第30話 神なき世界で、あなたと
今持てる魔力を、すべてプリメラさんとフォーゴさんであろう黒い塊へ向けて注ぎ込む。
最初は外側の黒い膜に魔力が弾かれていたが、次第に魔力がしみ込み始めた。
魔力がしみ込み始めると次第にその色を薄めていき、膜の色は灰色となり、そこから白へ、やがては透明になり、中で安らかに眠るプリメラさんとフォーゴさんの姿が見えてきた。
思わずジークと顔を見合わせる。
うなずき合う。
少なくとも炎に巻かれて消し飛んではいない。
ならば助けることも出来るかもしれない。
私はさらに魔力を注ぎ込む。
やがて薄いガラスの割れるような音が響くと、彼女たちを覆っていた膜が消え去った。
私は迷いなく祈りを止めてプリメラさんを抱き起す。
「プリメラさん、起きて! 終わった、終わりましたよ。あなたたちのおかげで戦いを終わらせることができたんです。起きてっ!」
しかし私の呼びかけにプリメラさんは答えない。
横ではジークがフォーゴさんを起こし、「うん? 兄貴、もう飯ですか?」と、寝ぼけた一言を言って目を覚ました。
ならば、プリメラさんだって生きてるはず。
「ねぇ、プリメラさん、お願い、起きてよっ! あなたに死なれたら私は……」
そう言ってプリメラさんの胸に顔を埋める。
エルフの里では最初は弓矢で射られ、死を覚悟した。
『魔力の泉』では、掟に逆らって命をかけてでも私を助けてくれようとしたと聞いている。
最悪の出会いから、少しずつ歩み寄り、今ではなくてはならない友。
種族とか関係ない。
私の中の彼女はそういう人だった。
「ねぇ、プリメラ、起きなさいよっ! いつまで寝てんのよ。終わったって言ってるでしょ。早く、いつものあなたの顔を、見せてよ……」
そう声を上げた時だった。
そっと頬に触れる手があった。
ジークやフォーゴさんのような武骨な手じゃない。
もっと繊細でやわらかい女性の手。
顔を上げると、プリメラさんがニヤニヤ笑って私を見ていた。
「死にかけて、ようやく『さん』付けが取れたな」
「プリメラ……さん」
「ほら、また『さん』が付いた。もう『プリメラ』でいい。助けてくれてありがとうな」
顔色は悪くない。
パッと見で傷も確認出来ない。
元気……だ。
そのまま背中に手を回して力強く抱き締める。
「バカッ、あなたは大馬鹿よ。こんなに心配をかけて。もう二度と『プリメラさん』なんて呼んでやらないんだから」
「ああ、それでいい」
私の髪をやさしく撫でながら、ふと見上げた顔には一筋の涙が流れていた。
もしかしたら旅に出て初めてみたかもしれないプリメラの涙は、こんな時だけどすごく綺麗だ。
そう思えた。
そこへジークとフォーゴさんもやってきた。
「だが、いったい何故? それに二人を覆っていた黒い膜はいったい?」
ジークの質問に、フォーゴさんとプリメラは首をひねりながら答える。
「それが、うちらにも分かんねぇんですよ。『火炎』に包まれる瞬間、プリメラ姐さんが風を集めて逃げようとしたんですが、間に合わなくて」
「そうだな、だがその瞬間私たちと炎の間に黒い膜が広がって炎を防いでくれた。その隙をついて一気に飛んだんだが……」
「あっという間にあの膜に全身包まれて。気が付いたら気絶してたってわけです。見たところ『破滅の龍』はお二人が倒してくれたようで? いや、力になれずに本当に悪かったです」
結局二人にも何が理由で助かったのかが分からないらしい。
不思議なこともあるものだと、二人が寝ていたあたりをあらためて見ると、何か木のカケラのようなものが地面に転がっていた。
この木はどこかで見たことがあるような?
『『破滅の龍』を呼び出す際に使用した篝火に使っていた木で作った腕輪だ。おそらく炎にまかれたはずだが、残っていてね。もしかした、少しは身を守ってくれるかもしれない』
『古代遺跡ルイーナス』で出会った、千五百年前に『破滅の龍』を召喚した一人、エスケさんがくれたお守り。
あの時に見た木だ。
私は自分とジークの腕を確認する。
そしてプリメラとフォーゴさんの腕を。
助かった二人にはない。
エスケさんからもらった篝火の腕輪が。
ちょっとしたお守り程度の感覚で着けていたものが、まさか最後にこのような奇跡を起こしてくれるなど、誰が思っただろうか。
「あはっ、あははっ、あーっはっはっはっはっ」
突然笑い声をあげた私を不思議そうに見つめる三人。
私は自分の手首を掲げて、腕輪を指さした。
腕輪がなくなっていたプリメラとフォーゴさんはすぐに気付いたようだ。
「おいおい、あの腕輪が守ってくれたっていうのかよ」
「あんなちっぽけな腕輪に、あの炎から身を守る効果が? とてもじゃないが信じられん」
「だが、事実プリメラたちは守られた。疑っても仕方なかろう?」
そういえばエスケさんや他の人たち、『破滅の龍』の血の犠牲者は、その呪いが解けたことに気付いただろうか?
長らくこの世界に縛り付けられた人たちが、余生を少しでも幸せに生きていけるといい。
そしてもちろんこの人も。
「ジーク、少し失礼しますね」
私は彼の腰に提げられた短剣を抜き、彼の左腕を軽く切りつけた。
「なっ、エリアナ! お前いったい何を!」
「さあ、治してみてください」
私の言葉にジークは考えを理解してくれたようだ。
魔力を体に巡らせる。
しかし、傷はいっこうに回復しない。
ただ、うっすらとした赤い線を残したままだ。
「……そうだったな。傷がつくとはこういうことだった。人間は勝手に傷が治るものではないのだったな」
「さらに言えばジーク、私はもうあなたの石化解除のための魔力を一切使っていませんよ」
「エリアナ……」
彼は私の胸に顔を埋める。
その両目からはどれくらいぶりなのだろう。
とめどなく涙が溢れ、私の鎧を伝い、地面を濡らした。
「俺は、やっと戻れたのだな……」
「ええ。石化に悩まされることもなければ、不老不死でもありません。どこにでもいる、当たり前の人間。良かったですね、ジーク……」
その言葉で私の目からも涙が溢れてしまった。
ジークの首元に顔を寄せる。
二人でただ抱き合いながら涙を流した。
ようやく、ようやく私の誓いも果たせた。
ジークを人間に戻すこと。
そのために命をかけて試練を超え、『破滅の龍』と戦い、今ここにいる。
心が、体が、言いようのない何かで満たされていく。
やっと終わったんだ。
私は、今ようやくすべての終わりを噛みしめることができた。
「……で? そろそろいいのか、お二人さん」
どのくらい抱き合っていたのだろう。
互いに同時に体を離したタイミングで、いつものからかいを含んだ声が飛ぶ。
「ふふっ、ご迷惑をおかけしました」
「すまなかった、プリメラ、フォーゴ」
私たちの言葉に互いに顔を見合わせて笑い合うプリメラとフォーゴさん。
「まったく、私たちのことを忘れて。そのままキスまでいくのかとハラハラしたぞ」
「そっ、そんなことするわけがありませんっ!」
そしてみんなで大笑い。
はぁ、本当に終わったんだ。
誰一人欠けることなく。
その静けさの奥で、かすかに金属の触れ合う音がした。
最初は、崩れた岩がどこかで転がったのかと思った。
けれど次に聞こえたのは、規則正しく重なる足音。
私は笑みを消し、洞窟の入口へ目を向けた。
姿を現したのは、何十人もの騎士、そして神官、巫女、魔導師たち。
まるでこれからここで戦でもするかのような物々しさだ。
集団の一番奥に、二人だけ馬に乗った人物が。
「王太子殿下、お父さまっ!」
そう、私が王都から逃亡するきっかけとなった、王国の暗部を知る二人。
そして、おそらく私に追手を放った張本人たち。
「エリアナだとっ!? なぜ生きている。騎士どもは今まで何をしていた!」
「王太子殿下、『破滅の龍』対策で一時追手を縮小しておりました。そのためとなります」
「ならば、今殺せ。王国の害となる者を生かしておくなっ!」
その言葉に騎士数人、魔導師たちが前に出てくる。
それを見たジークたちも私を庇うように前に出ようとしたが、私はそれを押し留めた。
「王太子殿下、お父さま。『破滅の龍』は私たちが倒しました。そしてもはや二度と蘇ることはありません」
「なんだと! 貴様ら四人程度でどうにかなる甘い相手ではない。嘘を申すなっ!」
「ははっ、三百年前にたった四人を捨て駒のように送り込み、『破滅の龍』を倒したのは誰だったか忘れたのか」
ジークの言葉に王太子殿下とお父さまは怯む。
他の騎士たちは知らなくとも彼らは知っている。
何故ならその手柄を奪い取ったのは、紛れもなく王国で、それが露見するのを恐れて私に追手を放ったのだから。
「黙れっ! 世迷言を申し、国民を惑わせるつもりだろう? 貴様らのような者はこの場で成敗してくれるっ!」
王太子殿下が手を挙げる。
あれが振り下ろされたら一斉に攻撃が始まるだろう。
「やめなさい。あなた方程度ではもはや私を傷つけることなど出来ません」
「犯罪者が偉そうな口を聞くな! かかれーっ!」
さっと手が振り下ろされる。
そして同時に私は集めていた魔力を前に展開した。
「『隔離結界』」
彼らを包むように私の魔力が広がっていく。
飛び出そうとした騎士たちは、結界に弾かれて転び、魔導師たちの魔法は結界に触れて消滅した。
「なっ、なんだこの結界は」
「もはや攻撃は届きません。慈悲と思ってくださいね? ここにいる三人と戦えば、全滅するのはあなた方です」
「はっ! この程度の結界、私の奇跡で」
お父さまが長々と呪文を唱えて魔力解除の奇跡の業を放つが、それすらも私の結界は飲み込んだ。
そもそも自らの魔力だけで魔法を放つ彼らと、世界の魔力を借りている私。
魔法に込めている魔力の総量が違いすぎるのだ。
「ばっ、馬鹿な。エリアナごときの魔法が」
「今なら岬への道の分は結界を開けてあります。引き返すなら見逃しましょう。しかし、引き返さないのであれば……」
私はジークを振り返る。
彼は小さな炎の玉を生み出し、手のひらに掲げた。
「結界を閉じて、これ以上の炎を中へ投げ込みます。想像できますか? 逃げ場のない中、焼かれるという恐怖が」
「いやー、あれは本当にこえぇんだよな」
おそらく『火炎』に襲われた時を思い出したのだろう。
フォーゴさんが場違いな感想を述べるので、思わずクスリと笑ってしまった。
だがその笑いがどうやら彼らにはさらなる恐怖を与えてしまったようだ。
「エリアナ、なぜお前がこれほどまでの奇跡の業を……」
「奇跡? ふふっ、お父さま。この世界にもはや神はおりません。先ほど私が見送りましたからね。これは純然たる魔法ですよ」
「神がいないだと、そんな馬鹿な!」
「本当です。ですが、そんなことはどうでもいいんですよ。今はあなた方が諦めるのか、死ぬのか、どちらかです。さぁ、早くしてください。結界は何日でも持たせられますが、私たちはお腹が空いてるのでね。早くしなければ焼き払っちゃいますよ?」
もちろん嘘だ。
これだけの結界の維持は、もってあと十分といったところだろう。
けれども今の彼らにそれを判断する材料などない。
だからこそ、『お腹が空いてる』などという理不尽な理由で命の選択を迫ったのだ。
「ひ、引くぞ」
王太子殿下の言葉に騎士たちは踵を返す。
その背中に向けて一言。
「あぁ、お父さま方。別に王国の暗部を今さら漏らす気はありませんが、手配書を解かぬのならば、こちらにも考えがあります。ゆめゆめ、お忘れなきように」
「わ、分かった。戻り次第命令を解く! もう我々に関わるなっ!」
それを最後のセリフとして彼らは去っていった。
私は結界を解除してその場に座り込む。
「大丈夫か、エリアナ」
ジークが私の肩に手を置き、心配そうに覗き込んできた。
「ふふっ、少し疲れただけです。さすがにあの規模は初めてでしたから」
「エリアナ、だいぶ芝居が上手くなったじゃないか。それに、魔力がやけに上がってないか? 何があった?」
さすがにプリメラは鋭い。
お腹が空いてるのも嘘ではなかったので、私たちは携帯食を食べながら、今までのことを話す。
「『破滅の龍』が『デウス・クリアドール』ねぇ。裏切られて追い出されれば、世界を恨みたくもなるか」
「けどよ、神様いなくなったらこの世界どうなるんだ? 滅んじまうのか?」
「いえ、神は世界を創造するのみ。そこをどのような世界にするかは、その世界の生物に委ねられます」
「神というものを人間がずいぶん都合よく解釈していたのだな。無論したことは許せんが、『破滅の龍』も大変だったのだな」
話を聞いて各自最初こそ驚いていたが、それぞれ受け入れてくれたようだ。
「それで? 結局エリアナの魔力が上がったことが分からないが」
「あぁ、『デウス・クリアドール』様が世界を離れられる時に魔力を回復してくださったのですが……どうやらやりすぎたようでして」
「やり過ぎた?」
「体に負担なく、世界の魔力へ手を伸ばせるようになってしまったようなのです。もちろん、好き勝手に使えば周囲の魔力を枯らしてしまいますけど。」
そう、先ほどの結界も、もって十分といったのは、魔力を使い過ぎて周囲の魔力が枯渇することを恐れてのこと。
世界を干上がらせる気になれば何日でもいけるのだ。
「ジークを元に戻したのに、お前が人でなくなってどうするんだ」
「『デウス・クリアドール』様に言ってくださいよ。それに、枠が無くなっただけで、私自身は人間です。ちゃんと寿命で亡くなりますよ」
「そうなると、目下の問題はあいつだな」
ジークが目を向けた方向を私たちも見る。
そこには私が切りつけた時のまま、『断界の剣』が岩に刺さっている。
正直あんな危ないものはドワーフの集落にも戻したくない。
何よりあれを再び見た時に、族長のヴォト様が息子さんのことを思い出すのを想像したら、とてもじゃないが託せない。
かと言ってその辺に放置するわけにもいかないし……。
「ならば、こうしようか」
◇◆◇
その後のこと。
フォーゴさんは岩窟都市スブソーロに戻り、相変わらず族長の護衛だ。
『破滅の龍』との戦いで、十分に役立てなかったからと、今まで以上に訓練に励み、歯が立たなかった族長のヴォト様からも、数本に一本は勝ちを拾えるようになったそうだ。
けれども相変わらず馬の扱いは下手らしい。
スブソーロで馬商人を目指すフィリパさんから届いたそんな手紙を見て、思わず笑ってしまった。
プリメラは里に戻るや否や、エテルノ様から族長の座を譲り渡され、若き族長として集落をまとめるのに必死らしい。
閉じられた集落ではなく、開かれた集落を目指して、少しずつ近場の街や村とも交流を始めていくそうだ。
「次に会った時に変わってないと言われてはしゃくだからな」
とは、プリメラの手紙だが、あの旅で一番変わったのは彼女だろう。
この手紙がそれを証明してくれている。
なお、エテルノ様は自由になったのをこれ幸いと、ちょくちょくうちに遊びに来てはジークと飲み明かしている。
『人間と飲み明かす変なエルフの爺ちゃん』と周りからは認識され、来る度に参加者が増えるので、家から追い出して酒場に行ってもらうことにした。
そして私たちは……。
「ではエリアナ、行ってくる」
「ええ、気をつけてねジーク。あまりイジメちゃだめよ?」
「ははっ、イジメなどせぬよ。だが、死んでほしくはないからな。しっかり身につけてもらわねば」
彼は街で剣術教室を開き、自分の技術を継承している。
今の世代に伝わっていない、三百年前ならではの技法もあるらしく、その技を求めて最近ではよその街からの入門者も増えてきた。
『破滅の龍』が消えたとはいえ、魔物は元々この世界にいるので、脅威が消えたわけではない。
そういう場面できっと彼の技は重宝されていくのだろう。
私は家の片隅に治療院を開き、街の人々の治療にあたっている。
魔法を使うこともあれば、生活指導のようなこともしている。
もともと神殿とはそういうことをするための場所だったので、ようやく本職に返り咲いたとも言えなくもない。
そして、治療院の片隅には大きな神像が設置されている。
昔勤めていた神殿から独立祝いとしてもらった守り神のようなものと説明しており、治療に来た患者が物珍しそうに眺めたり、中には手を合わせて拝む人も。
誰も思わないだろう。
まさかこの中に『断界の剣』が封印されているなんて。
「ご馳走様。エリアナはずいぶんと料理の腕が上がったな。旅の時より数段美味くなった」
「ふふっ、患者さんから色々と教えてもらえているおかげです」
私は食器を片付けながら、そう答えた。
あの戦い以降、王国は手配書を完全に取り下げたようで、もはやどこの街にも私の手配書は残っていない。
よほど脅しがきいたようだ。
私は外に出てジークの愛馬、フェルセルの飲み水を足してやる。
すると、私に気づいたようで藁で寝ていた頭を上げてこちらに目を向けてきた。
「あら、起こしちゃったかしら。ごめんね、フェルセル」
(構わない。水、ありがとう。エリアナ)
戦いが終わり、この街に腰を据えて一番にしたことが、このフェルセルと意思疎通するための魔法を試すこと。
以前までの中途半端に世界の魔力と繋がっていた私には出来なかったが、今なら出来る!
そう思って試して、ようやく話せるようになったのだ。
「最近動けてなくて辛いでしょう? 今度の休みの日はジークと一緒に遠出しましょうね?」
近寄って彼女の白毛に覆われた体をやさしく撫でると、私の頬に頭を擦り寄せてきた。
(楽しみにしてる。おやすみ、エリアナ)
「ええ、おやすみなさい、フェルセル」
小さく手を振り離れると、フェルセルは再び藁に頭を置いて眠りについた。
家の中に入るとジークが聞いていたようで、
「久しぶりにプリメラのところに行ってみるか? フェルセルも森が好きだから喜ぶだろう」
と聞いてきた。
「そうですね、プリメラさんも大変そうですから、少し疲れを取ってあげないと」
「うむ。では、今週の休みの日から一週間ほど行ってこよう。その間の練習メニューを伝えてやらねばな」
「私も患者さんに伝えないと」
二人してそこから少し書き物をして終わると、ちょうど寝るのにいい時間になった。
「そろそろ寝るか」
「そうですね。明日もありますから」
私たちは奥の部屋のベッドへと移動する。
二人が寝ても少し余裕がある大きいベッドだ。
ベッドをこれにする時のジークの慌てぶりが楽しかった。
「男女とは〜」とか、「女らしさとは〜」とか、三百年前はそうだったのかもしれないけれど。
「ぬぅ、やはり未だに緊張するな」
「あら、何を言ってるんですか。昨晩だって……」
「言うな、エリアナっ!」
必死になって私の口を塞いでくるジーク。
手のひらじゃなくて、別の塞ぎ方をしてほしいけれど、彼にはきっと無理だろう。
だから、今夜も私から……。
「ジーク、いつまでも一緒にいましょうね」
「あぁ。俺は残りの時間はすべて君とともに過ごしたい。愛している、エリアナ」
「私もですよ、ジーク。愛しています」
重なる唇に互いの温かさを感じ、今日も一日は過ぎてゆく。
この、神なき世界。
私は彼と共に生きることを誓った。
限りある日々を、いつまでも大切に抱きしめながら。




