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勝手に召喚されて、騎士にされたワタシ~エリュシールの暁~【第四回なろうコン一次選考通過作・第3回お仕事小説コン楽ノベ文庫賞受賞作】  作者: 悠然やすみ
第一章「勝手に召喚されて、騎士にされたワタシ」(2015年1月11日に完結済みです)
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最終話「想い、遙か」 3

 ゼルリックの来訪から、数時間後。眠り足らなくて二度寝に耽っていたワタシは、ベッドを照らす暖かで煩わしい日差しを浴びて目を覚ました。重い瞼を何とかこじ開けて窓の方を見やる。カーテンから透けてみえる外の世界は昼真っ盛りといえるほどに明るく、賑やかな自然と人々の空気が流れていた。どうやら、というよりはやっぱりというべきか、夜中の一件の所為で寝過ごしてしまったらしい。


 チュンチュンと羽ばたいていく影が、ガラス越しに映った。


――ま、休日の寝坊は許されるし。いっか。


 そう思い、布団を頭から被りかけたところで。


――あ。


 毎朝の日課となっている修練を思い出した。そういえば、今まで通り任務は免除されているとはいえ、ルトレーとの魔術特訓まで行わなくてよいとは聞いていない。聞いていないという事はつまり、伝える必要が無かったという事だ。伝達を忘れたという可能性もあるが、あの隊長と副隊長に限って、そんな凡ミスをしでかすようには思えない。やはり、修練は『ある』、いや『あった』と考えた方が自然だ。


――ひょっとしたら、ワタシの事をずっと待ってるかも……。


 このまま惰眠を貪り続けるわけにもいかなくなり、ワタシは遅延とした動作でベッドを抜け出た。本当なら、学校に遅刻しかけた時のように、跳ね起きてパパッと準備を整えた方が良かったのかもしれないが、一昨日まで続いた徹夜疲れがまだ完全に抜けきっていない事もあって、身支度にもの凄く手間がかかってしまった。

 結局、外出する用意が出来た頃には、起床して三十分が過ぎてしまっていた。これ以上はノロノロしていられないと、急ぎ足でドアノブを乱暴に回し、外に出る。


 瞬間、視界の端に人影を捉え、ワタシは仰天して反射的に反対方向へと後ずさった。


「えっ」


「あ、すいません。驚かせちゃいましたか」


 爽やかな顔立ちの好青年が、兵舎にもたれ掛かっていた。すぐ隣には、彼の身の丈ほどの大槍が立てかけられている。


「なんだ、ミナーシェだったの……ビックリさせないでよね」


 ワタシはホッと安堵の息をつき、脱力感と共にこめかみを右手で押さえた。


「敵かと思ったじゃない。いつから、ここにいたの?」


「ついさっきからですよ」


 青年は壁に預けていた体を離し、大きく背伸びをしながら口を開いた。


「今朝、フーレンスさんが僕のところを訪ねてきたんです。それで、今日から毎日、マナミさんが自室にいる間、ここを警護するようにって」


 彼の説明によると、朝早くから開かれたゼルリックとの話し合いで、そう決まったらしい。


「あんな物騒な事件の後ですからね。本部だって完全に安全とはいえませんし、念には念を入れて、という事でしょう」


「……そうだったんだ」


 ミナーシェの言葉に相づちを打ちながら、ワタシの脳裏には夜道に消えていくゼルリックの凛々しい後ろ姿が再生されていた。朝早くからフーレンスと会っていたのなら、夜に殆ど眠れていない筈だ。もしかすると、一睡もしていないかもしれない。なら、今頃はようやく眠りにつけているのだろうか。


「どうしました?」


「え? ううん、何でもない」


 彼の問いかけに首を振りつつ、ワタシはそれとなく訊ねた。


「隊長と副隊長は今、どうしてるの?」


「フーレンスさんは本部の自室で仕事をしていると思います。隊長は、例の特命でまた外出中ですね」


 もう少し、体を休めていっても良かったと思うんですけどね。ずっと働きっぱなしみたいですし。青年はそう言葉を発し、困ったように肩を竦めた。


 一方、ワタシの心中には。黒く濁った靄がたちこめていた。


――また、特命で外出……。


 つい先日、王国の中枢に進入されるという大事件があって、今は首都の警戒が最優先事項の筈だ。現に、城の方では数多くの兵士達が休日を返上して働き詰めと聞く。エリュシールだって、祭の巡回という過酷な仕事とヴォリアンの追跡及び捜索というダブルパンチを食らってもなお、平時の任務を継続しなければならないほどだ。


 ゼルリックが単独で動いている極秘の命とは、この状況を無視してでも継続しなければならないほどのものなのか。


「どうしました? さっきからボーッとしてますけど」


「え? う、うん。まだちょっと寝足りないの」


「もう少し休まれたらいかがです? 無理して体を壊しても良くないですから」


「そうもいかないのよ。裏庭でルトレーがワタシの事を待ってるかもしれないし」


「ああ、彼の事なら心配しなくていいですよ」


 フーレンスに指示されて警備に就いた直後、クシャクシャ髪の少年がここを訪れた。話を聞くと、ワタシがなかなかやってこないので、迎えに来たという。ワタシを起こそうかとも考えたが、指導は午後から行うようにと少年には伝えておいた。ミナーシェは朗らかな笑みを浮かべてそう告げた。


「起こして知らせようかとも思ったんですけど、あんまり心地よさそうに眠っている様子だったので、そっとしておこうと思ったんです」


「……ちょっと待って」


 聞き捨てならない表現を耳にしたワタシは、ドキッと心臓を鷲掴みにされたような感覚を抱きつつ、彼の発言を遮った。


「どういう事? 心地よさそうに眠ってたって?」


「ああ、カーテンの隙間から確認したんです」


 青年は事も無げな調子で、


「ドアは閉まってましたからね。ノックしようかとも考えたんですが、そうするとせっかくの安眠を妨げてしまうので。兵舎の横に回って、そっと中を覗いたんですよ」


――って事は。


 一瞬、思考がフリーズしてしまった。続いて、頭にカアッと血の気が上ってくる。


「そ、それじゃ」


 気が動転しつつも、ワタシはしどろもどろで口を開いた。


「ワ、ワワ、ワタシの寝顔を見たわけ?」


「ええ、ぐっすり気持ちよさそうに眠ってましたよ」


「なっ、なな……」


 平然とした笑顔で爽やかに答えられ、ただでさえ熱気のこもっていた頬が、更にヒートアップしていく。


――何やってんのよー!


 そう叫びたかったものの、開きかけた口は水を欲する魚のようにパクパク動くばかりだった。恐らく、ミナーシェの方に悪気があったわけではないだろう。ただ、窓に掛けられたカーテンに隙間があったので、音を立てて眠りを阻害しないよう、そこからひっそりと中の様子を確かめただけの事に違いない。眠気がひどかったとはいえ、戸締まりを不十分にしておいたワタシにも責任の一端はあるし、それは分かっているつもりだ。しかしそれでも、家の中にいる女の寝顔を盗み見するという行為は、幾ら相手に配慮する形で行われたといえども、手放しで許せるような事では――。


 いや、よくよく考えると、問題の本質はそこではなく。


――寝てるときの顔を見られたなんて、恥ずかしすぎるじゃないー!


 自分がだらしない素顔を曝してしまったのかもしれないと思うと、尋常ではない羞恥心が体中を駆け巡り始めた。幾ら化粧品の存在しない世界でスッピンに慣れていたといっても、寝顔まで見られてしまうとは。穴があったら入りたいとは、まさにこの事である。


――鼾とか聞かれていたら……あああああ!


 しかし、目の前に佇む青年はワタシの葛藤に気がついていない様子で、あっけんからんと言った。


「まるで子供みたいで、凄く可愛かったですよ。両手で抱きしめた枕に頬をスリスリとしながら、スヤスヤ寝息を立てて……」


「ああああ! それ以上言わないでええええええ!」


「わっ!? 急にどうしたんですか!?」




 数分に及んだだろうミナーシェの再三に渡る猛説得の末、半狂乱に陥ったワタシは何とか正気を取り戻した。

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