ステキな宇宙ステーキ店
宇宙では鉱物を主食とする星人もいるけど、多くの星では生物は生きているものを食べて命を繋いでいる。
目の前の置かれた、チリチリと温められた鉄板にドーンと載った分厚いピンクステーキをみる。その横のニコニコ笑顔のステーキの原産地マスターをみる。涎が垂れる。
生き物は生き物を食べる。
という点では、私がマスターを美味しく食べても問題ない。
だけど~だけど~友達だと思っている相手を美味しい美味しいって食べるのは~友達をみて美味しそうと思うのは~地球で育んだ私の良心が良しとしな~い。
地球人は2つある腎臓の片方を、病気の親族や知人に移植であげたりすることもあるので、それと同じだと考えれば…いや…だめだ…命を懸ける重みが重い。
早く。早く見つけないと、どんどんステーキが冷めてしまう。
どこだ…
どこにあるんだ…
私の良心と折り合いがつく妥協点…
はい!
献血!
献血があったぁぁぁぁ!
血の足りない人に健康な人の血を分ける行為は、モルルン人の妊婦の栄養を補うために親族の鼻を食べさせる行為と似てる気がする。
それに、昔、事故にあって輸血してもらった時に、血を分けてくれた人たちへの感謝はあれど罪悪感はなかった。事故に遭う前には、よく献血してたけど、誰かの役に立てたら嬉しいなあ。くらいのちょっとした気持ちからだった。これもマスターの「美味しいステーキを食べて貰いたい」という気持ちと似てる気がしないでもない。
改めて目の前のピンクステーキを見る。涎が溢れる。
その横にいるマスターを見る。「美味しいステーキをありがとう」感謝の気持ちが溢れた。
いける!これで憂いなくマスターのステーキを食べることができる!
私はテーブルに置かれた箱から勢いよくナイフとフォークを取り出して、分厚いステーキを切り分け一口頬張る。ピンクステーキは心地いい噛み応えの中、じわっと甘みの強い肉汁が口いっぱいに広がる。
「やっぱりマスターのステーキは宇宙一美味しい!また美味しく食べられて嬉しいよ!」
様々な葛藤の末に出た、私の心からの言葉に、マスターはニコニコと2枚目のステーキを焼いてくれた。
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マスターは店を再開した。
長距離宇宙トラックドライバー達だけが利用できる会員制のステーキ店として。
今まではマスターは1人で営業していたが、今は娘さんや、店に飾ってある写真に写っている親戚たちが、代わる代わる手伝いに来ている。きっとマスターが虹色になっていないか見張る意味もあるのだろう。今のところは需要と供給のバランスが取れているみたいで安心だ。
「やっぱり~マスターのステーキ~チョ~美味なんすけど~」
今回の騒動の発端になったドルンドリン人は、今、私の隣で舌をペチョっと使ってステーキを食べている。
マスターのステーキを食べるために長距離宇宙トラックドライバーに転職して、週3で通っているそうだ。
軽いノリだけど、義理を通す熱いやつは嫌いじゃない。ただ時折、いつも口から出している舌をしまって、じっとマスターを見つめているのが気になるが…
いざとなったらダッシュで逃げてね。マスター。




