太陽の血と、否定された存在
突然――
同年代と思しき青年が現れた。
端正な顔立ち。どこか異質な気配を纏っている。
滑らかな黒髪に、澄んだ青い瞳。身に纏うのは高位を示す豪奢な装い。
オリオンの視線は即座にその男へ向いた。
青年はオリオンの存在など意に介さぬまま、堂々とアリシアのもとへ歩み寄る。
彼女は彼を見るなり、自然な笑みを浮かべた。
「遅かったわね、レオン」
レオンは躊躇なく彼女に近づき――
その唇に口づけた。
その瞬間、オリオンは動きを止めた。
驚愕が、その瞳にありありと浮かぶ。
レオンは軽く笑った。
「仕方ないだろう、愛しい人」
そしてゆっくりと振り返り、オリオンを値踏みするように見据える。
「ほう……お前が例のオリオンか」
一瞬、彼の姿勢に目をやり、嘲るように口角を上げた。
「さっき、なぜ頭を下げていた?」
アリシアは興味なさげに答える。
「求婚されていたのよ」
レオンは吹き出すように笑った。
嘲笑――それ以外の何物でもない。
「結婚だと?」
冷たい視線がオリオンに突き刺さる。
「本気で言っているのか?」
オリオンはゆっくりと顔を上げた。
低く抑えた声。
「……どういう意味だ。それに、お前は誰だ」
笑みが消える。
レオンの表情が一瞬で冷えた。
「よく聞け、才人気取り」
一歩、距離を詰める。
「俺はレオン王子だ」
視線で押し潰すように続ける。
「第一に――こいつは俺の従妹であり、いずれ婚約する相手だ」
そして、薄く笑った。
「第二に――王族は、王の血を引く者としか結ばれない」
その言葉は、容赦なく突き刺さった。
オリオンは動かない。
アリシアは静かに微笑む。
だがその瞳は冷たい。
「血は純潔であるべきよ」
一歩近づき、声に鋭さが宿る。
「私たちの体には、太陽神の血が流れているのだから」
そして、はっきりとした侮蔑を込めて言い放った。
「どうして私に求婚などできたの?……身の程知らず」
静寂。
オリオンの瞳がわずかに見開かれる。
「……身の程知らず、だと?」
――場面は変わる。
シーロンとオリアナは、王と王妃の前に立っていた。
シーロンが口を開く。
「一つ、ご提案が――」
だが、王は遮った。
「却下だ」
空気が凍りつく。
オリアナが思わず声を上げる。
「しかし、陛下――」
その瞬間。
王妃セレナの視線が突き刺さった。
刃のような冷たさ。
オリアナは言葉を失う。
「同じことは言わせないで」
淡々と、だが絶対的な圧で。
「この話題を二度と持ち出さぬように」
わずかな間を置き――
「もう帰るといいわ」
シーロンはオリアナの手を強く握った。
「失礼いたします」
だがその瞳には、抑えきれぬ怒りが燃えていた。
――その時。
オリオンから、異様な気配が噴き出した。
空気が震える。
レオンとアリシアの身体が凍りついた。
オリオンは俯いたまま、呟く。
「身の程知らず……?」
「俺が……?」
圧が、空間を歪める。
シーロンが即座に駆け寄り、肩を掴んだ。
「オリオン、やめろ!」
反応はない。
オリオンは低く、底知れぬ声で言う。
「父上……五分だけくれ」
ゆっくりと顔を上げる。
瞳には狂気が宿っていた。
「……いや、一分でいい」
「この城ごと、全員潰す」
「やめなさい、オリオン!」
オリアナが叫ぶ。
シーロンは歯を食いしばった。
「……俺も同じ気持ちだ」
だが続ける。
「だが相手が悪い。ここには上位騎士もいる」
鋭く言い放つ。
「必ず、機会は来る」
「その時に、全て奪い返す」
徐々に――
オリオンの気配が収まっていく。
その時――
ミーナが駆け寄ってきた。
その後ろには、泣いているミラ。
「何があったの!?」
オリアナが問う。
ミーナは怒りを露わに叫ぶ。
「あの傲慢な王子に告白したの!」
ミラを指差す。
「でも拒絶された……!」
唇を噛みしめる。
「従妹と結婚するから必要ないって……!」
そして吐き捨てるように。
「“哀れな子猫はいらない”って……!」
空気が凍る。
オリオン、シーロン、オリアナ――
三人の感情が一瞬で変わった。
静かな怒り。
だが――深く、危険な。
――その後。
彼らは城を後にした。
沈黙が続く。
――屋敷。
それぞれが部屋へ戻る。
広間には、シーロンとオリアナだけが残った。
オリアナは怒りを爆発させる。
「何なのあいつらは!」
「自分たちを何様だと思ってるの!?」
拳を握る。
「特にあの王妃……まるで神気取り!」
シーロンは額を押さえた。
「声を落とせ……頭が割れそうだ」
深く息を吐く。
「行くべきじゃなかったな……」
オリアナは冷たく言い放つ。
「もう決めたわ」
「今後、あの連中には正規の対価を払わせる」
シーロンの口元が歪む。
「当然だ……愚か者どもめ」
――その時。
扉が開いた。
オリオンが入ってくる。
手には三通の手紙。
オリアナが振り向く。
「オリオン?どうしたの?」
オリオンは静かに言った。
「父上、母上――」
一拍置く。
「結婚することにした」
シーロンが眉を上げる。
「相手は誰だ」
オリオンは微笑んだ。
冷たい笑み。
「一人じゃない」
手紙を掲げる。
「三人だ」
オリアナが息を呑む。
「三人……!?」
オリオンの瞳が鋭く光る。
「勢力を広げる」
そして、はっきりと。
「ソラリス家に――後悔させてやる」
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