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異世界勇者の大親友  作者: 屋根裏部屋
第一章 
10/15

『個性』

 ロックさんと夕食を共にした後から、時々ロックさんが戦闘の訓練をつけてくれるようになった。

 武器の扱いを教えてくれる指導者がいるのはありがたい。

 魔法だって万能じゃないんだ。接近戦をやれるようになって損はない。


 ロックさんが教えてくれたのは、ナイフと短剣だ。冒険者時代に使っていた武器らしい。

 武器の扱い方もそうだが、戦闘時の身のこなし方や思考、鉄則など、覚えることはたくさんあった。


 ロックさんは、木で作ったナイフと短剣を用意して、ひたすら僕に打ち込み、防御させる。もしくは僕がひたすらロックさんに打ち込むという訓練をよくしてくれた。

 その中で気付いたことをどんどん言ってくれるのだ。実践的ないい練習だと思う。


 ノックは依然と比べて俄然魔法の習得に意気込んでいる。その集中力はちょっと恐ろしいくらいだ。この前までの飽き症なノックはどこに行ったのやら。

 筋金入りの負けず嫌いらしい。それを見越してノックを煽ったなら、ロックさんは流石である。


 といっても一日中あの地味な作業ばっかりやってると疲れるのか、ちょくちょくノックと体を動かす。


 ノックとはひたすら模擬試合をするのが習慣となっている。 といっても全然勝てないが。

 かなり手加減され、どの攻撃も全部寸止めしてくれるくらいには差がある。これは大きな差である。寸止めって実際かなり難しいのだ。そのうえで全然勝てないのだから、なかなか悔しい。


 もちろん、俺も魔法の練習は続けている。走りながら魔法を使うくらいなら出来るようになったが、剣を振り回しながらとなると絶望的だ。

 距離が空いたら魔法で攻撃。接近戦はやはり剣のみに絞った方がよさそう。


 あーあ。剣を振り回しながら魔法まで使えたら、かなりカッコいいと思ったんだけどなあ。

 まあまだ駄目と決まったわけでもないし、特訓は続けよう。


 

 そういえば、訓練の中で剣が何度か折れたが、ロックさんに言えばすぐに新しいのを渡してくれる。

 時々、凝った彫刻が入っているものまであるのが不思議である。


「この木剣って、ロックさんが作っているんですか?たまに綺麗な彫刻まで入ってますけど。」


「おおそうだとも!この彫刻の良さが分かるとはなかなかのセンスだ!ノックとは偉い違いだ!」


 ワハハと得意になるロックさんは熊みたいで可愛い。おっさんだけど。


「こういうのは得意なんだ。なんせ天職は彫刻家だからな。個性(アイデンティティ)だって彫刻と関係あるんだぜ!」


 聞きなれない単語が2つも出てきたが、なんだ?ロックさんに尋ねる。


「そうか!アルはどっちも知らんのか。ノックと同じでガキにしてはしっかりしてるから忘れてたが、まだ5歳だもんな。

 いいか、天職っつーのは、まさに天から与えられた職業よ。10歳の誕生日にな、いきなり目の前に職業の書かれた青い光の玉が現れる。その数は人によって違うんだが、その中から一つを選んで触れる。そうすっとその職業に関わるスゲー才能が得られるんじゃ。儂の前に出たのは、剣士と彫刻家の二つだった。儂は剣士を選ぼうとしたんだが…、選ぶ直前にくしゃみが出てな。間違えて彫刻家と書いてある玉に触れちまった!」


 職業システムまであるのか、この異世界。作りこみが違う。


「ジジイのその話は何回聞いてもおもしれえなあ」とノックは爆笑している。


「黙れ!あの時は確かに落ち込んだが、今ではこれで良かったと思っとる!暇な時間に静かに彫刻を作るのはいいもんだ。まあお前みたいなセンスのない若造には分からんかもしれんがな!」


 またもや言い合いを始める親子をに苦笑しつつ、もう一つの質問を投げかける。個性って?


「ああ。途中じゃったな。個性っていうのは、説明が難しいが、本人特有の能力とよく言われる。魔力と闘気が融合した、奇跡の力なんて言われることもある。魔法に出来ないことができるんじゃ。

 たとえばの…回復魔法なんかがそうじゃ。あれは魔法という名前はついてるが、魔法ではない。あれはそういう個性を持ったものにしか扱えない奇跡の力じゃ。

 よく考えても見ろ。火だか水だか土の魔法で、傷口が治ると思うか?思わんじゃろ。


 個性は誰にでも発現しうるが、発現しない者もおる。むしろ発現しない者の方が多いな。

 どんな個性が得られるかは、そいつ自身がどんな人間かに左右される。

 回復魔法が使える人間は、温厚で人の痛みのわかるやつが多いと聞く。ちなみに回復魔法が使えるやつはモテるぞ。性格がいいのが保障されとるからな。」


 んーなかなか難しいが、個性というのは、個人の特殊能力みたいなものだろうか。


「今は回復魔法を例にとったが、個性ってのは本来自由なもんじゃ。100人いれば100通りの個性があると言ってもいい。回復魔法といっても、傷口を塞ぐものから、傷が出来る前の状態に戻すもの、自然治癒力の底上げをするものなど、さまざまなものがある。それぞれ、そいつの好みや性格、人生、育った環境からそいつに合った個性がうまれる。

 個性を得るタイミングは人それぞれだな。ピンチの時なんかに、突然って言うパターンが多いらしいが、家でゴロゴロしてたらいきなり個性が発現した、なんて奴もおる。


 ちなみに、得られる個性(アイデンティティ)の数は最高でも3個だ。一つはさっきから説明している、そいつの生き方に合った個性。二つ目は天職に合った個性。三つ目はその二つ両方に合った個性だ。3つめまで個性を手に入れられたら、かなりの実力者と言えるだろうな。」


 ほうほう。やはり特殊能力っていう認識で間違いはなさそうだ。俺はどんな個性を得られるんだろう。


「ところで、ロックさんの個性ってどんなものなんですか?」


「アル、基本的に個性はあまり人に言うものではない。聞くときは慎重にな。まあ儂はお前さんを信用しているから言うが、人によっては嫌がるものもいる。なんて言ったって個性は戦いにおいて切り札だ。切り札を信用できない奴に言うのは怖いじゃろ?」


 それももっともなことだ。


「さて、儂の個性だが、『彫刻する知覚(カーヴィング・センス)』じゃ。個性は人それぞれ。世界に一つしかないものだから、名前を言っても分からんだろう。今から見せるからちょっと待っとれ。」


 そういうとロックさんは家に戻り、少しすると鳥の形をした彫刻を持ってきた。

 その彫刻には見覚えがある。森の中で何度か見たことがある。


「これは儂が彫ったものだ。この彫刻の目に映ったもの、この彫刻の耳に届いた音を儂は聞くことが出来る。数に制限はない。聞きたい場所にこの彫刻を置いておく。すると、意識すればいつでも目・耳の代わりになる。こいつは便利だぞ。冒険者時代に発言した3つめの個性でな。野営なんかで周囲を警戒する必要の多かった儂にピッタリの個性だった。ちなみに、遠隔地との情報伝達にも使えるぞ。彫刻の前で喋ってくれれば俺まで情報が届くわけだからな。一方通行の伝達ではあるが。」


 なるほど…たしかに冒険者として生きた人生と、天職の彫刻が組み合わさった能力だ。それにしても便利だな。羨ましい。


「今すごいと思ったじゃろ?でもな世の中にはもっと凄い個性がごまんとある。アルもノックもきっととんでもない個性を手に入れるだろう。俺の目から見ても、二人は天才だ。まあこのことはノックには内緒な?」

 小さい声で恥ずかしそうに言う。ツンデレのおっさんだ。


 それにしても今日はいいことを聞いたな。天職と個性か…。

 とりあえず10歳の誕生日が楽しみで仕方がないな。俺はどんな天職を選べるんだろう。


 そういえば、勇者なんかも天職なのだろうか。

 10歳になって目の前に現れた光の玉に勇者と書かれた奴ってのはどう思うんだろうか。喜ぶのだろうか。あまりの責任の重大さに腰がひけるかもしれないな。

 おれが将来出会うはずの勇者。育てることになる勇者。一緒に戦うことになる勇者。

 良い奴だと良いな。

剣と魔法のファンタジーという建前の、能力モノでした。

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