表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逃亡聖女と不死の騎士は、神なき世界で生きると誓う  作者: 八坂 葵


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/17

第11話 境界を超えて

 ジークとともに森の外周にたどり着くと、すでにエルフと魔物が交戦をしていた。

 まだ距離があるため、一方的にエルフたちが弓矢や魔法で攻撃できており、こちらに目立った外傷はなさそうだ。

 しかし後から湧いてくる魔物たちは、少しずつ森へと近づいていた。


「エルフたちよ、魔物は俺が引き受ける! あなたたちは仲間を守ってくれ」


 ジークの呼びかけに一瞬目線を走らせる。

 しかし彼らはすぐに無視をして前に向き直った。

 私とジークがどうすべきかと顔を見合わせていると、一人のエルフが、私たちの後ろから駆け込んできた。


「族長の命だ。この場はプリメラを残し、全員撤収。中の守りを固めよ」


 そう叫び、精巧に彫られた彫刻のペンダントを掲げてみせた。


「そんな、あれは確かに族長の……」

「バカな! プリメラだけを、こんな蛮族と共に戦わせよというのか」


 動揺の走るエルフたち。

 そこへプリメラさんが叫ぶ。


「族長の命だ、早く従え! ここは私に任せろ!」


 それを聞いて渋々と、しかし素早くエルフたちは集落へと走る。

 何人ものエルフが憎々しげに私たち……というよりもジークを睨みつけてゆく。

 その視線をジークは悠然と受け止める。

 というよりも、彼の目は森に近づく魔物たちだけに注がれていた。


 爪の鋭い人型の魔物や、空を旋回する鳥人間。

 狼や猪などの四つ足の魔物たち。

 数こそ百程度だが、その後方からも続々と魔物は増え続けている。

 ジークは一度大きく深呼吸をした。

 そして――。


「プリメラ、エリアナを頼む! 俺は……行く!」


 腕を掴まれ、私はプリメラさんの側へと移動させられた。

 ジークは離れ際に、


「必ず守る!」


 そう言って笑顔を浮かべる。

 だが、すぐさま顔を固め、剣を抜き、魔物の軍勢の中心地へと駆け出した。


 彼は走りながら左手に大きな魔力を溜めはじめ、魔物が一番固まっているところへ目掛けて、勢いよく振り下ろした。


火炎龍(フラメ・ドラッヘ)!」


 振り下ろした手のひらから、まるで龍のような形の炎が迸る。

 それは本当に意志を持つ龍のように魔物たちを焼き、呑み込み――ほんの僅かな時間で何十もの骸を積み上げた。


「す、凄い……」


 ジークに嫌悪感を抱いていたはずのプリメラさんから、感嘆の声が漏れた。

 彼女の目は煙を上げている魔物たち……だったものに釘付けになっていた。

 こんなに取り返しのつかない魔法は、追手の騎士たちには使わなかった。

 これが、本当のジークの実力なのか。


 この後も強力な魔法や剣の一撃で魔物をなぎ倒していくのだろうと思っていたら、突然彼は戦い方を変えた。

 魔法の威力を弱め、雷で痺れさせ、風で移動力を削ぎ、足や翼などを切り裂いて、仕留めることから無力化することに努めた。

 まさか魔物にまで彼の慈悲はあるのだろうか?


 しばらくすると、それは間違いだということに気付かされる。

 地面に転がった魔物たちを、彼は移動するたびに蹴り上げ、放り投げ、一箇所に集めていく。

 そして、


小爆発(デトナツィオン)!」


 魔物たちへまとめて爆発の魔法を打ち込み、とどめを刺す。


 ……これが、彼の、三百年前の戦い方なのだろうか?

 効率的なのは分かるが、あまりに凄惨なその戦い方に、思わず目を背けた。

 するとプリメラさんが私の手を引く。


「お前が好意を示した男だ。都合のいいところだけを見ようとするな。本当に好きならば、全てを受け入れろ」


 戦場から目を離すことなく、厳しい口調で伝えてきた。


「でも、さすがにこのような酷い戦いは……」

「あの男が、やりたくてあのような戦い方をしてると思っているのか? よく見てみろ、あの男の目の動きを」


 そう言われて、彼の動きではなく、彼の目だけを追う。

 すると……。


「一定のラインを超えた敵に対してだけ、攻撃をしている?」

「そうだ。一見すると全ての魔物へ攻撃しているように見えて、ヤツが攻撃をしているのは、少しでも森に近づいたものだけだ」

「でも、何故そんなことを……?」

「魔物が生きて帰れば、この森には強すぎる守護者がいると、話が回るだろうな。そういう知能を持つものだけだが。自分がいなくなっても保険をかけておこうと、ヤツは戦ってるのだ。……余計なお世話だがな」


 私が凄惨だと目を背けた戦いから、プリメラさんは戦い方の意味までを、正確に汲み取っていた。

 それは、つい昨日、彼と気持ちを確かめあった私からすると、とても悔しいことで……。

 気が付けば唇を噛み締めていた。


「今からでも遅くないぞ。全てを忘れて他の国へ逃げてしまったらどうだ? ヤツもそれを非難しないだろう」


 プリメラさんの言葉に耳を傾けながらも、私は戦いに目を戻す。

 彼の大剣が一振りされるごとに、魔物の命が消える。

 放たれる魔法にいくつもの命が散る。

 ジークとて無傷ではない。

 決死の抵抗を見せる魔物から爪や牙をくらい、血を流している。


 これが、私が付いていくと決めたジークの世界。

 この光景の先に、ようやく『破滅の龍』が待っている。

 あぁ、私はなんて人を選んでしまったのか。

 誰よりも強く、魔物に対する冷徹さと、効率よく数を減らしていく計算高さ。


 けれど……何よりも私を大切にしてくれる人。


 そうだ。

 英雄のジークフリードではない。

 ただ優しいだけのジークでもない。

 旅をする中で、まるごとの彼に惹かれたのだ。

 なら、私がすべきことは――。


「プリメラさん、この戦いが終わったら『魔力の泉』へ連れて行ってください」

「……決めたのか?」

「はい。ここにいることが、彼のためになる。それは分かっていますが、あんな戦いをする彼を一人で放置したくありません」


 ある程度傷が深くなってきたら、魔力を注ぎ込み、不老不死の力で傷を癒す。

 そしてまた、群れの中へ切り込んでいく。

 何度もそれを繰り返す彼の目は、常に森のこと、そして私たちが映っていた。

 私はプリメラさんへ向き直り、彼女の目をまっすぐに見つめた。


「戦力にはなれなくても、足手まといではいたくない。滅ぼすための戦いでなく、守るための戦いを続ける彼を、隣で支えたい。……それが、私の願いです」

「それならばやってみるがいい。長老の許しもある以上、案内はしてやる。しかし、本当に命がけだぞ? いいんだな?」


 スッと腕を上げ、私はジークを指し示す。


「あの隣に立つのならば、それも当然かと」


 ふぅ。と、息をつき、プリメラさんは右手に風の魔力を集め始めた。


「嫌になるよ。うちの若い奴らにもそのセリフを聞かせたいものだ」


 彼女が初めて笑みをこぼす。

 初対面では抜き身の剣のようだった彼女。

 しかしその笑顔は、まるで花が咲いたようだった。


 プリメラさんは、右手の魔力を魔物の群れに向ける。


ジーク(・・・)、避けろよ!」


 っ……!

 今、確かに「ジーク」、そう叫んだ。

「ヤツ」、「貴様」と呼んでいたプリメラさんが。


 叫んだと同時に魔力を解き放つ。

 彼女の右手から、まるで竜巻のような風が疾走(はし)った。

 地面に落ちている木の枝や小石を巻き上げ、竜巻は魔物たちへと迫る。

 ……が、その中にはジークの姿も。

 しかし、風が直撃する直前、ジークは高く後ろに飛び上がって回避する。

 風は残された魔物たちを巻き込み、魔物の軍勢を僅かなりとは言え押し返した。


「危ないだろう、プリメラ」

「ハンッ、よく言う。貴様がその程度くらうものか」


 やはり仲が悪いのかと、心配してプリメラさんの顔を見ると、昨日まで感じていた突き放すような空気もやわらいでいる。


 突然何が彼女を変えたのか。

 私にはまったく見当がつかなかった。

 ただ、彼へ少しでも好意を抱いたのなら……。

 そこで考えを止める。

 昨日言っていたはずだ。

 亡くした夫以外に――と。

 あの言葉を信じよう。

 ざわつく胸に手を当て、私は必死に心を落ち着かせた。


「しかし――数が減らんな。なにか手はないか?」

「そんな便利なものなどあるか! 少しずつ減らすしかあるまい」


 森の奥から風が流れてきた。

 いや、もしかしたら……。


「プリメラさん、先ほどの風の魔法は、まだ威力を上げられますか?」

「んっ? ああ、さっきは避けられなくては困ると、少し手加減をしていたからな」


 それならば……。


「ジーク! 一度こちらへ。一気に押し返す手立てがあるかもしれません」


 ジークは頷き、剣を一閃すると、続けざまに幅広い炎の壁を作り出した。

 魔物たちはジークの背丈以上もある炎に恐れをなし、その場で立ち止まったようだ。


「どんな手だ?」


 気が付けばジークが隣にいた。

 相変わらず素早い。

 まったく気づけなかった。


「プリメラさんの先ほどの風魔法に、ジークの火魔法を乗せるのです。いわば炎の嵐とでも言いましょうか。それならば貫通力も上がり、奥に控える魔物にまで届くのでは……と」


 その言葉を聞くと、プリメラさんが微妙な顔をする。


「お前……さっきまでそれがジークの戦い方に疑念を抱いてたやつの考えか。いきなり変わったじゃないか」

「いいじゃないですか。プリメラさんが、彼のことを『ジーク』と呼ぶことにしたのと、同じですよ」


 そう笑いかける私に、いつもの仏頂面を見せるプリメラさん。

 しかし、すぐに折れて、先ほどのやわらかな笑顔を見せてくれた。


「恋する乙女には敵わないな。炎の壁が低くなってきてる。さっさとやるぞ」

「分かった。では先にプリメラから頼む。俺はその風に合わせるとしよう」

「しくじるなよ。チャンスはそうそう訪れない」

「分かっている。頼んだぞ」


 そのやり取りは、まるで長年冒険を重ねてきたコンビのよう。

 戦えない私には少しうらやましく感じる。


「……風の精霊よ、我が呼び声に応えよ……激しく舞い踊り、全てを巻き込む嵐となれ!」

「火の精霊よ、我が手に集え……螺旋を描き、敵を焼き尽くす炎の渦となれ!」


 二人が詠唱をするのを初めて見た。

 おそらくそれだけ魔力を練り込んだ一撃を放つつもりだ。

 高まっていく魔力の強さに、私は少し後ずさる。


風の螺旋ヴィルベルシュトゥルム!」

炎の螺旋(フランメヴィルベル)!」


 プリメラさんが放った風の渦巻を追いかけるように、ジークの放った炎の渦巻が追いかける。

 やがてそれは一つとなり、巨大な炎の嵐を巻き起こす。


「「炎の嵐フランメ・シュトゥルム!」」


 二人の声が重なり合うと、炎の嵐は魔物たちを巻き込みながら奥へ、奥へと進んでいく。

 やがてそれは街道へと到達し、その先にあった大きな岩へとぶつかる。

 岩を溶かしながらもさらに進もうとする炎の嵐は、そこで力尽きたように消えうせた。

 この嵐にほとんどの魔物が巻き込まれ、残った魔物たちもあまりに巨大な魔力の奔流にあてられたかのように、慌てて逃げていく。

 それきり、魔物が新たにあらわれることはなかった……。


「ふぅ、なんとか片付いたな」

「ふんっ。貴様一人で片付けられないとは情けない」

「いや、済まなかった。百体程度余裕と思ったのだが、次から次へと増えてきてな。どうしようか困っていたのだ」


 先ほどの大きな魔法で二人とも少しは疲れたようだが、まだまだ余裕がありそうだ。


「お二人とも、疲れはないのですか?」

「あぁ、このくらい、肩慣らしみたいなものだ」

「私は魔法を二発撃っただけだからな」


 何とも頼もしい人たちだ。

 だけど、これならお願いしやすい。


「ジーク、先ほどプリメラさんにはお願いしましたが、『魔力の泉』へ行きたいのです」

「あぁ、構わないぞ」


 淡々とした返事。

 ジークは知らない。

『魔力の泉』へ行くことで、私が命を落とすかもしれないことを。

 それに気付かないジークを、プリメラさんが怒鳴りつけようと、半歩前に出たのを、私はそっと手で制した。


 知らなくて構わない。

 私をプリメラさんに預け、笑って死地へと赴いたジーク。

 力こそ敵わなくとも、その心ではジークに負けたくはなかった。

 ちらりと、プリメラさんは私を心配する目を向けてくれるが、私はそれに対して頷き返すだけで、意思を伝えた。

 諦めたように視線を落とすプリメラさん。

 しかし、すぐに顔を上げて切り替える。


「それでは一度集落へ戻り、準備を整えよう。泉までもそれなりに距離があるからな」


 プリメラさんの勧めに従い、私たちは準備を整えるため、集落へと戻る。

 しかし、この時の私たちには予測できなかった。

 この後エルフたちから、とてつもない激しい怒りを浴びせられることになろうとは。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ