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婚約破棄された公爵令嬢ですが、実は水の女神の娘でした~海の神に溺愛されて、王都には戻れません~  作者: 第三次ニート危機


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1話

アクセスいただき、ありがとうございます。

本日は2話投稿です。

全部で10話ほどになる予定です。

遅筆ですが、毎日投稿を目指して頑張りますので、応援よろしくお願いします。

とても喜びます。

「公爵令嬢、エウフェミア・ルミナリエ!お前との婚約を破棄する!」


冷たい声が、舞踏会の会場に鋭く響き渡った。


一変した空気に、ワイングラスを傾け談笑していた貴族たちは一斉に動きを止め、視線を一点に集中させた。


声の主は砂漠の王国、サハール国の王太子ライオネル。その隣には、純白のドレスを纏った豊かな金髪を持つ美少女―リリーが寄り添うように立っていた。


華奢な体に纏ったドレスには、ダイヤモンドがふんだんに鏤められていた。

光を受けるたびにそれは静かに瞬き、彼女の姿をどこか現実離れしたものに見せている。


相対する公爵令嬢のエウフェミア・ルミナリエは、シンプルながら仕立ての良い青いドレスに身を包んでいた。胸元のネックレスのみが、わずかな光を返している。

背筋をすっと伸ばしたその姿には一切の乱れがなく、澄んだ水色の目をわずかに細めると、彼女はシルクの上品な扇子の陰で優雅に微笑んだ。


「……理由をお伺いしても?この婚約は王命だったはずですが……」


凜とした声が響く。だが、その声の奥には、何かを我慢するかのようなかすかな震えが含まれていた。


ライオネルは嘲るような笑みを浮かべ、エウフェミアを睥睨(へいげい)した。


「理由はわかりきっているだろう。おまえは聖女であるリリー嬢を無意味に虐げている悪役令嬢に他ならない。聞くところによると、責務である祈りをすべてリリー嬢に押しつけていると言うじゃないか。私の妃にふさわしいはずがない。」

「なにより、婚約はルミナリエ家との契約だ。リリー嬢でも問題あるまい。」


ざわり、と会場の空気が揺れた。


「聖女様を虐げるだなんて……」

「リリー様がお祈りをしてくださっているから、この国は雨に恵まれているのに」

「それに比べて、エウフェミア様は……」



ひそひそとささやき声が広がっていき、貴族たちの視線がゆっくりとエウフェミアに収束していった。


リリーはその中心で、悲しげに目を伏せた。


「お姉様は悪くないのです。ただ、わたくしが至らないばかりに…」


震える声で弁解するリリーに、貴族たちは一斉に感嘆の吐息を漏らした。


「まあ、なんとお優しいのでしょう……!」

「エウフェミア様とは大違いですわ」


そこへ、低く重い声が割り込んできた。


「ライオネル殿下」


現れたのは、ルミナリエ公爵―エウフェミアとリリーの父だった。

彼はエウフェミアには目も向けず、ライオネルの方へ歩み寄った。


「リリーは優しく、民に慕われている上に能力もある」


その言葉に、エウフェミアの指先がわずかに震えた。


「それに比べて、エウフェミアは……」


公爵はそこで声を切り、冷ややかな目を娘に向けた。


「殿下。私もこの婚約破棄に異論はありません。」


一瞬、場が凍り付いた。しかし、次の瞬間、貴族たちの間にざわめきが広がった。


「当然の判断だな」

「責務も全うできない王太子妃などありえませんわ」


エウフェミアはただ、静かに全てを聞いていた。


「承知いたしました。」


彼女は淡々と一礼し、背筋を伸ばした。


「それが殿下と父上のご判断であるならば、従いましょう」

「では、これにて失礼いたします。皆様、お騒がせして申し訳ありません」


舞踏会の会場は、新たなゴシップに沸き立ち、誰一人として彼女を引き留めるものはいなかった。



扉が閉じた瞬間、エウフェミアは小さく息を吐いた。

会場の外の廊下は、嘘のように静かだった。

彼女は扇子を握る手をゆっくりと緩め、代わりに母親の形見である水色の宝石を中央にあしらったペンダントを強く握りしめた。



「今日から祈るのはやめましょう」


誰に言うともなく、エウフェミアは呟いた。

夜空には雲ひとつ無く、晴れ渡っていた。


「やはり、お父様はリリーの方が可愛いのね」

「わたくしはお母様に似過ぎていて、見るだけでお父様を苦しめてしまうのですわ」


その言葉は、誰にも届かないまま夜に溶けた。

ただ、夜風だけが返事をするように、そっと前髪を揺らした。



*****



離れの部屋に戻ったエウフェミアが扉を閉じると、外の世界の音がふっと遠ざかった。

ひとりになったその瞬間、彼女の周りに水色の光が淡く浮かび上がる。


『えうふぇみあ、おつかれ』

『えうふぇみあ、だいじょうぶ?』


小さな水の精霊が、髪を梳かすようにすり抜けた。

結い上げられていた銀髪が一筋ほどけ、肩へと流れ落ちていく。


「そうね、少しつかれた気がするわね」

エウフェミアがそう言うと、精霊たちは心配そうに光を揺らした。


『えうふぇみあ、おこってる?』

『らいおねる、うるさい』

『らいおねる、いやなにおい』

『うそ、すぐわかる』


水の精霊たちは彼女を囲むように舞いながら、口々に好き勝手な言葉をこぼした。

夜会のために整えられていた髪が、くすぐられるように少しずつほどけていく。

癖のないつやつやした銀髪が月の光を反射し、柔らかに輝いていた。


「ありがとう、みんな。怒ってはいないわ。ただ、すこし……そうね、寂しいだけよ」


エウフェミアは小さく口元を緩める。


「でも、あの方は王太子様なのだから、あまり悪く言ってはいけないわ」


そうたしなめると、エウフェミアは「つん」と光をちいさくつついた。

精霊は驚いたようにはねて、くるくると回るように明滅した。


『いま、さわった』

『さわられた』


精霊たちの声に応えるように、エウフェミアは指を彼らに差し伸べた。


『えうふぇみあ、あったかい』

『すき』


机の上の水差しには、澄んだ水が満ちている。

誰かが運んできたわけではない。精霊たちが、気づけばそこに用意しているのだ。


『おゆ、あっためた』

『いいにおいにした』


「あら……ありがとう。優しいのね。わたくし、この香りとても好きよ」


感謝された精霊たちは満足したようにふわりと光を緩めた。

その夜、エウフェミアは精霊たちに手伝われながら、湯浴みを済ませた。

静かな水音だけが、部屋の奥でわずかに揺れていた。


湯から上がると、髪から雫が落ちる前に、風がふわりと部屋に満ちた。


『かぜ、いる』

『とおる』

『いいかおり』


目に見えない風が、銀色の髪の間をすり抜けていく。

香油をつけたわけでもないのに、淡い香りを纏った風が髪をゆっくりと乾かしていった。


その香りは、どこか遠い記憶を撫でるように優しく、胸の奥に残っていた痛みを静かにほどいていく。

エウフェミアはふと遠い目をした。

(――お母様)

声にならないささやきが、胸の奥に沈む。


「ありがとう、風の精霊。いつも助かるわ」


風は返事をするように一度だけ部屋の灯りを揺らし、やがて静かに消えた。



*****



その夜、エウフェミアは夢を見た。


そこは広い海だった。

月の光に照らされて、仄かに輝いている海の真ん中に青年が佇んでいた。

白い髪に褐色の肌、そして印象的なのは深い海を湛えたような色の瞳であった。


この世の者とは思えないほどの美貌を持つ彼はエウフェミアに気付くと、口元に笑みをうかべ、彼女に近づいてきた。


「久しぶりね、オーシャン。今日も夢で会えるなんて嬉しいわ」


誰にも邪魔されない、エウフェミアだけの時間。

それを存分に味わうかのようにエウフェミアは大きく息を吸い込み、潮の匂いとともに本心を吐き出した。


「今日、婚約破棄をされたのよ。あんなにも頑張っていた私が馬鹿みたいね」


ここにはエウフェミアと青年オーシャン以外誰もいない。

彼女は安心し、満面の笑みをうかべた。


「でも、すっきりしたわ。殿下とは合わないと思っていたの」


エウフェミアは強がるように嘯いた。


「今までずいぶんと精神を削られていたようだからな。私の前では強がる必要などないぞ。今はゆっくり休むと良い。」


青年は柔らかな微笑みを浮かべ、エウフェミアに優しく囁いた。


「さあどうぞお嬢様。海のお散歩をしましょう」


彼はエウフェミアを海に誘った。


「ありがとう、オーシャン。今日も海中のサンゴ礁や魚たちを見るのが楽しみだわ」


エウフェミアは嬉しそうに微笑み、その誘いに乗った。


サンゴ礁の並木通りを通り抜け、エウフェミアは軽い足取りで歩みを進めた。


「海はとっても綺麗ね!わたくし、この世界が好きよ。現実でも実際に見てみたいわ!」


魚たちと戯れながら、エウフェミアは泡を吐き出してそう言った。

その泡にくすぐられたオーシャンは、嬉しそうな顔で口を開いた。


「ならば港町に向かえば良い。お前が海を好きになってくれて嬉しい」


エウフェミアは少し考えてからためらうように口を開いた。


「そうね、もう自由の身ですもの。海を見に行っても良いのですわ」


オーシャンは逡巡するエウフェミアを宝物のように見つめた。


「待っているぞ、エウフェミア」


そう呟いた声はとても小さく、エウフェミアに届くことは無かった。



*****



そして翌朝、エウフェミアは最低限の荷物だけを持って、王都を去った。

亡き母にあまりにも似ている彼女は、それを理由に公爵から疎まれ、本邸ではなく離れで暮らしていた。


その存在を惜しむものは誰一人としていなかった。

離れの部屋も、廊下も、最初から誰もいなかったかのように静かだった。


エウフェミアは静かに王都から姿を消した。


『……』

『しずか』

『みずが、ひく』


水色の光が、夜明けの空に溶けるように揺れていた。


その日の王都は、いつもと変わらぬ朝を迎えていた。

空は澄み渡り、風も穏やかで、誰もそれを異常とは思わなかった。


ただひとつだけ。

井戸の水位がわずかに下がっていた。



最後までお読みいただきありがとうございます。

もし少しでも「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援いただけると励みになります。


感想もとても嬉しいです。今後の執筆の参考にさせていただきます。


引き続き、本作をよろしくお願いいたします。

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