、バツが悪そうに入ってきた。


「いったいいつから……?」

「最初からじゃよ。まったく、我々が精霊と通じ合っていることを忘れたか?」

「い、いや、覚えていたさ。だが、俺とてエリアナの様子を見て、隣でじっとしているなど出来なくてな」

「その結果、知らんでいいことを知ったな? 泉のことはともかく、お主らの色恋などワシは知ったことではない。きちんと自分たちで決着をつけるがよかろう」


 そう言いながらも目はしっかりと笑っていた。

 この人は若い頃は相当問題児だったのではなかろうか?

 エテルノ様の若い頃が伺い知れるようだった。

 しかし、ジークに全て聞かれてた……。

 これでは告白したようなものじゃない。

 あまりの恥ずかしさに、つい彼に背を向ける。


「ジーク……と言ったな。先ほどはエリアナに止められてしまったが、あの約束はまだ果たしていないからな?」


 プリメラさんはそう言うが、さすがに長老の部屋でいきなり脱ぎだすようなことは出来ないようだ。

 ジークをその場から睨むのみとなった。


「それについてだが、別の体の使い方をしてくれないか?」


 そう言い出したジークの意図を図りかね、私とプリメラさんは顔を見合わせる。

 ジークは部屋の中に入り、私とプリメラさんの前に腰を下ろす。


「俺とエリアナだけの旅では、襲い来る相手次第では俺がエリアナを守りきれないかもしれない。だからプリメラは俺のことはいい。エリアナを守ってほしい。そうすれば、俺は大きな脅威から二人を守れる。多少の敵ならプリメラの敵ではなかろう?」

「先ほどお前に負けた私を、随分と買ってくれるのだな」

「エテルノがバラしてくれたが、策略も使っての勝ちだからな。実際俺とお前の力の差はそこまで大きくはないさ。どうだろう? そうしてくれると非常に助かるのだが」


 プリメラさんは立ち上がり、エテルノ様に視線を向けると、エテルノ様は頷いた。


「それでいいならそうさせてもらおう。私とて夫以外の男に体を渡すなど御免被るからな」

「プリメラさん、ご結婚をされていたのですか!?」


 驚きのあまり声を上げると、プリメラさんはほんの少し目を伏せる。


「すでに亡くなったがな。魔物から仲間を庇って。バカな男を選んでしまったものだ」


 その言葉とは裏腹に、深い愛情と悲しみが滲んでいた。

 ジークへの愛情を意識した今、彼女の言葉は私の胸に深く突き刺さった。


「長老、もうよろしいですか?」

「うむ、お主も旅支度を頼むぞ。我が子、プリメラよ」

「……はい」


 寂しそうな背中を向け、プリメラさんは静かに出ていく。


「エテルノ、彼女はお前の子なのか?」

「長老にとって集落のエルフは全て自分の子という意味じゃよ。さて、お主らもそろそろ戻りなさい。色々とあって疲れたじゃろうし、話したいこともあるじゃろう?」

「気遣いすまんな、エテルノ」

「なに、年の功じゃ。ああ、あまり激しい音は精霊が驚くでの。抑えめで頼むぞ?」


 その言葉にジークのゆっくりとした拳がエテルノ様のお腹を狙うが、エテルノ様はそれを杖で防いだ。


「前言撤回を要求する。どこが年の功だ。若い頃のお前の軽薄さそのままだ」

「ホッホ。お主を見て久しぶりに若い血が滾ってしまったかの? まあ、ゆっくり休め」


 あまり大声で話さないように、ということだろうか?

 たしかにすでに休んでいるエルフもいるだろうから、話すとしたら……って、話す内容ってアレしかないじゃない。

 どうしよう?

 最初から教えてくれれば、と、つい恨みがましい目でエテルノ様を見てしまった。


「おぉ、若い娘に嫌われるのは困るのぅ。エリアナ、近くへ」


 先ほどハメられたばかりだ。

 私は用心しながらエテルノ様に近づく。

 すると、私たちの周りを風が取り巻いた。


「風の精霊に声を届かせぬよう頼んだ。ここでの話はジークフリードには聞こえんよ」

「その魔法はもっと早くにお使いいただきたかったです」


 微笑みだけで誤魔化すエテルノ様はとてもズルいと思う。


「入ってきた時のジークの顔を見たか?」

「え、あまりきちんとは」

「顔を真っ赤にして入ってきおったぞ。あの龍殺し《ドラゴンスレイヤー》の英雄が、まるで初心な少年のようにな」


 えっ!?

 まさか、いつでも冷静で、たまに私をからかう余裕を見せるジークが?


「しょせんやつも一皮むけば単なる人間ということよ。エリアナ、やつを神聖視しすぎんことだ。本質を見失うぞ?」

「それは、どういう……」

「話はそれだけじゃ。ゆっくりと話してくるがいい。あぁ、襲われそうになったら寝室は別にしてやるでな。助けを求めに来るといい」


 恐ろしい一言を残してエテルノ様が何かをつぶやくと、私たちの周りの風が解け、先ほどまでの空気に戻った。

 これでは文句も言えない。

 つくづく昔はイタズラ好きだったのだろうと分からされた。


「ほれ、ジークフリード、エリアナを案内してやれ」

「うむ。それではエリアナ、行こう」


 ドア付近で手を差し出して待つジークは、きっとこの後話すかどうかの選択を、任せてくれてるのだと思う。

 どうしよう……。

 でも先延ばしにしてもジークに伝わったことはなくならないし。

 それに、伝わったとしても、どうせならあらためて私の口から伝えたい。

 深く息を一つ吸い、私は歩き出し、ジークの手を強く取った。


「……こちらだ」


 最後にエテルノ様に頭を下げて部屋を出る瞬間に耳元で、


「頑張りなされ」


 そんな一言が聞こえた気がした。


 ◇◆◇


 ジークに案内されて連れてこられたのは、森の外れに建てられた小屋だった。

 おそらく外部から来た者を一時的に置くための建物なのだろう。

 エルフたちの建物からは離れている。

 唯一見張り小屋のようなものが近くにあるが、今は誰もいないようだ。


「一応人間なので離れで過ごしてもらうが、エテルノの客人に見張りは失礼ということで、置かないことにしたらしい」


 見張り小屋を見ていた私に、ジークがそう説明をしてくれた。

 その扱いには感謝をするけど、それは同時にこの小屋に私とジークの二人だけということでもある。

 自然と体が固くなり、呼吸が早くなる。


(……大丈夫、ジークはそんな人じゃない)


 それだけを何度も胸の中で唱え、私たちは小屋へと入った。


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― 新着の感想 ―
今回でプリメラの魅力が増しましたね。
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