捨てられた手紙と、飽くなき野望
年月が流れた。
オリオンは、もはや見知らぬ世界で目を覚ましたあの子供ではなかった。
十八歳の青年へと成長していた。
整えられた金髪。
深い青の瞳には、常に表に出さない思考が宿っている。
その顔立ちは、求めずとも女性を惹きつけ、
その存在感は、王国中の注目を集めていた。
だが――
彼を本当に有名にしたのは、その容姿ではない。
その「思考」だった。
学院の訓練場。
オリオンは静かに立っていた。
体にぴったりとした黒い訓練着。
鍛えられた体を隠すことなく、両手はポケットに入れたまま。
視線は、目の前の相手を捉えている。
だがそこに、興味はほとんどなかった。
フェンスの向こうには、生徒たちが集まっていた。
女子たちが、彼の名を叫ぶ。
――「オリオン!オリオン!」
対峙しているのはラム。
同じクラスの生徒だ。
両手で剣を握り、緊張で震えながらも、
その瞳には隠しきれない闘志が宿っていた。
ラムは一気に踏み込んだ。
剣が空気を裂き、オリオンへと迫る。
だが――
オリオンはわずかに体をずらしただけだった。
まるで、その攻撃に価値がないかのように。
次の瞬間、
彼の蹴りがラムの腹に叩き込まれた。
計算された一撃。
ラムは膝をつき、荒い息を吐いた。
オリオンはゆっくりと手を伸ばした。
掌の上に、青い魔力が集まる。
冷たい光を放つ塊。
それは、ラムの顔のすぐ前で止まっていた。
あと一歩で――終わる距離。
しかし、
オリオンはそれを消した。
再び手をポケットへ戻す。
そして、見下ろすように言った。
――「まだやるか?」
ラムはゆっくりと立ち上がり、
そして苦笑した。
――「いや……差は分かったよ。」
――「お前の方が強い。認める。」
しばらくして、
オリオンは服を着替えた。
貴族の礼装。
濃い色のスーツに、長い青のコート。
それはまるで、静かな翼のように肩を包んでいた。
学院を後にする。
街では、人々が壁に設置されたスクリーンの前に集まっていた。
それは――オリオン自身が開発した装置だった。
画面の中で、美しいアナウンサーが語る。
――「本日、王城にて――」
――「ソラリス王家は、ヴァレリウス家の子息オリオンを表彰します。」
――「王国の発展に大きく貢献した彼の発明に対してのものです。」
オリオンは一瞬だけ画面を見た。
そして、わずかに微笑んだ。
歩き出す。
(今日は――お前の日だ、オリオン。)
(すべてが、完成する日だ。)
屋敷に到着した。
扉が開く。
――「父上と母上は?」
――「旦那様はまだ会社からお戻りではありません。奥様は庭園にいらっしゃいます。」
――「姉たちは?」
――「ミラ様とミーナ様は、お部屋で今夜の準備を。」
オリオンは軽くあくびをした。
コートを脱ぎ、メイドに渡す。
――「洗っておいてくれ。それと……少し寝る。」
メイドが受け取った瞬間、
ポケットから三通の手紙が落ちた。
――「オリオン様……こちらが。」
オリオンは一瞥もせず、それを受け取った。
そのまま部屋へ向かう。
扉を閉めた。
ベッドに倒れ込む。
そして、手紙を開いた。
三通。
三人の少女。
すべて――求婚の手紙だった。
数秒、目を通す。
そして、引き出しにしまった。
興味はなかった。
天井を見つめる。
(今はどうでもいい。)
(重要なのは――一つだけだ。)
(王女。)
(今夜、あれを手に入れれば――)
(王国が手に入る。)
オリオンは目を閉じた。
そして――眠りに落ちた。
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