ノックの家に行こう。
ノックは飽きやすい奴だった。
魔力を感じる訓練は、長くても1時間も続かない。
まあでも5歳児なんてそんなもんか?(ちなみに本当に5歳児だった)
長く一緒にいると、初めの印象とは裏腹に子供らしい部分も見え隠れして微笑ましい。
ノックはとにかくよく笑うし、リアクションも大きい。ちょっと魔法を見せてやるだけで大喜びだ。
こんな地味な事したくねえよとブーたれる度に、魔法を見せてやるとまたせっせと訓練を続けるのだ。
なかなか可愛い奴だ。
だけど5歳児らしからぬ部分も多かった。
こいつ、一人で魔物を殺せるんだ。正直、かなりの腕だ。なんでこの5歳児こんなに万能なんだ。
前世と合わせて30年くらい生きてる俺、自信なくなっちゃうぞ・・・
ノックが俺の前で初めて獲ったのは、ウサギ型の魔物だ。大きさは地球のウサギと大して変わらなかったが、目が3つあり角までついてるんだから全然可愛くない。俺ならしっぽ巻いて逃げるレベルだ。
俺はいつもの場所で、動きながらストーンショットを打つ練習をしていて、ノックは静かに座りながら魔力感知の練習に励んでいた。
するといきなり立ち上がり、腰につけていたホルダーからナイフを取り出すと、俺の方に向かって勢いよく投げつけた。5歳児が投げたとは思えないスピードで向かってくるナイフが俺の50センチ横を通り抜けると、背後の草むらから ギュイイ!!という声が聞こえた。
ノックが草むらの中に入ると、息絶えた魔物を持って、「今日は御馳走だ!お前も食ってけ!」とニコニコ笑った。
こんな5歳児がいてたまるか… 俺は再びそう思ったのであった。
その日、俺は初めてノックの家に行き、彼の言う「爺さん」に出会った。
ロックと名乗る男性は、短髪の白い髪に白いひげ。肌の色はかなり黒く焼けていた。爺さんというほど歳はいっておらず、服の上からでも鍛え上げられた肉体が窺われた。
ただでさえそこそこ怖そうな見た目だが、右の頬に残る大きな傷跡によって厳つさが増していた。
さっき獲った肉を使った料理を食べながら話をすると、見た目と違ってキサクな人だった。
ロックさんは村の北側にある山の反対側の麓でノックを拾ったらしい。なんとロックとは実の親子ではなかったのだ。
どうしてあんなところにいたのかは不明だが、見つけてしまったものは仕方がない。そのまま見殺しにすることもできず、拾って育てることにしたそうだ。
まさかこんな生意気なガキに育つとは思わなんだ と軽口をたたくロックさんだが、ノックのことを愛しているのは十分に伝わってきた。
ノックも、うるせえジジイと反論するが、それも本気で言っているのではない。
ノックに戦い方を教えていたのはロックさんのようだ。ロックさんは昔、各地を旅しながら傭兵まがいの仕事をしていたらしい。おそらく、冒険者と呼ばれる人たちだ。
「世の中は物騒だ。魔物だけじゃない。魔物より恐ろしい人間なんてごまんといる。戦える手段は持っておいたほうがいい。」
そう言った時のロックさんの様子は、尋常ではなかった。今までのキサクな雰囲気とは真逆の暗く重々しい雰囲気を醸し出していた。
山の中に籠っているくらいだ。昔なにかあったのだろう。そのことについて聞きたい気持ちはあったが、やめておいた。人の傷口に汚い手で触るのは趣味ではない。
だれだって辛い過去くらいある。
俺の過去だってそうだ。
「かああああー これだからこのジジイは。突然しんみりしやがって!せっかく俺が美味い魔物をとってきたんだから、楽しそうにしやがれ!!」
ノックは憎まれ口を叩くが、それはロックさんを配慮しての事だった。空気の読める5歳児だ。
ロックさんもそれを感じとり、生意気だと反論するが、その目は優しかった。
「ところでよー。コイツ、魔法使えんの。信じらんなくね?どんな生き方したら5歳児で魔法なんて使えるんだよ。頭おかしいんじゃねえか?」
おれは口の中のものを吐きそうになった。
「てめえ…それは秘密だって言ったじゃねえか!」つられて俺の口調も悪くなるが、仕方がなかった。
「なんと!それは本当か?俺の知っている中じゃ最年少じゃぞ!!?かつて勇者とともに魔王を撃ち滅ぼした魔法使いでさえ、初めて魔法を使えるようになったのは8歳の頃じゃというぞ??お主、天才か!!?」
「へぇーお前、やっぱすげーんだな。そうだよな。まあこのジジイは俺に対しても天才っていうからあんまりあてにはなんねーけど。」
いや、お前は確かに天才だよ。あの動きはヤバい。
「まあそんな天才さんが俺に魔法を教えてくれてんだ。弟子としちゃあ早くおれも使えるようにならねえとな!」
弟子にしたつもりはない。
「ワハハハハハ!!お前に魔法など使えるようになるものか!魔法っていうのは聡明な人間にしか扱えんのだ!お前には到底無理だわい!!」
いやいや、頭のよさでもノックは天才的だぞ… それが本当なら、ノックも魔法は使えるようになるだろうな・・・
「チクショー!!見てろ!さっさと魔法使えるようになって、目にもの見せてやるからな!」
ノックの魔法に対する意気込みは向上した。
ちなみにその日、夜遅く帰った俺はアリスにビンタされた。村のどこを探しても見つからないため、捜索隊を編成しようという事態までに発展した。やっちまったな。俺。